第8話 キャプテン、島を出る
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いよいよ、この島から出港するときが来た。海岸から少し離れた場所では、原住民たちがずらりと並び手を振っている。中には装飾品を着込み、見送りの舞いを舞ってくれる者たちまでいた。
船には、既に十分なものを詰め込んでいる。同じ量の宝石の、半分の値段で売れる宝石紛。これを用意しておいた樽に詰め、船に積めるだけ詰め込んだの。
更には薬としての需要が高い、高値で売れるカカオ豆まで大量に持ち帰る。
またこの島の『虫よけの葉』は強力だ。乾燥させたものでも香りが強く、船に積んでいるだけで虫が寄り付かない。鮮魚に振りかければ、それだけで寄生虫がやられ虫害を防げる。これも虫よけ薬として、強い需要があった。
どれもこれも、換金効率のよい優秀な商材だ。金貨を超えた大金貨、いや、それ以上の白金貨で数枚分の稼ぎになるかもしれん。
「よーし野郎ども、未練はないな? 立つ鳥跡を濁さず、何も残さずすっぱり割り切って次の港へ向かう。それが船乗りというものだ!」
「「「「了解!!」」」」
船員の人数を確認しつつ、順に乗り込ませていく。
すると最後に残ったのは、密航者のガキだった。
「どうした、帰りたくなくなったか?」
「………」
「憲兵に突き出されるのが怖い。娼婦にされるのが嫌だ。だいたい、こんなところか?」
「……そうだよ」
熱湯の海流の影響で、かなり蒸し暑いこの海岸。
ガキはその砂浜に座り込んで、最後の抵抗を続けていた。
なので、襟首をつかんで無理にでも引っ張っていこうとする。
そんな俺たちに、見送りの集団から抜け出たポテチカが近寄ってきた。
『神様、その娘……』
『ああ、色々とごねだしている。この島があまりに楽しすぎて、帰りたくないんだとよ』
『でしたら、ずっといらっしゃってもよろしいのですよ?』
『それはダメだ。コイツには俺たちの世界でやるべきことがあるからな』
そう、いくつか言葉を交わすと、ポテチカは手に持っていたあるものをガキへと手渡した。
『これ、あげます。わたしのこと忘れないで』
「……? なぁおい、なんだよコレ」
うずくまったまま“あるもの”を受け取り、はてなを浮かべたまま俺を見上げるガキ。なので教えてやった。
「それは球根だな。適当にそこらの土に埋めとくだけで、あまり手入れしなくともキレイな花が咲く上物だ。その花は強いぞ、過酷な火山島の密林で生き残るようなやつだからな」
「――そっか」
そして、素直にガキは球根を受け取った。
これを受けて、ポテチカは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「何だお前、ポテチカといつの間にか仲良くなってたのか?」
「まぁな。何でか、向こうからよく話しかけてきて……。それで、ちょっとだけ、友達に」
「言葉は分かるようになったのか」
「それはまだ無理。けど、表情とか身振り手振りとかで、色々分かるだろ」
「羨ましいな、その若さと頭の柔らかさ。船員のうち、おっさんになった奴らなんかは、もう頭が固くなって新しい言葉を覚えられんからな」
「何だよそれ、“俺は言葉を覚えられるけどな”って自慢したいのか?」
「いいや、これでも俺は貴族の血を引いてるんでね。体内に魔力を有しているし、その分だけ魔法も使える。つまり『以心伝心』の魔法で、言葉に込められた意図を読み取ったり伝えたりしてるだけさ」
「ずっる」
なんて言いながらも、軽口の応酬で少しは気が晴れたのだろう。ポテチカから球根をもらったことで気を良くしたのか、素直に船へと乗り込んでいった。
そんなこんなで、とうとう別れのときだ。
俺はかがんで、彼女と目線を合わす。
『ありがとよポテチカ、今回も来てよかった』
『そう言っていただけたなら何よりです。ですので――また何度でもいらしてくださいね』
すろと、不意打ち気味にポテチカは俺の頬にキスをした。
『ああ、何度でも来てやるよ。その度に楽しませてくれよな』
虚を突かれたが、負けっぱなしは好きじゃない。
だからそのまま、ポテチカの口に俺はキスし返した。
舌をすこしねじ込む、夜のキスだ。
「ひゃうッッ!?♡♡」
頭が真っ白になったのか、あるいは昨日の夜のことでも思い出したのか、彼女はそのままペタンと座り込んだ。
そんなポテチカの頭をわしわし撫でて、俺は船へと帰るのだった。
『キャプテ――ン・ドラゴの出港だ! 盛大に祝うがいい、皆の衆!』
見送りの音楽を、海岸の原住民たちが鳴らす中、俺たちは出港する。
☆☆☆☆☆
(……まったく、何でこんな子に育ったんだか。ほどほどにしなよ、スケコマシの女たらし君)
潮風がほほを撫でる中、出港直後に言われたもう一人の俺の言葉を思い出した。
しょーがねぇだろ。若い娼婦と、それに手を出したスケベおやじの子が俺だ。血は水よりも濃いだけのこと。どうしようもなく好色家なのが、俺なんだから。
心の中で自嘲気味につぶやいた、まさにその時、遠方に陸が見えて来た。
帰りの航路は、特に語るべきことは起きなかった。問題らしい問題もなく、密航者のガキもずっと懲罰室の中でおとなしくしていた。
そして、無事に俺たちは帰って来た。
港に船をつけると、俺のもとに駆け寄って来たのはパトロンのおっちゃんだった。
大食いで肥えたゴムまりの体をはずませて、慌ててコチラに駆け寄ってくる。
「お、おい、キャプテンドラゴ。ずいぶん早いお帰りだな!」
「ああ、ちょいと事情があってな。残念ながら『刀国』へ行く前に、帰って来るはめになったぜ」
「だったら丁度いい、聞いてくれ! 実は――」
「ほう……」
パトロンから飛び込んで来た情報。それは、青い宝石紛が異常な値上がりを見せ、現在高値で取引されていることだった。
「そこで、だ! 誰もがお前から、あの宝石がどこで採れるかを聞きたがってる! 最悪さらわれる可能性もある! ここは念のため、一旦姿を隠しながら――」
「いや、その心配はないぜ、おっちゃん。どういう偶然が重なったのか、正に今その宝石紛を大量に運んできたところだからな。これで需要が落ち着けば、俺に手を出す意味はなくなるだろうよ」
「そ、そうか!? それならよかっ――いや、何でそんなことになってるんだ?」
「まぁ色々あったんだよ。そんじゃあこれからは、宝石紛を売るのに忙しくなるってことか」
「だな、わしも手伝うから利益を幾らか――って、ドラゴお前、何処に行くつもりだ!?」
「忙しくなる前に、済ますべきことを済ましておくべきってだけさ」
そして、俺は密航者のガキを、騙されて服を奪われた本物の船員のもと連れて行くのだった。




