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エステライヒ空軍

……………………


 ──エステライヒ空軍



 ピエール・クロステルマン空軍基地に2隻の巨艦が並んでいる。


 一方は私たちの空中戦艦ウォースパイト。


 もう1隻はエステライヒ空軍の空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセ。


「こんなに間近で見ることになるとは思いませんでした」


「私もだ」


 私がスケッチブックを広げて言うのにアーサーが頷く。


 フリードリヒ・デア・グロッセは私たちが停泊しているエプロンのすぐ隣に並んで停泊しており、ウォースパイトからは双眼鏡を使わなくても細部が見えた。


「エステライヒ空軍の連中、こっちに興味があるみたいだぞ」


「手でも振ってやってよ」


 ウォースパイトの乗員たちはそう言いながらも、自分たちもエステライヒ空軍の最新鋭艦に興味津々の様子だった。


 むろん、エステライヒ空軍の将兵たちも私たちに興味があるのか、フリードリヒ・デア・グロッセから私たちの方を見ようと列を作っている。


「諸君! 整列!」


 そこでイーデン大尉がハンガーに戻ってきて、私たちが慌てて整列。


「先ほど連絡があったが、フリードリヒ・デア・グロッセから航空ショーの開催に当たって連絡将校が派遣されてくる! それからそれに伴い向こうの艦長がウォースパイトを表敬訪問するそうだ!」


 え! エステライヒ空軍の軍人がウォースパイトに乗り込むの?


「また航空ショーに当たって飛行科はジョンソン中尉とストーナー伍長が展示飛行を行う! それについてもフリードリヒ・デア・グロッセ側から隣を飛ばせてほしいと要望があった!」


「では、フリードリヒ・デア・グロッセのドラゴンと一緒に飛ぶのですか?」


「そうだ。フリードリヒ・デア・グロッセにも2頭のドラゴンが艦載されている。連中に抜かれるようなことがないように!」


「了解!」


 イーデン大尉が気合を入れるのに私たちが応じる。


「エステライヒ空軍のドラゴンと飛ぶのは初めてですね」


「エステライヒ空軍の飛行艇と飛ぶのも」


 ウィーバー上等兵が飛行甲板の先に見えるフリードリヒ・デア・グロッセの方を向いてそういい、私が頷く。


 誰も緊張している様子だった。何せ、あの空中戦艦が現れたせいで、私たちの予定は滅茶苦茶になってしまってるのだ。それなのにフリードリヒ・デア・グロッセからは謝罪どころか、さらなる要求である。


 既にエステライヒがアルビオンとかなり緊張が高まっている国家であるというのは乗組員たちに伝わっており、彼らはより緊張していた。


「来たぞ。フリードリヒ・デア・グロッセの艦長と連絡将校だ」


 そこで外を見ていた野次馬たちがささやくのが聞こえ、私も外を見る。


 王立空軍と同じ白い軍服を纏った2名の将校が車でウォースパイトのタラップまでやってきて、タラップを登り始めた。ここからでは確認できるのはそれだけだ。


「ストーナー伍長!」


 と、ここで何故か私の名が呼ばれる。


「艦長から同席するようにとの指示が出た。いざという時はお前が連絡将校をフリードリヒ・デア・グロッセに送り届けることになるからだとのことだ。では、私と一緒に来るように!」


「は、はい!」


 これまで偉い人がウォースパイトにやってきても私は特に関係なかった。だが、どうやら今回はそういうわけにはいかないようだ。


 私はイーデン大尉に案内されて士官室に向かった。


「失礼します!」


 私とイーデン大尉はそう挨拶して、入室。


「ご苦労、イーデン大尉、ストーナー伍長。紹介しよう、こちらはフリードリヒ・デア・グロッセ艦長のエルヴィン・フォン・ルックナー大佐と連絡将校のエミール・フォン・ヴァイクス少佐だ」


 タワーズ艦長がそういってふたりのエステライヒ空軍将校を紹介する。


 ルックナー艦長はタワーズ艦長と同年代ほどの男性で、堀が深く、僅かに顎鬚を蓄えていて、いかにもな貴族っぽい顔立ちをした人だった。


 ヴァイクス少佐の方はまだ若いが、アーサーよりは明らかに年上だ。エステライヒの人として想像するまるで絵に描いたような金髪碧眼な男性で、そのせいか逆にらしくない感じですらあった。


「この度は唐突な申し出を快く受け入れてくださって感謝します」


 ルックナー艦長はそう挨拶する。


 ルックナー艦長のその言葉にウォースパイトの士官たちがむっとするのが分かった。私たちは別にフリードリヒ・デア・グロッセの横入りを快く受け入れたわけではなく、渋々同意しただけだ。


「しかし、我々が来たことでそちらのスケジュールが狂ったとの報告も受けております。その点についてエステライヒ空軍を代表して謝罪します。申し訳ない」


「お気になさらず、ルックナー大佐。顔を上げてください」


 頭を下げるルックナー艦長にタワーズ艦長がこれまでの友人であるかのように話しかけ、ルックナー艦長の頭を上げさせた。


 一連のことで士官室に満ちていた敵意と緊張が少し和らぐのが分かった。


「ありがとうございます、タワーズ大佐。あなた方と肩を並べて飛べる栄誉を得られたことを嬉しく思います。では、こちらから派遣するヴァイクス少佐をお願いします」


「ええ。確かに受け入れました」


 思ったよりエステライヒ空軍の代表であるルックナー艦長が高圧的ではなく、それどころか非常に腰が低いことに、私たちはすっかり毒気を抜かれていた。


 ルックナー艦長の態度は自ら進んで横入りしたり、私たちの邪魔をしたりしたという感じではなく、やはり国のためにやむを得なかったという感じがするのだ。


 そして、それからルックナー艦長がウォースパイトを去ると、ヴァイクス少佐が私の方にやってきた。


「君が連絡飛竜の騎手か?」


 ヴァイクス少佐は流暢なアルビオン語でそう尋ねてきた。


「その通りです、少佐」


「よろしく頼む。ところで、私のアルビオン語はどうか?」


 私が頷くのにヴァイクス少佐がニッと笑ってそう問いかける。


「お上手ですよ」


「何よりだ。よければ連絡飛竜を見せてもらえるだろうか?」


「上官に許可を得てからになりますが、よろしいでしょか?」


「もちろんだ」


 そこで私はイーデン大尉の方を向く。


「イーデン大尉。ヴァイクス少佐をハンガーにご案内してもよろしいでしょうか?」


「許可する。丁重にな、伍長」


「了解」


 というわけで、私はヴァイクス少佐をハンガーに案内することに。


「ここがウォースパイトのハンガーです、ヴァイクス少佐」


「ほう。我々のハンガーより広いな……」


 ヴァイクス少佐はそういってゆっくりとウォースパイトのハンガーを見渡す。


「こちらが私の相棒(バディ)である連絡飛竜のワトソンです」


「やあ、お客さん。あなたがエステライヒ空軍の人かい?」


 私はワトソンを紹介するとワトソンがそう尋ねた。


「ヴァイクス少佐だ。よろしく、ワトソン。君はかなり健康的に見える。いつもそのような元気さなのかね?」


「まあ、大体は。ここには新鮮なご飯もあるし、お医者さんもいるからね」


「なるほど……」


 ワトソンの言葉にヴァイクス少佐は何やら考え込んだ。


「どうしました?」


「私もかつては飛竜騎手だったのだ。しかし、我が国のドラゴンは長期任務の際には病気になったり、ストレスで気を病むことがある。君たちはその点を非常に上手くやっているようだ。かつて飛竜騎手だったものとして敬意を示させてもらいたい」


「それはありがとうございます。ここにいる飛行科全員のおかげですよ」


 私はヴァイクス少佐の言葉にドラゴンが好きな人だということを感じ取った。


「そちらのドラゴンは?」


「偵察飛竜のグロリアです。騎手はジョンソン中尉となります。彼です」


 私はハンガーで待機していたアーサーを指し示す。


 ヴァイクス少佐はアーサーをじっと見つめると、彼に歩み寄った。



「失礼、中尉。以前どこかで会わなかっただろうか?」



……………………

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