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接近禁止

……………………


 ──接近禁止



 私は空軍に男であるとの嘘の書類を提出して入隊した。


 私のやったことは詐欺であり、その他いろいろな罪であり、そのことが発覚すれば逮捕されるものである。


 だから、これまで慎重にしてきたし、誰にも正体はばれてないと思っていた。


 だが、ラムリー中佐はその私が隠していた事実を知っている。


「私は一体君がどういう魂胆で空軍に忍び込んだのかは興味はない。だが、憲兵はこのことに興味を示すことだろう」


 ラムリー中佐が静かにそう語る。


「であるならば、君の秘密は守ろう。君が私との約束を守ってくれるならば、だが」


「約束、ですか……?」


「ジョンソン中尉には近づかない。無論、任務のときには最低限接触することを許可しよう。それだけを守ってくれればいい」


 アーサーに近づくなと、ラムリー中佐はそう繰り返した。


「……分かりました」


「よろしい。このことは逐次確認させてもらう。以上だ」


 ラムリー中佐は行っていいというように手を振った。


 そして、私は力なく肩を落としてラムリー中佐の執務室を出たのだった。


「ロージー!」


「アーサー?」


 私が地上施設を出ようとしていたところで、アーサーがウォースパイトの方から駆け寄ってきた。なにやら慌てた様子だ。


「オライリー伍長から君がラムリー中佐に呼び出されたと聞いたが、何があった?」


「……いえ。何もありませんでしたよ」


 私はアーサーを避けるようにウォースパイトに歩き始めた。


「そうか。ならいいのだが……」


 私はアーサーがどんな顔をしているのかも見ずにウォースパイトに向けて進む。いつしかアーサーに背を向けて、私だけがウォースパイトに向かっていた。


「本当に何もなかったのか……?」


 それからアーサー──ジョンソン中尉を避ける日々が始まった。


「ストーナー伍長。次の飛行計画で相談したいことが……」


「そ、それならまずはカーライル中尉にご相談を」


 ジョンソン中尉が定期哨戒飛行に伴う、飛竜騎手の飛行計画について相談しようとするのを、私は事前にカーライル中尉にあれこれと教えておいて、彼に説明を任せることにして逃げた。


「どういうことなんだい、ストーナー伍長? 君とジョンソン中尉はよくやっていたと思うのだけれど……」


 私からいろいろと押しけられたカーライル中尉は首を傾げていた。


「その、あまり階級が違う人間同士でなれなれしくするのはよくないと思いまして。カーライル中尉にこれからはジョンソン中尉を支えていただきたく思います」


「ふうむ。それが君の本心だとして、ジョンソン中尉に伝えても問題はないのだね?」


「ありません」


「分かった。そうしよう」


 カーライル中尉は渋々というように受け入れて立ち去った。


 だが、ウォースパイトにおける任務の他に、ジョンソン中尉は私に接触してくる。


「ストーナー伍長。君と一緒に買ったテメレーアがかなり完成に近づいてきたよ。よければ君からアドバイスがもらいたいのだが……」


「す、すみません! 最近ちょっと忙しくて!」


 本当は見たい。ジョンソン中尉が作った模型を見てみたい。だけど、そうすることはもはや許されないのだ。


「そうか……。いつか時間が出来たら、また頼むよ」


 ジョンソン中尉は肩を落として立ち去った。


「……私は酷いやつだ……」


 ジョンソン中尉に模型を勧めたのに、こんな態度を取るなんて本当に酷い。


 次第にジョンソン中尉も私に避けられていることに気づいたのか、あまり積極的に声をかけてこなくなった。ただ、それでも私と視線が合えば、力なく微笑んで、少し手を振ってくれる。


 そうされることが私の罪悪感により拍車をかけた。


 いっそ、自分の正体を明かし、事情を全て説明してしまおうかとすら思った。しかし、それをアーサーが受け入れてくれるという保証はない。彼から軽蔑されるのを恐れて結局、事実を明かすことはできなかった。


「ストーナー伍長。ジョンソン中尉と何かあったんですか?」


 そんなある日、オライリー伍長がそう尋ねてきた。


「何かあったように見えます?」


「見えます。合同演習の日からジョンソン中尉とは気が合っているように見えたのに、最近は全然じゃないですか。イーデン大尉も心配されてましたよ」


「うう、イーデン大尉が、か……」


「何かあったなら相談に乗りますよ」


 オライリー伍長はそう請け負ってくれた。


「……友人にどうしても明かせない秘密が出来たら、どうします?」


「ふむ。どうしても明かせないんですか?」


「明かせないんです」


 私がそういうのにオライリー伍長が首をひねる。


「俺は友人だからこそ秘密を共有するべきだと思いますけどね。友人の秘密を知っても、これまで通り付き合ってくれる人こそ本当の友人であり、親友って呼べるものじゃないですか?」


「まあ、そうなんでしょうが……」


「確かに全ての友人が信頼できるかと言われたら俺も困りますが。俺だって友人に言えない秘密とかいろいろありますから」


「オライリー伍長にも?」


「もちろんですよ。誰だって秘密のひとつふたつ持ってますって」


 私が尋ねるのにオライリー伍長は童顔の顔に笑みを浮かべた。


「そうそう。秘密と言えば面白い噂をウィーバー上等兵から聞きましたよ」


「またそういう噂話? ラムリー中佐の正体について新しい情報とか?」


 きっとこの話がしたくて私に話しかけたのだろう。私も少し興味があったので声を落としてオライリー伍長の話に耳を傾ける。


「何でも本艦に極秘の命令が下ったそうです。その任務は艦長と空軍上層部しか知らなくて、恐らくは情報作戦だろうとか」


「極秘任務……?」


「そうです。この前の演習でストーナー伍長たちが合格したからかもしれませんよ」


「へえ」


 そこで私は思い出した。


 ジョンソン中尉が政府のために極秘任務を負っているということを。


……………………

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