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彼? 彼女?

……………………


 ──彼? 彼女?



「ストーナー伍長。少しいいだろうか?」


 ハンガーでワトソンの様子をみていたときだ。深刻そうな表情をしたアーサーがやってきたのに私は首を傾げる。


「どうしました?」


「頼みたいことあるんだ。付き合ってくれるだろうか?」


「ええ。もちろん」


 何の用事かは分からないが、アーサーの頼み事には乗ると約束している。それにアーサーには私もいろいろと助けられているので、頼みを断る理由はない。


 私はアーサーに付いていく。


「あの、どこに行くんです?」


 いつの間にか私たちはウォースパイトを降りており、リバティウィング空軍基地の地上施設へと向かっていた。


 そして、着いた先は人気のない会議室。


「ロージー。失礼なことを尋ねるかもしれない。その時は遠慮せずに私を殴ってくれ。そのことで君に何かしらの報復を行うことは決してないと約束する」


「ええっ? どういうことです?」


「これからする質問は君にとってセンシティブであり、デリケートな問題だと私は考えているからだ」


 アーサーは困惑する私にそう言う。


「聞かせくれ。君は──女性なのか?」


 アーサーのその質問に私はつま先から頭のてっぺんまでが一瞬で凍り付いたように感じられたのだった。


「凄く失礼なことを聞いたかもしれない。だが、私には分からないんだ。だから、教えてほしい。どうだろうか……?」


 どう答えるべきなんだろう?


 男性ですと嘘を吐き続けることもできる。だが、そうなった場合、事実が発覚すればアーサーは私のことを軽蔑するだろう。私としてもこれ以上彼をだまし続けるのは、良心が咎め、胸が痛い。


 だが、女性だと白状した場合、私は最悪軍法会議だ。飛竜騎手からも首になり、大好きなウォースパイトからも下ろされる。それは嫌だ。


 私は頭の中がぐるぐると回転する中、決断した。


「そうです。私は、その、女です」


 アーサーに私はそう告げた。


「そうか……。そうだったのか……」


 私の言葉にアーサーも動揺しているのか同じ言葉を繰り返し、何度も頷いてた。


「すみません。これまで騙すような真似をして。あなたのことを裏切っていました」


「待ってくれ。私はそんなことは気にしていない。それに私だって君にアーサー・ジョンソン中尉という偽の身分で振る舞っていた。だから、謝らないでくれ。頼む」


 私が頭を下げるのにアーサーが屈みこんで、私の顔を見てそう言う。


「でも、私はずっとアーサーを騙していたんですよ」


「私も君を騙していただろう。だから、気にしないでくれ。人には隠し事のひとつぐらいある。そうではないか?」


「そうかもしれません」


 秘密のない、全てをオープンにした人など滅多にいないだろうけど……。


「君が女性であると確認したうえで、君に頼みたいことがある。聞いてくれ」


「はい」


「私は外交のために、ガリアのとある政治家の開く晩餐会に出席する。その席にて私のパートナーとなってくれる女性が必要なのだ。だが、この外交任務が極秘であるために、なかなか適した人物が見つからない」


「まさか」


「そうだ。ロージー、どうか私のパートナーとなってほしい」


 アーサーは私の手を取ってそう頼んできた!


「え、ええっ!? 私が、アーサーのパートナーを……?」


「ああ。ラムリー中佐から君は男爵家の令嬢だとも聞いている。そうであるならば、ガリア共和国側に対して非礼にもならないだろう」


「いや、いや! 待ってください。私は家出してて、もう何年も実家とは……」


「他の女性ではだめなんだ。君に頼みたい」


 アーサーは私の手に、彼の大きな手を重ねて、そう頼み込む。


「でも、アーサー。あなたは王族であり、私は男爵家の中のさらに次女でしかありません。あなたとは決して……」


「大丈夫だ。君という女性はそんな肩書に縛られる人ではない」


 男爵家という決してとても高貴でも、豊かなわけでもない家の生まれで、その上長女でもなく次女という私は平民も同然だ。


 しかし、それでもアーサーは跪いて私を見上げている。確かな信頼の色を見せて。


「……本当に私でいいんですか? 後悔しませんか?」


「後悔などしない」


「私からも失礼かもしれませんが、一応聞かせてください。その、晩餐会でパートナーを務めるだけですよね? 聞きたいのは他に意図がないかということというか……」


 私がそう尋ねるのにアーサーは黙り込んで、暫く考えていた。


「他意はない。今はまだそのはずだ」


 これからはあるかもしれないということだろうか……?


「いいですか、アーサー。身分違いの恋愛なんて碌な末路を迎えませんよ。そのことはあなただって理解しているでしょう?」


「理解は、している。それに今は本当に他意はない。純粋に国のために協力してほしいだけなんだ。この外交交渉は必ず成功させなくてはならない。そうしなければ、最悪の場合、戦争になるだろう」


「う……」


 そう言われたら私は何も言い返せない。ちょっとずるいよ。


「分かりました! 分かりましたから、立ってください。パートナーの件、お引き受けします。ただ、晩餐会に出席となると準備が必要です」


「理解している。ラムリー中佐が君が承諾してくれたら、準備を手伝ってくれる人間を派遣してくれると約束してくれた」


「了解です。けど、お金はどうしましょう……?」


「私の都合に付き合わせるんだ。私が支払うとも」


「す、すみません」


 晩餐会となるとドレスはもちろんアクセサリーなんかも必要になる。それも安物を選ぶことはパートナーであるアーサーのことも貶めてしまうため、ちゃんとしたのを選ばなければならない。


「ドレスとアクセサリーは主役であるアーサーに合ったものを選びたいです。よければアーサーも同行してもらえませんか?」


「分かった。私も同行しよう。他にも化粧品などもいるだろう?」


「そうですね。もう最後に化粧したのは大昔です。やり方を思い出さないと」


 私たちはやるべきことをリストアップしながら、アルビオン連合王国という国家にとって重要な外交を成功させるために頑張ることに。



 そして、私はドレスアップすることになったのだが……。



……………………

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