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パートナーには誰を?

……………………


 ──パートナーには誰を?



「ガリア共和国との外交関係改善のために我々はガリアへ向かう!」


 イーデン大尉が改めて任務について告げた。


「具体的な日程が決まった。これからちょうど2週間後に我々は出発し、その日のうちにガリア共和国首都ルーテティアにあるピエール・クロステルマン空軍基地に到着。そこでガリア空軍将兵との交友を深める」


 おお。本当にガリアに行くんだとハンガーが少しざわついた。みんな、まだ本当にガリアに行くのかどうか実感がなかったのだ。


「さらに我々は同国空軍に対する教練を行い、両国の安全保障環境の改善を目指す!」


 ガリア空軍との交流というのも目的にあるようだ。


 ガリアの空軍は正直に言ってあまり印象のない空軍だ。特段凄い飛行艇を持っているわけでもないし、だからと言って凄く弱いというわけでもない。


「以上だが、追加で任務が加わる可能性もあると艦長は仰っている。どのようなことがあろうとも対応できるようにしておくように!」


「了解!」


 わー。本当にガリアに行くんだ。どきどきしてきた。


 ガリア空軍の飛行艇はざっとしか知らないけど、行く前にちゃんと調べておこう!


「イーデン大尉。外交官を乗せるという話は?」


「ああ。外務省から人が来るそうだ。名前はまだ知らんが」


 イーデン大尉はそうとだけ言って通知を終わらせた。


「ジョンソン中尉。いよいよガリアに向かうんですね」


「ああ。そうだね……」


「どうかしたんですか? 顔色が暗いですけど……」


「少し悩んでいることがあるんだ。だが、大丈夫だ。迷惑はかけない」


 そう言ってアーサーは立ち去ってしまった。




 ロージーにはああ言ったが私の問題は複雑であった。


 ガリア共和国は我々の受け入れに同意している。だが、密かにガリアに渡る我々の交渉の場となるのは、とあるガリアの政治家が個人的に開く晩餐会の場なのだ。


 晩餐会には基本的にパートナーを伴う。異性のパートナーだ。


 アーサー・ジョンソン中尉としてウォースパイに乗り込んでいる私がどうやって異性のパートナーを連れていけばいいのか?


 それが大きな問題だった。


「殿下。そろそろお決めにならなければなりませんよ」


「分かっている、チャールズ」


 ラムリー中佐──チャールズに急かされる中、私はアーサー・ジョンソン中尉ではなく、第一王子アルバートに相応しいパートナーを選ぶために資料を読んでいた。


「そうですな。ノースハイランド公のご子女はどうですかな? 殿下も昔はお付き合いがあったでしょう?」


「彼女は12才とあるぞ」


「多少の年齢の差には目を瞑りましょう」


 ここまで候補者選びが難航しているのにはいろいろと理由がある。


 まず私がウォースパイトでガリアに渡るということは政府と空軍の一部の人間しか知らない機密だということ。


 これを発案したハミルトン首相は考えがあった。


 王室が表からガリアに乗り込むというのは、正直いいアイディアとは言えない。共和制という政体を取って長いガリアにとって、王室という特権階級の人間はほとんどの場合、友好的に受け止められないからだ。


 だが、ガリアの人間が全員そうだというわけではない。一部の人間は自分たちの政体を誇りに思いながらも、歴史ある王室に敬意を払っている。


 我々が今回外交会談の場を設けるのはそのような人物だ。


 つまり我々は外交プロトコルによってガリアが恭しく──跪いて王室の人間である私を出迎えずともいいようにするために、裏口からこっそり入国するのである。


 当然、そのようなことは外交的な儀礼に反する。最悪ガリアとの著しい関係悪化を招く恐れすらある。故に極秘だ。


 そのような秘密に触れてよく、さらには私に遭ったパートナーで、あとは高所恐怖症ではないという条件を付けたため、候補者が恐ろしく減ったのである。


「よいですか、殿下。パートナーの方にその日になっていきなり『ガリアに一緒に行ってほしい』というわけにはいかないのですよ。淑女(レディ)には紳士(ジェントルマン)より長い準備が必要なのですから」


「では、どうすればいいんだ? 笑われるのを承知で母と同じ年齢のご婦人や私の妹より小さい子供をパートナーとして連れていけと? そんなことならば、もういっそ私だけでいいのではないか?」


「殿下。それはなりません。形だけでいいのです。形を整えれば文句は出ません」


「自分のことじゃないからと適当なことを」


 私はチャールズの言葉に思わずそう吐き捨てた。


「分かりました。では、最後の手段です」


「何だ?」


「ストーナー伍長を選ばれるとよろしい」


 そう言われて私は何かを言おうとして口を開きかけたが、何の声も出なかった。


「それは……それは本当に言っているのか? ストーナー伍長が、彼が、その、女性である、と?」


「何度もそう申し上げたはずです。信じておられなかったのですか? 心外ですな」


 チャールズはそう言うが私は本当に信じられなかったのだ。


 私にとってロージーは初めてできた気の置けない友人であった。ほとんど対等な立場で、私に何ら遠慮することなく接し、私に様々なことを教えてくれる友人だ。


 だから、彼には男であってほしかった。女性となると決してこれまでのようにはいかないからである。男女の間の友情というものは、破綻するか、色恋に転じるかだと私だって知っている。


「あれだけ親しくされているのです。よろしいではないですか」


「しかし、私のパートナーとなるとそれなりの地位が必要になる。言いたくはないが、彼女は平民だろう?」


「いいえ。彼女は立派な男爵家のご令嬢です。ついでに言えばストーナー男爵からは捜索願が出ておりますな。本人にはまだ尋ねておられないのですか?」


「もし、本当に女性だとしたら『あなたは女性か』と尋ねるのは酷く失礼だろう?」


「それはご立派ですな。ですが、考慮するに値しないささやかなことです。ストーナー伍長に女性であるかどうか尋ねなさい。その上でパートナーを務めてもらえないかと尋ねるとよいでしょう」


 私はそう説明したのだが、チャールズは呆れたような表情でそう言った。


「しかし、どうして男爵家の令嬢が性別を偽って空軍に……」


「少なくともスパイ行為などのためではないようです。こちらで調べておきました」


「ロージーを調べたのか? 彼に断りもなく?」


「保安上の手続きです。私は必要であれば誰であろうと調べさせます」


 昔からチャールズは私のためだと言って、先回りすることがあった。私が考えていることが低俗で、彼からすれば簡単に予想がつくと言われているようで、あまり好ましく思ったことはない。


「分かった。彼に尋ねてみる。彼が男性なのか、女性なのかを」


……………………

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