まさかの作戦
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──まさかの作戦
出現した2体の重戦闘飛竜は急速に高度を上げている。
「速い……!」
軽戦闘飛竜とは比べ物にならない上昇力。瞬く間に2体の重戦闘飛竜は高度を上げ、私たちに迫ってくる。
「ロージー! どうするの!?」
「何とかして撒く! 荒っぽく飛んでいいから、可能な限り直線に飛ばないで!」
「振り落とされないようにね!」
直線に飛んでいたらいい的だ。ここは複雑な回避運動を取りながら飛ぶしかない。
「現在地を確認……!」
事前に渡されていた地図に従って私は現在地を確認する。雲の中の目隠しでの飛行は上手くいったらしく、予想していた場所に出ていた。これなら演習空域を外れて失格ということはないだろう。
「行くよ、ロージー!」
一気にワトソンが高度を落としたかと思えば急速に右旋回する。加速や旋回の際の圧力が体に響くが、私の目はそんな中でアグレッサー部隊の重戦闘飛竜を捉え続けた。
重戦闘飛竜はもうすぐそこにいる。重戦闘飛竜は2名の搭乗者を乗せており、騎手の後ろに乗っている搭乗員がエンフォーサー小銃の銃口を私に向けていた。
そしてエンフォーサー小銃の乾いた銃声が響き、飛んでくるのは訓練用のペイント弾だと分かっていても私は思わず目を閉じてしまう。
しかし、体に衝撃はない。
「えっ……!」
それもそのはず。
なんとジョンソン中尉とグロリアが2体の重戦闘飛竜に襲い掛かっていたのだ!
ジョンソン中尉はエンフォーサー小銃を発砲しながら重戦闘飛竜に向けて突撃し、私を狙っていた重戦闘飛竜は身を翻して回避行動を取る。
重戦闘飛竜は加速力は優れているが、小回りは効かない。だから、ジョンソン中尉の攻撃を避けるのに大きく旋回しなければいけないということだ。
そしてできた隙にジョンソン中尉はグロリアの機動力を生かしてもう1体の重戦闘飛竜を狙った。まさか偵察飛竜から攻撃を受けると思わなかった重戦闘飛竜は発砲で牽制しながらも、回避行動に追い込まれる。
「ジョンソン中尉! 無理しないでくださいねっ!?」
「無理はしていない!」
しかし、ジョンソン中尉の作戦ってこれなのか!?
正直、無茶苦茶すぎる気がする。いくら重戦闘飛竜を一時的に退けられても、こちらが撃墜される可能性の方が高いのだ。
だが、ジョンソン中尉のおかげで私が助かったのも事実。
それでもやっぱり危険だ。そう私が思っていたときだ。
「雨……! このタイミングで!」
ここで激しい雨が不意に降り始めた。
飴によって視界が一気に狭まり、大回りでその巨体を旋回させていた重戦闘飛竜が一時的に見えなくなる。無論、私たちから見えなくなっただけで、向こうからは見えている可能性は高い。
「ジョンソン中尉! 目的地まではもう少しです! これ以上の交戦は不要と進言します! どうですか!?」
「ああ! そうしよう!」
私は再び速度計と高度計を睨むように見る。雨のせいで視界は数メートルしか効かない。再び私たちは目隠し飛行を強いられているのだ。
だが、目的地までは残り数分。帰りにも雨が続いていれば、この雨は私たちをアグレッサー部隊から隠してくれるかもしれない。
「そろそろ高度を落として。地上を偵察する」
「ここで敵が待ち構えていたらどうするの?」
「神様にお祈りするよ」
指定された地点でアグレッサー部隊が待ち構えている可能性はゼロでない。しかし、目的地はそれぞれの飛行艇ごとに違っていて、アグレッサー部隊も知らないはずだとイーデン大尉は言っていた。
「ジョンソン中尉! 目的地です!」
雨の音のせいでジョンソン中尉からの返答が聞こえない。うっすらとグロリアの赤いシルエットが見えているが、どちらを向いて飛んでいるかすらも分からないほどおぼろげにしか見えなかった。
「可能な限り高度を落として、ワトソン! それから旋回!」
「了解!」
私とワトソンは地上に向けて降下し、目的地にあるものを偵察する。
「ジョンソン中尉! 無線を使用します!」
やはり雨の音の生で聞こえていない。
だが、ここで私が無線で母艦であるウォースパイトに報告しないと、ここに来ただけでは意味がないのだ。
「こちらソードフィッシュ! ウォースパイト、どうぞ!」
『こちらウォースパイト。聞こえているぞ、ソードフィッシュ』
よし! ちゃんと通じた!
「偵察地点にて軍用トラック6台、軍用と思しき大型テント10張りを視認! 周囲に塹壕らしきものも確認しています! 兵士は確認できず!」
『了解した、ソードフィッシュ。帰投せよ!』
「了解!」
さあ、帰るまでが演習だぞ。
「ジョンソン中尉、ジョンソン中尉! 偵察は完了しました! 帰投しましょう!」
「──かった! 帰投──!」
辛うじてジョンソン中尉の声が聞こえた。こちらの声は聞こえているみたいだ。
「ワトソン。可能な限り遠回りして帰るよ。私の指示する通りに飛んで!」
「任せて、僕の相棒」
雨は北部一帯で降り注いでいるらしく、私はアグレッサー部隊に捕捉されるのを避けるためにぐるりと大回りするコースでウォースパイトを目指した。
相変わらずの目隠し飛行で、雨粒がゴーグルに飛んですぐ近くの速度計と高度計すら見えなくなりそうだ。地上の様子も見えず、ランドマークにできる地形も見えない。私はそんな中で頭の中の地図と計算で飛行を続けた。
しかし、しまったことに徐々に雨足が弱まり始めた。
これがなくなるとアグレッサー部隊から私たちを隠してくれるものはなくなってしまう。残りもう少しだっていうのに!
「──伍長、ストーナー伍長!」
そこでジョンソン中尉の声が聞こえ、私が振り返る。
ジョンソン中尉は信号旗を上げていた。それはやはり『敵接近』だ。
雨足が弱まったことで視界が開くようになったのか、2体の軽戦闘飛竜が私たちを追いかけてきていた。
「ワトソン! もう少し急いで!」
「これが全力だよ!」
激しい雨の中を飛行したことでワトソンも体力を奪われてしまっている。そのせいで速力が思ったように出ていなかった。
だが、もう少し! もう少しだ!
「見えた!」
前方に飛行しているウォースパイトが見えた。
それが見えたと同時に2体の軽戦闘飛竜は大きく旋回して私たちから離れていった。
彼らは私たちを見逃したのではなく、ウォースパイトに無数に装備されている高射砲や機関砲で攻撃されるのを避けるために離脱したのだろう。演習をよりリアルに解釈した結果であった。
ウォースパイトの飛行甲板が見え、イーデン大尉たちが手を振っている。
「着艦します!」
ウォースパイトの飛行甲板にまずは私が着艦し、それからジョンソン中尉が続く。
「よくやったな、ジョンソン中尉、ストーナー伍長!」
「ありがとうございます、大尉! 判定はどうなのですか?」
私は急いでワトソンのハーネスから艦のロープにハーネスを繋いで尋ねる。
「判定はまだだが、間違いなく成功だ。ウォースパイトの名誉だ!」
イーデン大尉はもう勝利を確信していた。
「やりましたよ、ジョンソン中尉!」
「ああ。君のおかげだ、ストーナー伍長」
私は思わずジョンソン中尉の手を取って熱い握手を交わした!
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