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突然の事件

……………………


 ──突然の事件



「ワトソン。そろそろウォースパイトだよ」


「やっと帰って来れたね。僕はお腹が減ったよ」


 私とワトソンはウォースパイトの定期哨戒飛行中で、今は帰路についていた。


 私たちが受け持つ大陸海峡(チャネル)は今日も平和だ。


 大陸海峡(チャネル)の向こう側にあるガリア共和国とのトラブルはいつものようにないし、問題となる空賊たちも私たちがいることで表立って行動できず、悪さができないでいる。


 私は今回ウォースパイトと僚艦としてこの哨戒飛行に付き合っている空中巡航艦センチネルに人を運んだ帰りだった。


 私のフライトは何の問題もなく行われ、私は甲板作業員の誘導を受けてウォースパイトの飛行甲板に着艦。無事に帰還した。


「大変です、ストーナー伍長!」


 飛行甲板からワトソンをハンガー内に移しに入ったとき、竜務員のウィーバー上等兵が慌てて駆け寄ってきた。


「どうしたんだい、ウィーバー上等兵?」


「ジョンソン中尉が逮捕されました!」


「え……っ!?」


 ウィーバー上等兵が告げた言葉に私は目を丸くした。


「ど、どういうこと? 何があった!?」


「伍長がセンチネルに向かっていたときに突然陸戦隊がやってきて、ジョンソン中尉に手錠をかけて、連れていったんです! 分かっているのはそれだけです!」


 なんてことだ! まさか陸戦隊が本当にアーサーを拘束するなんて!


「イーデン大尉はどうしてる!?」


「大尉は陸戦隊に説明を求めに行きました!」


「私も行ってくる!」


「それなら士官次室(ガンルーム)へ向かってください!」


「分かった!」


 私はワトソンを竜務員たちに預け、すぐさま士官次室(ガンルーム)に向かった。士官次室は大尉から少尉までの下級士官のための部屋で、アーサーもハンガーの他にそこで過ごす時間があった。


 その士官次室の前にエンフォーサー小銃で武装した陸戦隊の兵士がいた。


「すみません! イーデン大尉はここにいますか!?」


「失礼、伍長。誰も通すなと言われております」


「だから、イーデン大尉はここに?」


「答えられません」


 この手の融通の利かない兵士は軍隊ではお約束のようなものだ。私はどうやればここを通してもらえるだろうかと頭を巡らす。


「何をしている、伍長!」


 そこで以前声をかけてきた陸戦隊中尉が現れた。


「中尉。本当にジョンソン中尉は拘束されたのですか?」


「その通りだ。彼には反逆罪の容疑がかけられている。リバティウィング空軍基地に帰投次第、憲兵隊に引き渡すことになった」


「しかし、彼は──」


「彼は何だと?」


 陸戦隊中尉が私を睨むように見る。何倍も体格が大きく、顔も怖い陸戦隊中尉が睨んでくると私が振り絞った勇気も押しつぶされそうになってしまう。


「彼は無実です。もし、彼を疑うのであれば私も拘束してください!」


「何故お前を拘束する必要がある、伍長?」


「どうしてもです! 彼は無実だと証明してみせます!」


「ふむ……」


 中尉はそう言って私の方を値踏みするように見つめる。


 自分でもどうしたいのか分からない。けど、アーサーが反逆罪なんてことはあり得ない。だって彼は第一王子なんだよ?


 いや、そうじゃない。彼が第一王子かどうかなんて関係ない。合同演習でも示したように彼は自分を犠牲にしてでも勝利を得ようとしたぐらいの仲間思いなんだ。だからこそ、私は彼を信じているんだ。第一王子だからじゃない!


「彼は仲間思いで、自己犠牲すら厭わない立派な軍人です。そのことについては、私以外の人間だって証言してくれるはずです」


「分かった。お前のことは報告しておく。拘束はしないが、監視は付けるぞ」


「はい」


「それから俺はヘイワード中尉だ、伍長。中尉、中尉と呼ばれたのでは誰か分からなくなる。それにしても……」


 ヘイワード中尉はそう言って意地悪そうに笑った。


「仲間思いなのはお前も同じだな」


 そうヘイワード中尉は言って立ち去ろうとする。


「待ってください! ジョンソン中尉には一度会えませんか……?」


「残念だが、それは認められない」


「そうですか……」


 それから私はハンガーへと戻った。ハンガーには後から空軍陸戦隊の兵士1名が派遣されてきて、エンフォーサー小銃を装備したその兵士がハンガーを見張る。


「やっぱりラムリー中佐は憲兵だったんですよ。このことを調査していたんです」


「ジョンソン中尉は無実だよ! 彼を疑うなんて!」


「じゃあ、一体どうして彼は拘束されたんだ?」


 任務がないハンガーでは飛行科の将兵たちが、ああでもない、こうでもないと噂話に華を咲かせていた。


 私はそれに参加する気も起きず、ワトソンの傍に座った。


「ワトソン。ジョンソン中尉、大丈夫だよね?」


「僕も彼が反逆罪を冒すなて考えてないよ。ジョンソン中尉はいい人だ。誰かを騙したり、裏切ったりなんてしない。グロリアもそう言ってるし、僕も信じてる」


「だよね。いざとなったら私も証言するよ」


 ワトソンはそう言ってくれ、私も少し勇気づけられた。


「諸君。聞いてくれ」


 と。そんな話をしていたところで、イーデン大尉がいつもより明らかに力なく飛行科のみんなに話しかけ始めた。


「聞いての通り、ジョンソン中尉が陸戦隊に拘束された。私も抗議してきたが、陸戦隊は応じる様子がない。諸君も心配しているだろうが、安心してくれ。ちゃんと艦長からも弁護してもらえるように手配してある」


 イーデン大尉がそう言うのにみんなが安堵の息を吐いた。


「よって、今は任務に集中するように! こんな時でも、いや、こんな時だからこそミスは許さんぞ!」


「はい!」


 今は私にできることは任務を確実に遂行して、空軍将兵として信頼を得ることだ。信頼がなければ私がいくら弁護したって意味がない。


「頑張ろう、ワトソン!」


「うん、ロージー」


……………………

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