僕は、彼の事が
「いえ、目は見ていません。肌を見ています」
「それは、どうして?」
「わかりません」
「自分のコンプレックスだからとか?」
「いえ、別にそんなに汚くないですよ」
「そうね」
夫人は笑いながら白く金色の花の装飾がかかったカップを、赤赤とした唇に近づける。いや、色は紫色に近かった。もう思い出せない。こんな話はやめよう。変態みたいだ。
今日は、大学に行き授業を受ける。風を切る自転車。ぐんぐんスピードを上げていく。光に近づくほどの速さで。時間が止まったようだ。大学の駐輪場につく。似合わない金髪とピアスをしている大学1年生を横目に私は煙草をくわえる。そして、駐輪場近くの喫煙所へ。そうすると、呼ばれなれた名前が聞こえた。
「壮太!」
「あ、ああ久しぶり(こいつの名前なんだっけ?)」
「お前、これうまいぞ」
「あー、それ、煙きつくね?(煙草にうまいもくそもねぇだろ)」
「いや、それがいいもん」
そう彼は、笑いながら煙草をくわえる。
彼の名前は知らない。だが、彼の堀の深い横顔から見えるニキビ跡のくぼみが大好きだ。
(黄土色の彫刻)
だから名前を覚えたくない。知り合いどまりでいい。私は、観客でしかないのだ。
のどに煙を入れて、
吐く。
これは呼吸か?
何なのだろう。
脳みそのしわに冷気が差し込む。
考えるのはやめよう。
「俺、次授業あるで、行くわ」
彼は、私に別れを告げてくれた。うれしかった。うれしいと感じることに安心した。
「まだあいつの名前を覚えるのは早いな」
まだ楽しみが続いてくれることに感謝し、彼の吸い殻を眺める。そこから立つ煙を消したかった。
私はお気に入りの革靴で、思いっきり踏みつぶした。
「こんなもの、残してはいけない。」「こんな汚いもの」
完璧を求めるが故の不愉快。なんと非生産的なのだろうか。でもその無駄が、美しいのだ。




