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三題噺もどき

私は

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくきゅうじゅうよん。

 お題:屋根裏部屋・小鳥・かくれんぼ



 くらい。

 暗い。

 部屋で。

 1人でうずくまっていた。

「……」

 夜が寒くなってきて。毛布を引っ張り出していてよかった。

 この暖かさが、今の私にはありがたい。

「……」

 人肌恋しいとは聞くけれど。

 今まさにそんな状態になっているものだから。

 1人暮らしの私には、こうやって1人で毛布にくるまるしかない。

 この暖かさは、人とは違えど。

「……」

 こういう時に独り暮らしというのは、ホントに良くない方向へと進んでしまう。

 共に在ってくれる人が居ないと。

 どこまでも、1人で沈んでいく。

 どこまでも。どこまでも。

 止めようがない。

 昔からそういう性格だったりもして。

 もうなんだか。

 むしろ、自分から沈みに行ってるんじゃないかと、思うこともあって。

「……」

 昔からこういう風なのだ。

 何かが、胸の内で溢れたり。何もかもが上手くいかないと思ったり。自分でどうしていいかわからなくなったりする事が。

 たくさんたくさんあって。

「……」

 そういう時は決まって。

 自分のお気に入りの毛布とか、タオルとかをもって。

 家の屋根裏部屋に引っ込んだりしていた。

「……」

 かくれんぼでもしているのかと思われるような。

 頭から、すっぽりと隠れて。覆って。部屋の隅の方に行って。

 自分ひとりで、丸くなって抱え込んで。

「……」

 あの頃は家族だっていたのに。

 私は頼ろうとしなかった。

 なぜだろう。長子ということもあったのだろうか。

 ―あの時に、少しでも人に頼ることを覚えていれば。と。思わないわけもないのだ。幼い頃に染みついたあれこれは、大人になっても残るのだろう。

 助けを求めたくても、声を上げられないのは。あの頃から変わらない。

「……」

 だからきっと。

 今もこうしてる。

「……」

 大人になって。

 社会人になって。

 初めての年。

 社会人1年生というやつだ。

「……」

 ありがたいことに。

 自分が望んだ仕事につけた。

 それはほんとに運がよかったのだ。

「……」

 こんなのも割と昔から。

「……」

 こういう、人生の分け目と言われるような。節目節目のあれこれが、なぜか自分の思うようにいくのだ。

 高校受験も、大学進学も、今回の就職も。きっとこれから先のそいうのも。

 全部、運よく進んでいく。

 それはなんとなくわかっている、

「……」

 けれど、そればかりでは、よくない事も分かっている。

「……」

 だって、全てうまくいくということは、挫折というものを知らないということで。

 挫折を知らない私は、日々の生活の小さな折れ目に、耐えきれない。戻り方が分からない。

 大きな挫折を、知らない私は。

 小さな挫折すら。

「……」

 だから,今日みたいに。

 仕事のミスとか。人間関係とか、悩みとか、折り合いのつけ方が上手くいかなかったりとか。

 そいう細々したものが、積み重なって、折れたとき。

 立ち直り方が、分からない。

「……」

 真っ暗にした。

 自分の部屋の中で。

 ひとり。

「……」

 毛布にくるまって。

 偽物ののぬくもりに包まれて。

 あれこれ考えて、後悔して。

 自己否定が始まって。

 自己嫌悪に終わっていく。

「……」

 いっそのこと、何も知らない籠の中の鳥でいたかった。

 なに一つ。

 外の事なんて知らない。

 守られたままでいられる。

 小さな鳥でありたかった。

 飛び方も教わらず。餌は与えられるだけで。

 ただ、泣くだけの小鳥でいたかった。

「……」

 昔から。

 なに一つ変わっていない。

 私は、このままなのだろうと、ふと思う。

「……」

 崖から落ちて、死ぬかもしれないという恐怖を知らない。

 そのくせ、掠り傷程度の怪我で、こんな風になる。

「……」

 あぁ、もうそろそろ疲れてきたな。

 仕事も。

 人間関係も。


 ―生きるのも。


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