表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

第8話 キャプテン、島を出る

土日は更新をお休みします。次回更新は月曜日です


 いよいよ、この島から出港するときが来た。海岸から少し離れた場所では、原住民たちがずらりと並び手を振っている。中には装飾品を着込み、見送りの舞いを舞ってくれる者たちまでいた。


 船には、既に十分なものを詰め込んでいる。同じ量の宝石の、半分の値段で売れる宝石紛。これを用意しておいた樽に詰め、船に積めるだけ詰め込んだの。


 更には薬としての需要が高い、高値で売れるカカオ豆まで大量に持ち帰る。

 またこの島の『虫よけの葉』は強力だ。乾燥させたものでも香りが強く、船に積んでいるだけで虫が寄り付かない。鮮魚に振りかければ、それだけで寄生虫がやられ虫害を防げる。これも虫よけ薬として、強い需要があった。


 どれもこれも、換金効率のよい優秀な商材だ。金貨を超えた大金貨、いや、それ以上の白金貨で数枚分の稼ぎになるかもしれん。


「よーし野郎ども、未練はないな? 立つ鳥跡を濁さず、何も残さずすっぱり割り切って次の港へ向かう。それが船乗りというものだ!」

「「「「了解!!」」」」


 船員の人数を確認しつつ、順に乗り込ませていく。

 すると最後に残ったのは、密航者のガキだった。


「どうした、帰りたくなくなったか?」

「………」

「憲兵に突き出されるのが怖い。娼婦にされるのが嫌だ。だいたい、こんなところか?」

「……そうだよ」


 熱湯の海流の影響で、かなり蒸し暑いこの海岸。

 ガキはその砂浜に座り込んで、最後の抵抗を続けていた。

 なので、襟首(えりくび)をつかんで無理にでも引っ張っていこうとする。

 そんな俺たちに、見送りの集団から抜け出たポテチカが近寄ってきた。


『神様、その娘……』

『ああ、色々とごねだしている。この島があまりに楽しすぎて、帰りたくないんだとよ』

『でしたら、ずっといらっしゃってもよろしいのですよ?』

『それはダメだ。コイツには俺たちの世界でやるべきことがあるからな』


 そう、いくつか言葉を交わすと、ポテチカは手に持っていたあるものをガキへと手渡した。


『これ、あげます。わたしのこと忘れないで』

「……? なぁおい、なんだよコレ」

 うずくまったまま“あるもの”を受け取り、はてなを浮かべたまま俺を見上げるガキ。なので教えてやった。


「それは球根だな。適当にそこらの土に埋めとくだけで、あまり手入れしなくともキレイな花が咲く上物だ。その花は強いぞ、過酷な火山島の密林で生き残るようなやつだからな」

「――そっか」

 そして、素直にガキは球根を受け取った。

 これを受けて、ポテチカは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「何だお前、ポテチカといつの間にか仲良くなってたのか?」

「まぁな。何でか、向こうからよく話しかけてきて……。それで、ちょっとだけ、友達に」


「言葉は分かるようになったのか」

「それはまだ無理。けど、表情とか身振り手振りとかで、色々分かるだろ」


「羨ましいな、その若さと頭の柔らかさ。船員のうち、おっさんになった奴らなんかは、もう頭が固くなって新しい言葉を覚えられんからな」

「何だよそれ、“俺は言葉を覚えられるけどな”って自慢したいのか?」


「いいや、これでも俺は貴族の血を引いてるんでね。体内に魔力を有しているし、その分だけ魔法も使える。つまり『以心伝心』の魔法で、言葉に込められた意図を読み取ったり伝えたりしてるだけさ」

「ずっる」


 なんて言いながらも、軽口の応酬で少しは気が晴れたのだろう。ポテチカから球根をもらったことで気を良くしたのか、素直に船へと乗り込んでいった。

 そんなこんなで、とうとう別れのときだ。

 俺はかがんで、彼女と目線を合わす。


『ありがとよポテチカ、今回も来てよかった』

『そう言っていただけたなら何よりです。ですので――また何度でもいらしてくださいね』

 すろと、不意打ち気味にポテチカは俺の頬にキスをした。


『ああ、何度でも来てやるよ。その度に楽しませてくれよな』

 虚を突かれたが、負けっぱなしは好きじゃない。

 だからそのまま、ポテチカの口に俺はキスし返した。

 舌をすこしねじ込む、夜のキスだ。


「ひゃうッッ!?♡♡」

 頭が真っ白になったのか、あるいは昨日の夜のことでも思い出したのか、彼女はそのままペタンと座り込んだ。

 そんなポテチカの頭をわしわし撫でて、俺は船へと帰るのだった。


『キャプテ――ン・ドラゴの出港だ! 盛大に祝うがいい、皆の衆!』

 見送りの音楽を、海岸の原住民たちが鳴らす中、俺たちは出港する。



 ☆☆☆☆☆



(……まったく、何でこんな子に育ったんだか。ほどほどにしなよ、スケコマシの女たらし君)

 潮風がほほを撫でる中、出港直後に言われたもう一人の俺の言葉を思い出した。

 しょーがねぇだろ。若い娼婦と、それに手を出したスケベおやじの子が俺だ。血は水よりも濃いだけのこと。どうしようもなく好色家なのが、俺なんだから。


 心の中で自嘲気味につぶやいた、まさにその時、遠方に陸が見えて来た。

 帰りの航路は、特に語るべきことは起きなかった。問題らしい問題もなく、密航者のガキもずっと懲罰室の中でおとなしくしていた。


 そして、無事に俺たちは帰って来た。

 港に船をつけると、俺のもとに駆け寄って来たのはパトロンのおっちゃんだった。

 大食いで肥えたゴムまりの体をはずませて、慌ててコチラに駆け寄ってくる。


「お、おい、キャプテンドラゴ。ずいぶん早いお帰りだな!」

「ああ、ちょいと事情があってな。残念ながら『刀国』へ行く前に、帰って来るはめになったぜ」

「だったら丁度いい、聞いてくれ! 実は――」

「ほう……」


 パトロンから飛び込んで来た情報。それは、青い宝石紛が異常な値上がりを見せ、現在高値で取引されていることだった。


「そこで、だ! 誰もがお前から、あの宝石がどこで採れるかを聞きたがってる! 最悪さらわれる可能性もある! ここは念のため、一旦姿を隠しながら――」


「いや、その心配はないぜ、おっちゃん。どういう偶然が重なったのか、正に今その宝石紛を大量に運んできたところだからな。これで需要が落ち着けば、俺に手を出す意味はなくなるだろうよ」


「そ、そうか!? それならよかっ――いや、何でそんなことになってるんだ?」

「まぁ色々あったんだよ。そんじゃあこれからは、宝石紛を売るのに忙しくなるってことか」

「だな、わしも手伝うから利益を幾らか――って、ドラゴお前、何処に行くつもりだ!?」

「忙しくなる前に、済ますべきことを済ましておくべきってだけさ」


 そして、俺は密航者のガキを、騙されて服を奪われた本物の船員のもと連れて行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ