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ふたりのレッスン

……………………


 ──ふたりのレッスン



「ジョンソン中尉! 今、よろしいですか?」


「ああ。構わないよ、伍長。どうしたんだい?」


 私がウォースパイトの艦内でアーサーを見つけ、声をかけた。


「あの、よろしければなのですが、私にガリア語を少し教えてもらえないでしょうか? 基礎的なことだけでいいんです。もちろん、中尉がお忙しいなら無理は言いません」


 私はそうアーサーに頼み込んでみた。


「構わないよ。時間がないわけでもない。いつから始めようか?」


「今日からって大丈夫ですか?」


「ああ。もちろん。しかし、場所はどうしたものか……」


「あ! よければ私の宿舎に来てください! 模型をお見せしますよ!」


 そうそう。本当はもっと早く招待したかったんだけど、ラムリー中佐の件でいろいろあって誘えていなかったのだ。


 私は下士官用の宿舎に部屋を持っており、そこに模型などもある。アーサーに見せたかった自慢のものもある!


「君の宿舎にか……。あ、ああ。そうだな。そうしよう」


「では、今日の夕方にお迎えに上がりますね」


 私はアーサーとそう約束して、一度別れた。


 そして、定期哨戒飛行を免除されたたウォースパイトでの仕事が終わり、宿舎に帰るときに、私はアーサーを迎えに向かった。


「ジョンソン中尉! お迎えに上がりました!」


「ありがとう、伍長。その、君の部屋で教えるのだね? 本当にそれでいいのかい?」


「心配なさらなくていいですよ。ちゃんと掃除してある部屋ですから。中尉が思っているように散らかってはいませんよ」


「いや、そういうわけでは……。ごほん。では、行こう、伍長」


 ジョンソン中尉は咳ばらいして私にそう促す。


 私はジョンソン中尉を連れて基地に隣接している宿舎へと向かう。宿舎まではそこまで距離はない。ウォースパイトを降りて、20分もあるけば到着する。


「ここが私の部屋です」


「あ、ああ。失礼する」


 私の部屋は相部屋なのだが、今は人がおらず私の個室だ。


 軍隊の常として綺麗に掃除されており、ベッドのシーツも整えられている。


「これは……」


 そして、何よりアーサーが感嘆の息を漏らしたように、模型がたくさんだ!


「どうです? 凄いでしょう!」


「確かにこれは凄い。どれも作り込まれているように思える……」


 アーサーはそう言って並べられている飛行艇の模型に見入った。


 空中戦艦ドレッドノートから始まる王立空軍の空中戦艦がずらり。空中戦艦だけでなく、民間航空会社の旅客飛行艇の模型もある。


 それぞれ塗装され、小さいながら迫力あるものになっていた。


 これが私の自慢のコレクションである。


「これは全て君が?」


「ええ。模型の趣味は空軍に入ってからですが、徐々に上達していきましたよ。休みの日はスケッチと照らし合わせて新しい模型を作っています。そのうち置き場がなくなっちゃいそうで困りものですが」


「凄いな。私も君に勧められて作っているが、ここまで作りこめてはいない」


 アーサーはそう言って模型を見渡すと、その中からウォースパイトを見つけた。


「これはウォースパイトだね。ちゃんと空軍旗も翻っている」


「一番初めに作った模型です」


「そうか。素晴らしいコレクションを見せてくれてありがとう」


 アーサーはそう笑顔で頷いてくれた。


「いえいえ。私も自慢できてよかったです。では、勉強の方を」


「ああ。まずは基本的な挨拶などから始めよう。私たちは何もガリア語の専門家になる必要はないのだ。カーライル中尉が言っていたように、君たちが接するのはガリア空軍の将兵となるだろう」


「そうなのですか?」


「それ以上の立場の人間なら、向こうがアルビオン語を理解してくれる。それか通訳が付く。私は、その、別の任務を与えられているため、ガリア語と彼らの文化に一定の理解が必要とされているが」


「もしかして、アーサーがウォースパイトが運ぶ外交官なのですか?」


「ああ。そのひとりではある。だが、正式な外交官は別にいるよ。私はそのおまけのようなものだ」


「そうだったのですね」


 高貴な身分の人を外交のためにガリア共和国に運ぶ。当初の噂はほぼ正しかったわけだ。空軍の噂のネットワークも馬鹿にできないものである。


「さあ、挨拶からだ。“こんにちは”から始めよう」


「“こんにちは”」


「鼻母音はもう少し意識して発音を。こんな風に。“こんにちは”」


 アーサーの指導はどこかの大学から来たという講師よりよっぽど分かりやすかった。私は瞬く間にガリア語での挨拶をマスターし、自己紹介もできるようになった。


「上出来だ、ロージー。君は覚えが早いね」


「ありがとうございます。けど、多分アーサーの教え方がいいからですよ」


「謙遜せずともいい。私は連合王国にて最高と言われる教師に教えてもらったが、君よりずっと時間がかかったよ」


「小さいころから教えられていたのですよね?」


「そうだ。物心ついたときには既に大勢の家庭教師がいた」


「それは大変そうです……。遊ぶ時間はあったのですか?」


「あまりなかったね。しかし、私の立場を考えれば仕方がないことなのかもしれない。私は責任ある家に生まれたのだから、その責任に応じられる人間にならなければならないかったんだ」


 アーサーはそう言いながら私の作ったウォースパイトの模型に目を向ける。


「なら、これから思いっきり遊びましょうよ。小さい時にアーサーは頑張ったのですから、これからは息抜きをしていいと思いますよ」


「そういうわけには……」


「この間みたいに遊びに行きましょう。他の街でもいいですよ!」


 アーサーは真面目過ぎると思うのだ。彼は自分は責任にあまりに気を負いすぎていると私は思う。もっと自由に生きていいはずなのに。


「……そうだね。なら、またいつか遊びに行こう」


「ええ。その前にガリアとなりますが、頑張って乗り越えましょう」


「ああ。君がいれば──……」


 アーサーは何かを言いかけて、口をつぐんだ。


「どうしました?」


「な、何でもない。続きをやろう。基本的な文法の続きだ」


「はい!」


 というわけで、私はアーサーからガリア語について教わった。


 ふたりのガリア語講習は5日ほど続き、私はアーサーのおかげでガリア語をかなりマスターした。挨拶や自己紹介、飛行艇にガリア空軍の将兵を招いたときに想定される会話などなど。


「よし。これで無事にガリアに向かえます!」


「よく頑張ったね、ロージー。君の頑張りのおかげだ」



 そして、私がガリア語に自信を持ち始めたとき、任務の詳細が明らかになった。



……………………

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