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ちょっとした散歩

……………………


 ──ちょっとした散歩



「どうです、アーサー?」


 私は少し恥ずかしいながらも、せっかくおめかししたのでアーサーに感想を訪ねた。


「ロージー。君は本当に女性なんだな……」


 アーサーが思わずそう言うのにずっこけそうになった。


 ここまでやらないと女じゃないって思われてのか……。


「それは流石に失礼ですよ、ジョンソンさん」


「あ! い、いや! すまない! そういう意味で言ったわけでは! ただ、これまで本当に男だと思っていたのでつい……」


 レクシーさんが苦言を呈するのにアーサーが素直に謝罪する


「綺麗だ、ロージー。とても綺麗だ」


「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ」


「お世辞というわけでは……」


 馬子にも衣裳とは言ったものだし、私のような素材の悪い人間でも、高いドレスとアクセサリーで包めば多少なりとマシになるだろう。


「ジョンソンさんもお気に召したならば問題はありませんね。これで行きましょう」


「あの、化粧落としていいですか? これからまた基地に戻るので」


「それはちょっともったいないですね。せっかくですのでジョンソンさんとそのまま王都を見て回ってはどうです?」


 私がそう求めたときにレクシーさんがそういった。


「ええ!? こんなドレスでうろついたら変な人ですよ!」


「それなら普段着も準備しておきましょう。何があるのか分からないですよ」


 いいように転がされたような気もする。普段着は流石に要らないと思うのだが、レクシーさんと店員さんは私のことを、もはや完全に着せ替え人形にしてしまっているのだ。


 そんなこんなで普段着としてウェストの高いロングのスカートにブラウスというものを押し付けられてしまった。


「では、いってらっしゃい。楽しんで!」


 私たちはレクシーさんに見送られて、街に繰り出した。


「アーサー。やはり髪が短いと化粧してもあまり映えませんね」


「君は十分に女性らしく、そして美しいよ。君は苦労をかけているが、君が私のパートナーになってくれてよかった」


「あはは。そこまで言ってくれるなら安心です」


 お世辞でもここまで言ってくれるなら頑張った甲斐があるというものだ。頑張りの8割ぐらいはお財布だろうが。


「そこのお兄さん、お姉さん! カップルなら今の時間帯半額だよ!」


「カップルじゃないでーす」


 喫茶店に客を呼び込もうとする男の子に私が意地悪気に笑ってそう返す。


「そ、そうだね。私たちはカップルでは、ない」


 アーサーがそうこくこく頷いていた。


「アーサーは王都には詳しいですか?」


「すまない。あまり詳しくはないんだ。ほとんど城で過ごしているから……」


「では、軽く回って帰りましょう。正直、こんなところを空軍の同僚に見られたら、大変なことになってしまいます」


「ああ。それもそうだ。軽く散歩をして、軽食を食べて戻ろう。君も朝からずっとドレス選びでお腹が減ってはいないか?」


「確かに。緊張が解けてくると少し減って来ました」


 お高いドレスやアクセサリーに囲まれてお腹が減るどころではなかったが、そこから解放されると朝から今まで何も食べていないことにお腹が減ってきてしまった。


「一軒だけ喫茶店を知っている。そこに行こう」


「はい」


 アーサーに連れられて私は喫茶店へ。


 ちょっと古い雰囲気ながら、落ち着いていて、静かな空気の喫茶店にアーサーは私を案内してくれた。


「サンドイッチを紅茶を」


「あ。私も同じものを」


 何を頼んだらいいのか分からなかったので、ここはアーサーと同じものを頼む。


「ロージー。君はいつまで空軍に在籍するつもりなのだろうか?」


「まだ決めてませんが、正体がばれる前には退散したいですね。それとドラゴンや空中戦艦に乗れなくなっても除隊を申請しようと思います」


「そうか……」


 アーサーは私の言葉に考え込むように頷いた。


「アーサーはこの任務は終わったら空軍を出るんですか?」


「いや。残るつもりだ。王室の人間は軍務に従事するという伝統がある。私もその伝統に倣って空軍で軍務を果たすつもりだ。一部の人間には正体を明かす形で」


「艦長はご存じなんですか?」


「ああ。知っている」


 タワーズ艦長なら知っていても漏らしたりしないから安心だね。


「イーデン大尉には?」


「彼には明かすかもしれない。この任務が終わった後に空軍が恐れているのが、もし敵に私の居場所がばれて、私が捕虜になるようなことだ。敵に正体をもらさないのであれば、オライリー伍長にも明かしていい」


「オライリー伍長は秘密を守る人ですよ!」


「ああ。それから、何より私の正体を絶対に明かさなかった君に感謝したい」


 アーサーはそう言って頭を下げた。


「やめてくださいよ。私だってアーサーに女だってばらされないって信じてますし。お互い様ってことでいいじゃないですか。この件で貸し借りはなしです」


「そうだね。君はこういうのは好きじゃなさそうだと思った」


「そうです、そうです」


 私はアーサーの言葉に頷く。


「しかし、何か私から君に送らせてはもらえないだろうか? 君は私にドーンハーバーの街を紹介してくれた。そのお礼だと思ってくれ。私や君の正体とは関係ない」


「ふむ。そうですか。考えておきます。いずれお願いしますね」


「ああ。必ず」


 まあ、無理にアーサーに返してもらわなくていいし、いつか食事をした時に支払いを持ってもらうだけでもいい。


 私はそう深く考えずにいた。



 この時点でアーサーが何を思っているかなど、私には知りようがなかったのだ。



……………………

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