飛行科の飲み会の席にて
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──飛行科の飲み会の席にて
飲み会はウォースパイトが母港であるリバティウィング空軍基地に帰投してからになった。イーグルピーク空軍基地からはウォースパイトなら半日の距離で、合同演習に参加したので暫く哨戒飛行も免除されている。
リバティウィング空軍基地に到着し、ウォースパイトは高度を落とし停泊。
「飲みに行くぞ、諸君!」
「おー!」
飛行科の将兵がイーデン大尉の言葉に揃って声を上げた。
「今日は士官たちの奢りだ。好きなだけ食べて飲め!」
「わー!」
イーデン大尉がこう約束するのには士官への敬意を得させるためでもあったし、リバティウィング空軍基地近くの街では軍人はツケが効くからだ。
「飲みに行く店は『キングス・フィッシャーマン』だ! 楽しみにしておけ!」
「おおおーっ!」
さらにイーデン大尉が宣言するのに場が湧きたった。『キングス・フィッシャーマン』はなかなかの高級店で知られており、懐に余裕がある将校ぐらいしか通えないお店だ。なので普段はいくことのできない人間が喜んでいる。
「では、参加するものは1800までに基地正面ゲートに集合!」
「了解!」
私たちは残った仕事などを終えるとリバティウィング空軍基地の正面ゲートに集まった。飛行科はほぼ全員が出席するようだ。奢ってもらえるのに逃す手はないのだろう。
竜医のホーキンス先生も参加している。珍しい。
「よーし! ほぼ全員参加だな! 行くぞ!」
それからイーデン大尉がやってきて声を上げ、基地から出る路線バスで街に向けて出発した。基地から街までは路線バスで20分ほど。
「基地の近くにあるのは、このドーンハーバーという街だろうか?」
「ええ。そうですよ。大きな港がある街です。軍港ではなく、漁港であり、交易港です。大陸海峡で漁をしている船や、ガリア共和国との貿易している船がたくさんいるんですよ」
「そうなのか。なるほど……」
ジョンソン中尉は私の説明に頷いていた。
「そろそろですよ」
私がそう言うとジョンソン中尉が窓から外を見る。
路線バスが走っている丘の上から夕方のドーンハーバーの街が見えてきた。暗くなった時間帯に赤々と灯りが灯った街が海岸沿いに広く広がっている。
海には港に戻ってくる船が行き来しており、それらは岬にある灯台の明かりを目印にしている。港には既に多くの船舶が停泊していて、今日もドーンハーバーは賑わっているのが分かった。
「賑やかそうな街だ」
「私の大好きな街です」
路線バスはドーンハーバーの街に入っていき、私たちは飲食店などが並ぶ繁華街の場所でバスを降りた。
そして、それから『キングス・フィッシャーマン』に向かった。
「『キングス・フィッシャーマン』か。よさそうな店だね」
「ここはお高いんですよ、中尉。中尉は奢る側なのであらかじめ謝罪しておきます」
「いや。気にせず楽しんでくれ」
私が頭を下げるのにジョンソン中尉はそう言って返してくれた。
それから私たちは『キングス・フィッシャーマン』に入店。事前にイーデン大尉が予約してくれていた席に座る。
店内は清潔で、そして賑やかだ。
内装は木材を多く利用したことで暖かな雰囲気をしており、テーブルや椅子も恐らく高級な木材を使ったものだろう、立派なものだった。
「まずはジョンソン中尉とストーナー伍長にスピーチをしてもらおう! 今回に勝利に大きく貢献したふたりから挨拶を!」
「ジョンソン中尉、ストーナー伍長! お願いします!」
イーデン大尉がそう言って場を仕切り、まずはジョンソン中尉が立ち上がった。
「私はまだ着任して2週間しかなく、まだ距離を感じていた方もいたと思う。だが、今回の演習ではそのようなことを一切感じさせず、皆が私に力を貸してくれた。そのことに深く感謝を伝えたい。ありがとう」
「こちらこそ!」
ジョンソン中尉が挨拶し、場が沸き立つ。
「ストーナー伍長も!」
「は、はい。今回の演習は絶対に合格しないように作ったとマウントバッテン元帥閣下も言っておられましたが、私たちは合格しました。これからどんな困難があっても、私たちならば乗り越えらえる証拠だと思います。ありがとうございました!」
「ウォースパイトは不可能を可能に!」
私は正直スピーチは苦手なのだが、今回は場をしらけさせることもなく、それどころか盛り上げられた。
「では、諸君! 飲んで、食って、英気を養え!」
「はい!」
それからはもう楽しい時間だ。
私はドーンハーバー名物のシーフードをたらふく食べることにした。白身魚のフライや茹でたロブスターにレモンの風味がするソースを添えたもの。他にもサーモンやカキなど新鮮な海産物が並ぶ。
「失礼。あんたらウォースパイトの?」
「ええ。そうですけど?」
ここで知らない空軍の軍服を着た将校たちがテーブルにやってきた。
「怪しいものじゃない。俺はコリンウッド少佐。アグレッサー部隊のものだ。あんたが噂のストーナー伍長だろう?」
「アグレッサー部隊の!?」
驚きの訪問者だ。
「アグレッサー部隊?」
「どうしたんだ?」
ウォースパイトの飛行科の将兵たちが予期せぬ来訪者にざわめき、酒と料理を取る手が止まった。
「少佐! よろしければテーブルにどうぞ」
「ありがとう、大尉」
イーデン大尉が誘い、コリンウッド少佐が私たちのテーブルに座る。
「まず今回は演習での勝利、おめでとう。賞賛に値する活躍だったと相手をした我々からも感想が出ている。我々に恐れず向かってきたジョンソン中尉にも、驚くべき騎手としての才能を示したストーナー伍長にも」
コリンウッド少佐がそう言うのにジョンソン中尉は頭を下げて見せた。
「ジョンソン中尉の攻撃でうちの重戦闘飛竜の後部乗員が負傷という判定になった。あれは一撃離脱を目指す重戦闘飛竜を相手にする戦法としては、悪くないという評価だ。これからじっくり研究することになるだろう」
一撃離脱を目指して襲い掛かってくる重戦闘飛竜に横合いから殴りつけ、不得手とする旋回を強いる。それがジョンソン中尉の取った戦術だ。
「それからストーナー伍長の飛行技術も素晴らしかった。アグレッサー部隊の全員が賞賛している。あの大雨の中で全くコースから逸れずに飛行したことも、帰投するために取ったコースの選択も素晴らしい」
「ありがとうございます、少佐」
「お世辞で言っているわけではないぞ、伍長。正直、私の立場からすると、かなり悔しい。あれだけの戦力を与えられていながら、君たちに撃墜判定を下すことができなかったのだから。全く以て悔しい限りだ」
私がそう言うのにコリンウッド少佐はそう言って不服そうな顔をしていた。。
「君は君の果たすべき任務のために最適な飛行を行った。どのような状況であろうとも。そういう人材が空軍には必要だ。君が将来後進を育てる立場になって、君のような優れた騎手を育ててくれることを祈るよ。それから、だ」
「それから?」
「次に演習をやるときは今回のようにはいかないぞ。覚悟しておけ」
コリンウッド少佐はニッと笑うと私の頭をわしゃわしゃと撫でて立ち去った。
「あのアグレッサー部隊もお前たちの才能を認めたわけだ。よかったな!」
「は、はい!」
イーデン大尉が言い、他の将兵も拍手を送り、私は顔を赤くする。
いつものように頑張ったら、予想以上の賞賛を浴びせられ驚いている私であった。
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