ガリアへようこそ
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──ガリアへようこそ
ウォースパイトは問題なく飛行を続け、ガリア共和国の空域に入った。
「あ! 見てください! ガリア空軍が迎えに来てくれましたよ!」
私がハンガーから外を指さして言うのに、飛行科の将兵が外を見る。
ガリア空軍に所属するエドガー・キーネ級空中巡航艦1隻が私たちの前に現れ、そこに乗っている乗員たちが私たちに帽子を振って出迎えてくれた。そして、私たちを導くように前方を飛んでいく。
ウォースパイトはそのガリア空軍の誘導に従って、ガリア領空を飛行し、首都ルーテティアを目指した。
「見えてきたか?」
「何も見えない」
「凄い綺麗な街らしいぞ」
ウォースパイトの空軍将兵たちは早く噂のルーテティアを見たいと地上に目を凝らす。それでも今日は雲が多くてなかなか見えてこない。
「見えませんね、ルーテティア。花の都というぐらい華やかな街らしいですが」
「見ませんね。今日は雲が多いです」
オライリー伍長と一緒に地上を見るが、まだまだルーテティアは見えない。
『艦長より前乗組員へ。これより本艦は降下する』
「あ。そろそろみたいですよ」
艦長の声がスピーカーで響き、私たちは降下に備える。
ゆっくりと私たちを乗せたウォースパイトは降下を開始。無数の雲を抜けて、そして地上が見え始めた。
「見えた! ルーテティアだ!」
「本当だ」
ウィーバー上等兵が叫び、全員が地上を見る。
地上にはドーンハーバーの何十倍も大きな都市が広がっていた。色鮮やかで綺麗な建築部が並ぶ、その都市は計画された都市らしく環状道路が木の年輪のようにぐるぐると渦巻く様子が見える。
「凄い綺麗な街だなあ」
私たちはそう簡単の息を漏らし、暫し地上に移るルーテティアに見入った。
「着陸準備だ! 急げ、急げ!」
ルーテティアに着いたと思ったら次は慌ただしく着陸の準備だ。
私はピエール・クロステルマン空軍基地に着陸することになってている。ガリア空軍に基地まで誘導してもらい、そこで着陸するよう予定だ。
その問題のピエール・クロステルマン空軍基地はルーテティアのすぐ郊外に位置していた。
ウォースパイトはゆっくりと降下し、滑走に降り立つと、減速して誘導路に入る。
「着いたぞー!」
そして、無事にウォースパイトはピエール・クロステルマン空軍基地に着陸。
「甲板に整列! 急げ、急げ!」
だが、到着を祝う暇もなく、イーデン大尉に急かされて私たちは甲板に並ぶ。
ピエール・クロステルマン空軍基地のエプロンには小さな軍楽隊が待機しており、彼らが音楽を奏で始めた。それはアルビオン国歌だ。
それから青い軍服の老齢の男性とスーツ姿の男性が、エプロンに走ってきた車から降りてくる。そこに私たちが運んだ外務省のエイコート卿が降りていき、握手を交わしているのが見えた。
エプロンにはそれらの他に新聞社と思しきカメラマンが詰め寄せていた。彼らは握手を交わすエイコート卿やエプロンに停泊している私たちが乗るウォースパイトの姿を写真に取っている。
私も彼らが使っているみたいなカメラがほしいけど高いんだよね。
「これよりガリア空軍参謀総長閣下とガリア空軍大臣閣下がウォースパイトを表敬訪問される! 失礼のないように!」
と、そんなことを思っていたらイーデン大尉が全員を集めてそういった。
「俺たちのところにも来るのかな?」
「どうでしょう?」
オライリー伍長が首を傾げるのに私も首を傾げた。
それからタラップを登ってガリア空軍参謀総長閣下とガリア空軍大臣閣下がいらっしゃった。彼らはこんな大きな空中戦艦を見たのは初めてだという様子で、いちいち驚きながらウォースパイトを見て回っていた。
だが、結局彼らは私たちのところまでは来なかった。
「ガリア空軍は我々の空中戦艦の大きさに驚いてたようだ。彼らも空中戦艦は持っているが我々より少数だし、大きさも小さい。驚くのは当然だろう!」
イーデン大尉はそう語る。
「むろん、だからと言ってガリア空軍の練度が低いわけではない。我々はあくまでこれより空軍同士の意思疎通を明確にするために、彼らと交流することになる!」
私たちはガリア空軍といざというとき合同作戦が実施できるようにすることも目的のひとつとしている。
私とアーサーも初日の日程はウォースパイトと同じくし、それから極秘の外交交渉に挑むことになっているのだ。
「我々飛行科は合同での偵察活動及び負傷者の搬送をガリア空軍と行う! 気合を入れていくように!」
「はい!」
私たちはガリア空軍とともに偵察飛行を実施し、その後ウォースパイトで生じた負傷者をガリアの病院に搬送するという想定の演習に従事する。
そのはずだったのだが──。
「あれは!」
「大尉! あれを見てください!」
急にハンガーが騒がしくなり、私たちは外を見る。すると……。
「あれは……エステライヒ帝国の空中戦艦……!」
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