切り札を活かす方法
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──切り札を活かす方法
アルビオンとガリアの同盟を成すための切り札。それはウォースパイトだ。
私たちはまず大使館へ向かう。着替えたり、ラムリー中佐と合流したり、いろいろとやるべきことがあるからだ。
「どうでしたか、殿下?」
「首の皮一枚だが、まだ望みはある。ストーナー伍長が問題を空軍力の劣勢・優勢のそれにまで持ち込んでくれた」
「ふむ。交渉の推移を聞かせていただいても?」
それからアルバートは会談の場にベルナール副首相が現れたことや、ガリアがエステライヒを恐れて中立を維持しようしていることなどを語り、そこから私が空軍の話題を持ち出したことを告げた。
「なるほど。ストーナー嬢、アルビオンに対するその貢献に感謝します。あなたのおかげで希望が見えたと言っていい」
「ありがとうございます」
ラムリー中佐が珍しく褒めてくれたので私は素直に頷いた。
「できればウォースパイト以外にも応援を呼びたいところですが、エステライヒ空軍の演習が始まったせいで本国は応援を寄越せないと言っています。ウォースパイトだけが私たちが使える駒です」
「ウォースパイトは最新鋭艦です。王立空軍の実力を示すにはもってこいです」
「そう。ひとつの戦力としてのウォースパイトは王立空軍でも有数のものだ。しかし、空軍という組織の実力を示さなければ、ガリアが期待しているのはウォースパイトだけではない」
「それはそうですが……。今はあるもので解決しなければ」
「ええ。分かっている。ただ私も愚痴りたくなっただけだ」
ラムリー中佐はそういって力なく笑った。
「殿下。タワーズ大佐がお見えです」
「通してくれ」
ここでウォースパイトからタワーズ艦長がやってきた。
「艦長!」
「ストーナー伍長。事情は分かっている。気にしなくていい」
私がドレス姿のままなのにタワーズ艦長は何も咎めなかった。本当なら性別を偽って入隊していることを咎められるはずなのだが。
「殿下から事情は聞いているよ。それから君のことについて寛大な処置を、とも」
「やはりこれが終わったらウォースパイトを降りることになるのでしょうか……?」
「君が望むならそうするが、君はウォースパイトを降りたいのかね?」
「い、いいえ!」
「ならば、これからも空軍将兵として義務を果たすといいだろう。私は君が私の艦で軍務に従事していることを問題だとは思わない」
タワーズ艦長はそういって優しく声をかけてくれた。
「タワーズ艦長。相談したいことがある」
「お聞きしましょう、殿下」
それからアルバート殿下はタワーズ艦長にこれまでの経緯と、ウォースパイトがその実力を示し、ガリアを勇気づける必要性を説いた。
「事情は分かりました。であれば、両国の友好を示すための航空ショーを提案してはどうでしょうか?」
「航空ショー?」
タワーズ艦長の提案にラムリー中佐が首を傾げる。
「そうです。これまでいくつかの国を訪問した際に、相手国の空軍だけでなく、市民とも交流を行うために航空ショーをやったことがあります。ガリア政府の許可が得られれば、行えるでしょう」
「そして、その場でウォースパイトの優れたところを見せる、と」
「優れたところが伝わるかは分かりません。ですが、ルーテティアの上空を飛ぶのがフリードリヒ・デア・グロッセだけではないと、そう市民が理解すれば事情は変わるのではないですかな?」
タワーズ艦長はそうアルバート殿下たちに提案した。
「いいアイディアだと思いますよ! 航空ショーをやりましょう!」
「ああ。ガリアを威圧することなく、友好的に我々の能力を示す機会になる。頼めるか、ラムリー中佐?」
私が訴え、アルバート殿下も頷いて見せる。
「エイコート卿とも話し合って実行しましょう。まずはガリアから許可を得なければ」
ラムリー中佐はそういって動き出した。
それから全員が慌ただしく動く。
アルバート殿下とラムリー中佐、それからエイコート卿がガリアから航空ショーの許可を得ようと奔走。
私とタワーズ艦長は航空ショーでウォースパイトを最大に魅せる方法を探る。
夜から朝にかけて、朝から昼に向かって。私たちは食事もせずに必死に考えを巡らせ、あちこちを走り回った。
「許可が取れた」
そして、大使館に戻ってきたアルバート殿下がそう告げる。
「ガリア政府は我々の航空ショーに許可を出してくれた。2日後の1100から1230までの間、ガリア政府が指定するルーテティア上空を飛行していいとのことだ」
「やりましたね!」
「ガリア市民に訴えよう。王立空軍が、アルビオンが同盟に値すると」
私が歓声を上げるのにアルバート殿下は力強くそういった。
「タワーズ艦長。準備をお願いする。私もあなたの指揮下で最善を尽くすつもりだ」
「ええ。私も祖国のために尽力しましょう」
タワーズ艦長はアルバート殿下の言葉にしっかりと頷いた。
「私も祖国のために頑張ります!」
と、私が威勢よく宣言したところで私たちのお腹が鳴った。
「あ。その、食事をしてからですね。ええ」
「大使館スタッフに軽食を準備してもらいましょう」
私が顔を赤らめて言うのに、ラムリー中佐はそういい、大使館スタッフの人たちがサンドイッチを準備して持って来てくれた。
私たちがそれを食べながら、航空ショーに意気込んでいたときだ。
「失礼します!」
大使館スタッフが慌ただしく入ってきて──
「……ふむ。本当ですか?」
「はい。エイコート卿からも連絡が」
「分かりました。ご苦労様です」
大使館スタッフが何事かをラムリー中佐に告げ、ラムリー中佐が私たちの方を見る。
「あまりよくない知らせのようですな」
「ええ、艦長。よくありません」
タワーズ艦長が言うのにラムリー中佐が眉間にしわを寄せて告げる。
「我々の航空ショーにフリードリヒ・デア・グロッセも参加させろとエステライヒ空軍が言ってきたそうです。そして、ガリアは先ほどそれを了承しました」
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