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新しい任務に向けて

……………………


 ──新しい任務に向けて



「甲板から落ちたり、憲兵に逮捕されたり、忙しい男だな、ジョンソン中尉!」


「申し訳ありません、イーデン大尉……」


「まあ、憲兵隊からは誤認逮捕だったとの連絡が入っている。陸戦隊のヘイワード中尉からも謝罪の言葉がお前とストーナー伍長にあったぞ」


 ジョンソン中尉がハンガーに戻ってくるのにイーデン大尉がそう言った。


 ヘイワード中尉も事情を知っていたのか、それともラムリー中佐に使われただけなのか。そこまでは分からなかった。


「さて、お前たちがいない間に本艦は新しい命令を受領した。それによれば我々は外交官を乗せて、ガリア共和国に向かうことになる!」


「おお!」


 噂にあったように本当にガリア共和国に行くことが決まったらしい。


 しかし、外交官を乗せて、ガリア共和国に? 外交官を運ぶだけならば、普通の民間で運行している旅客飛行艇の方が都合がいいと思うけどな。


「具体的な任務はまだ通達されていないが、我々は外国の地で活動することになる。当然、言葉を覚えなければならないし、王立空軍将兵の代表として相応しい行動を取るようにしなければならない!」


 よって、とイーデン大尉が続ける。


「全員にガリア語の取得を命じる! それから士官及び下士官にはマナー講座もだ!」


 イーデン大尉の言葉に全員が呻き声を上げた。


 私も当然呻いた方だ。


 ガリア語は領空侵犯機への警告程度ならば覚えているけど、決して流暢に使えるってレベルじゃない。それに加えてマナー講座だって!


 そんなのどう考えたって空軍に仕事じゃないよ。


「では、ガリア語の講義とマナー講座は明日からだ。講義はリバティウィング空軍基地で行われる。定期哨戒飛行の際のみ欠席してよろしい。以上!」


 流石の私たちもこれに士気が上がるほどタフじゃなかった。


「ガリア語なんて覚えられるのか……」


「けど、ガリアにただで行けるんだろ? 家族に土産を買って帰りたいな」


 私たちは新しい任務に不安半分、好奇心半分と言ったところだ。


「どう思います、ストーナー伍長? ガリア語って難しいですか?」


 下士官同士でガリア行きについて話し合っていたオライリー伍長が尋ねてくる。


「“こちら王立空軍。警告する。貴機はアルビオン領空を侵犯している。直ちに領空から退去せよ”」


「棒読みなうえに、それぐらいですよ。使えるの」


「それぐらいしか使う機会もないですし」


「ストーナー伍長も海外に旅行したことはないですよね」


「ないね」


 私は家出して空軍に入ってからは、ずっとアルビオンにいる。


「ジョンソン中尉はどうなんでしょう?」


「ど、どうだろうね?」


 ジョンソン中尉は第一王子だ。当然海外を訪問したりもしただろう。もしかするとガリア語もペラペラだったりして。


「そもそも言い出しっぺのイーデン大尉はどうなんです? 聞いたことあります?」


「イーデン大尉はお兄さんが外務省の勤務らしいですよ」


「兄は喋れるかもしれないけどイーデン大尉には関係ないだろ。俺だって兄貴は画家だけど俺には絵心の欠片もないし」


 あーだこーだと下士官と兵卒たちが噂話で再び盛り上がる。


「とにかく、覚えないと置いていかれるかもしれませんよ」


「仕方ない。頑張ろう、お前ら!」


 私が話を纏め、とりあえず私たちは言語学習を頑張ることに。


「ジョンソン中尉!」


「何だい、伍長?」


 私はそれからアーサーの下に向かう。


「ジョンソン中尉はガリア語って使えます?」


「一通りは使えるつもりだ。昔からガリア語とエステライヒ語、それからロムルス語は叩き込まれたからね」


「おお。3か国語も……」


「ガリア語は文法は似ているから、そう難しいものではないよ。安心していい」


「そうなんですね。ありがとうございます!」


 アーサーにそう励まされて、私は少し安堵した。


 夕食を食堂で食べる時にはリバティウィング空軍基地の全ての将兵がウォースパイトに与えられた任務を知っていたらしく、ざわざわと話題になっていた。


「ウォースパイトはガリアに行くのか。羨ましいな」


「だけど、ガリアに何しに行くんだ?」


「外交官とかを連れていくらしい」


「わざわざ空中戦艦で?」


 私たち空軍将兵は基本的に基地に缶詰めであるため、娯楽が少ない。新聞や雑誌などは手に入るが、興味のない人間にとっては娯楽にならない。


 だから、自然と噂話が暇つぶしの娯楽になるのだ。『なんとか少佐が奥さんに逃げられた』とか『そろそろあの人は昇格するんじゃないか?』とか『次の艦長は間違いなくあの人だ!』とか。


「なあ、そこの伍長。ストーナー伍長だったか。あんた、ウォースパイト乗り込みだろ? どうなんだ、新しい任務?」


 そこで近くに座っていたクイーン・エリザベス乗り込みだったと思うひとりの軍曹が、私に尋ねてきた。


「ええ。ウォースパイトはガリアに向かうそうです。私たちには言語学習が命じられましたよ。それからマナーも」


「そりゃあ大変だな。暫くは俺たちが哨戒飛行は頑張っておくぜ」


「お願いしますよ」


 ウォースパイトがガリアに向かっている間も大陸海峡(チャネル)は守らなければならない。ウォースパイトが抜けた穴はクイーン・エリザベスを旗艦とする第5戦艦戦隊が頑張ってくれることになっている。


 私たちはその間ガリアでバカンス。



 ……とはいかないのである。



……………………

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