「愛人を作ってもいい!贅沢をしてもいい!だから、とにかくあらゆる言葉で俺の自尊心を保ってくれ!それが俺の条件だ!」契約結婚しないかと言われて二つ返事で了承したらとんでもない条件突きつけられた。
浮気された。慰謝料は分捕ったけど、捨てられたのはこっち。公爵家から追い出され、侯爵家に出戻り。晴れて私はジゼル・オノリーヌ・エドゥアールに戻ってしまった。でも、実家の侯爵家にはすでに爵位を継いだ兄と義姉、甥二人と姪がいる。早く出ていかなければ。幸か不幸か私は結婚したばかりで日が浅く、子供がいない。なんなら色々あってまだ処女です。
「…でも、婚活、ツライ」
死にそう。貴族の女性はみんな私を影で嘲笑う。男の人は…慰謝料を取ってお金こそたんまりあれど、結婚したばかりで日が浅いのに離婚した私を引いた位置で見てくるだけ。いっそ懐いてくる甥と姪を可愛がってこのまま実家に住み続けたい。
「…とはいえ、兄様も義姉様も私に甘いからなぁ。甘え過ぎると却って毒だぁ」
兄はまあともかく、義姉の私への愛は異常なレベルだ。兄より私を溺愛してる。ちなみに、それ以上に兄を愛しているから、アレはもはや狂気の沙汰だ。
「ということで、誰でもいいから再婚してくれ!」
星に願うはそんな虚しい、しかし切実な願い。今日は流星群が見えると聞いて実家近くの丘にこっそりと歩いて来たが、見事なものだ。星は良い。綺麗だもの。ついでに願いも叶えてくれ。
「それは俺でも良いのだろうか」
驚いて振り返る。この声は…!
「ファビアン・ウスターシュ・エティエンヌ様!?」
まさかの本物、完璧公爵と噂のファビアン様だった。
ファビアン様は優しく、眉目秀麗で、お金持ち。文武両道で、魔法も得意。もう言うことなしの完璧超人だ。
「え、あの…」
「俺は前から貴女に声をかけたかったんだが、貴女はいつも俯いていて話しかけづらかった。だが今日は…流星群に貴女との仲を応援してもらおうと思って来たら、貴女がいるし、こんなことを叫ぶし。だから、立候補させてくれ。ジゼル・オノリーヌ・エドゥアール様。どうか、俺と契約結婚して欲しい」
夢?現実?…どっちでもいい!こんな色男との再婚、しかも契約結婚とか却って安心だし!結婚詐欺だとしても釣られてやる!
「もちろんです!よろしくお願いします!」
私って、バカだなぁ…と、どこか冷静な私があきれ果てていた。
その後。数日後に本当にファビアン様はうちに来た。結婚届と、契約書までご丁寧に持ってきた。結婚指輪も用意してあった。兄は目玉が飛び出るくらい目を開き、義姉は本気で失神しかけた。
前夫も公爵だったが、ファビアン様の方が色々と皇室にも顔が効く…というか近しい親戚だったりするので、まあ、より良い家に嫁ぐことができることになる。二人の反応も当たり前だ。甥と姪は何も知らず庭で遊んでいるが。
「…さて、義兄上にも義姉上にもご挨拶出来たし、田舎に行ったという君のご両親にも手紙は出した。ということで、さっさと契約書を完成させて結婚届を出してこよう」
「そ、そうですね」
「君の条件は?」
「浮気しないこと、子供を作るのに全面的に協力すること、不自由のない生活を保障することです」
「そうか、わかった」
契約書の欄にすらすらと私の希望を書いていくファビアン様。ファビアン様の希望の欄はもう記入済みであるようだ。
「ファビアン様の条件は?」
「愛人を作ってもいい!贅沢をしてもいい!だから、とにかくあらゆる言葉で俺の自尊心を保ってくれ!それが俺の条件だ!」
「…なるほど」
とんでもない条件が降ってきた。
実はファビアン様は、完璧超人だが妾腹だ。正妻との子がことごとく病弱で、仕方なく引き取られた。正妻との子はみんな幸せな婿養子になって今はなんとかやっていけているそうなので安心して欲しい。
というわけで、完璧超人の唯一の弱点は自尊心の低さらしい。ぶっちゃけめんどくさい。
が、これ以上ない破格の条件とも言える。とりあえず自尊心さえ高めてやれば私には何もかもが許されるのだ!…浮気する相手もいないし、そもそもそれで離婚してるからしたくないしけど。贅沢だって公爵家に嫁ぐ時点でもう十分保障されてるようなもんだし、足りなければ慰謝料使えばいいだけだし。
うーーーーーーーーーーん。
「頑張ります」
「よろしく頼む!」
結局は、私は出戻り娘という重圧から解放される方を選んだ。
二度目の結婚式は、ファビアン様の優しさで質素なものにしてもらった。豪華なの、つい最近もう大々的にやっちゃったし。今では恥ずかしい…!
「ジゼル、幸せになろう」
「えっと…はい。ファビアン様と一緒に居られるだけで、幸せです」
リップサービス。そう、これは契約結婚。契約内容は、きちんと履行する。
すると、ファビアン様は…。
「…っ!」
ぶわっと赤くなって、同じく真っ赤になってる大きな手で顔を覆った。その姿に祝福に来てくれた親戚達が初々しいなと笑う。
なんか、そんな反応されると。
「…楽しくなってきたかも」
こうして私達の生活はスタートした。
「ファビアン様、今日もかっこいいです!」
「ファビアン様は優しいですね!」
「ファビアン様の夢を見ました!夢の中でもイケメンでした!」
「ファビアン様の妻になれて幸せです!」
「ファビアン様、大好きですよ!」
全てはリップサービス。しかし、真実でもある。だって、相手は完璧公爵だから。そして、その実初々しくて可愛い私の夫だから。
結果、ファビアン様は。
「ジゼル。君は最高の妻だ…!」
真っ赤な顔で、私にそんな最高の言葉をくれるようになった。ちなみに私の条件、浮気をしない、不自由のない生活、子供を作るのに全面的に協力というのももちろん叶えてくれる。最高の夫だ。早く子供の顔が見たいな。
「ジゼル、その」
「はい、大好きなファビアン様!」
「…っ!…あ、愛してる」
「え」
「本気で、好きになってしまった。愛してる」
真っ赤な顔でぎゅっと目をつぶって言ってくる。可愛い。
「私も、愛してますよ」
リップサービス。されども真実でもある。
「本当か!?」
「もちろんです。でも、契約はどうかこのままで」
「も、もちろんだ。でも嬉しい!愛してる!」
まあ、色々意見はあると思うけど私達夫婦はこれが一番いいんだろう。だって、こんなに幸せだから。