終章
深い闇が、辺りを覆っている。
その闇を照らすように浮かぶ月は、まるで欠けることを知らないかのように煌々と、穏やかで柔らかい光を纏っている。
村人達には、果たして肉塊が、どのように映っていたのか? その答えは既に、あなたの中にあるのです。
会話を交わしていた時、あるいは、その会話を側で聞いていた時。あなたの頭の中には、実在する人か、あるいは、そうでなかったとしても、いずれにせよ誰かの姿が浮かんでいたはずです。その人物の姿こそ──あなたの目に映っていた肉塊の姿、ということなのです。
この世の中には、信じてよいものなど存在しません。全てのものは等しく、疑いを向けられるべき対象なのです。
そんな中で、信じてはならないものしかない世界の何を信じることを選び取るか、それが生きるということなのではないでしょうか。
ところで、皆様。今あなたの隣にいる人、あなたの正面にいる人、あなたが聞いている声の主は──本当に、人間なのでしょうか?
もしかしたら、この村のように、あなたの目にだけ、そう見えている、あなたの耳にだけ、そう聞こえている──なんてことも、あるのかもしれませんね?
さて、気分転換をいたしましょう。空を見上げてみてください。
空を覆う闇、そこに浮かぶ月──その月は、いつから、そこにありますか? 本当に、あなたの元へ朝陽は訪れていますか?
……なんて、愚問ですね。明けぬ夜など、ないのですから。えぇ、そんなものは、ないのですよ。
今宵の空に浮かぶ、欠けることのない丸い月。
見上げた瞳に映る月に、あなたは何を想いますか?