田中物語
俺は人生の路頭に迷っているのかもしれない。
「田中、そんな夢見ていられないぞ。」
何をしていても説教をされる毎日。それも当然だ。大学四年の途中で中退し、特にやりたいことがあるわけもないままアルバイトをしながら食いつないでいる毎日。
「僕もあまりこんなことは言いたくないが、このままだったら一緒にいられない」
うるせぇ、、、お前は俺の彼女かなんかなのか。そんなことが言えるほど強心臓の持ち主でもない。だからと言ってこの負の感情を消すこともできない。
自分でもわかっている。こんな辛気臭いやつ、自分でもかかわりたいと思わない。でもやめられない。
「とにかく就職活動を始めろ、お前はやればできるんだから。僕は最後までお前を応援する。」
そういうと俺の親友、湊は帰路に就いた。
やっと行ったか。そんな風に考えてしまうくらいには俺は性格が悪い。
あーあ、明日になったら全部、ぶっ壊れていればいいのにな。
――—―――—
なんて考えていたら、人類滅亡がすぐ目の前に来ていた。
自分でも何を言っているのかわからない。そう思うくらいには突然だった。テレビはすべてその話題で持ち切り、スマホを覗いてみてもそれを否定する言葉は一つとしてなかった。
なぜかわからないが俺は心がすっとした。そうだ、世界なんてなくなってしまえばいい。こんなくだらない日々、終わってしまえばいい。なんだか楽しくなってきた。自然と笑みがこぼれる。久しく感じる愉悦に邪魔され自分の異常性には気づかない。
「少し散歩しよう。」
俺はそうつぶやくとサンダルを足に引っ掛け外へと練り歩いた。外は不気味なくらい静かだった。皆、家に引きこもっているか、どこかに逃げているのだろう。そんなことしても意味ないのに。さながらRPGに出てくる魔王のような気持だった。憐れみさえ感じてしまう。
「田中!お前何してるんだよ!逃げるぞ!」
楽しそうに歩いていると、湊の姿が見えた。ひどく慌てている。
「どうしたんだよ湊、どこに逃げるんだよ。」
「お前こそ頭おかしいんじゃないか!?こんな非常時に!」
確かにおかしいのかもしれないが、今のお前の姿よりは、マシだろうなと感じるが言葉にしない。そんなことは無意味だとわかっているから。
「どうしてこんなことになっちまうんだよ、、、」
湊は立ち尽くしてしまった。空を見上げる顔には涙が浮かんでいた。そんな姿を見るとなんだか自分も悲しい気分になってくる。台無しだ。
「、、、僕お前のことが好きなんだよ。」
「、、、!?」
何を言っている?
「小さいころから僕はお前のことが好きで、女の子みたいだと馬鹿にされていた、僕をかばってくれていたお前のことが好きだった。」
「だから変わりあててしまった、お前を見ているとイライラしてしまって、最近は強く当たってしまっていた。ごめん。」
「いきなり何言ってるんだよ。それこそ冗談を言っている暇なんかないのに。」
「冗談なんかじゃない!」
その瞳が、これが本当のことであることを証明していた。
なんだ、馬鹿はれだったのか。勘違いして、失敗して、うずくまって、動けなくなって。
来世はもっと正直に生きなきゃな。そんなことを考えていたら突然目の前が真っ暗になった。手に残っている温もりが今でも熱いくらいに残っている。リセットボタンがあればな。それが僕の最後の記憶だった。