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第4話 キャプテン、密林を走る


「野郎ども、俺の急な進路変更でさぞ疲れているだろう! よってここから更に、予定をわずかにだけ変更し――とある休息地へ向かいたいと思う! ただまぁ安心しろ、進路を少しズラすだけで行ける場所だ!」


 俺は今までの船旅で、複数の港町とコネを作っておいた。

 いざという時に立ち寄り、水や食料を補給するためだ。場合によっては捕獲した珍しい魚を売ったり、物の運搬を請け負うことで緊急時に小金を得たりもする。つまり、アドリブが効くように準備しておいたものだ。


 密航者がいたためUターンしなければならない、という徒労感が船員たちにはある。それを、ここで止める。陸で英気を養ってから、高いモチベーションのまま帰港を目指すのだ。


「行き先の名は、かつて俺が発見した新大陸の一部、『宝石諸島』。そこから宝石を持ち帰ることで、俺は東の果て『刀国(トウゴク)』を目指す資金にしようと思う。同時に、今回出来高払いがないと思ってるお前らに朗報だ! 持ち帰る宝石は当然お前らにも分配する! 島には温泉だけでなく、肉も酒も女もある! どうかそこまで頑張ってくれ!」


「うおおおおおっ! キャプテーン!!」

「信じてたぜ、やっぱアンタ最高の船長だ!」

「一生着いて行くぜ、たらふく俺らに儲けさせてくれぇぇっ!」


「勿論だ野郎ども! 稼いで、騒いで、女と遊ぶ! 人生を頑張る理由なんてそれだけでいいんだよォ! その過程でちょっとロマンを追い求め、何だかんだで偉業を為す! そんなんでいいのさ、お前らは! ただ俺について来い! 気楽に行きな、全てのケツは俺がもーつ!」


 そして、ウキウキな男衆たちの手で、船は『宝石諸島』を目指し進みだした。



 ☆☆☆☆☆



 今のところ、『宝石諸島』に立ち寄れるのは俺たちだけだ。厳密に言うと、エンジンを積んでいる俺の愛船、『覇王帆船ノーボーダー号』だけが『宝石諸島』に辿り着くことが出来る。


 何故なら、『宝石諸島』は火山の噴火によってできた場所。その周りは無数の海底火山に囲まれており、火山の熱による不規則な海流が多くの渦を形成しているからだ。

 局所的な地熱による気流の乱れもあり、ここを帆船で超えることは出来ない。

 

 だからこそ、エンジンによって無理やり激流を突き進める俺の船だけが、『宝石諸島』に辿り着ける。


「番号、順に言ってけ!」

 そして、海岸で一列に並ぶ船員たちの点呼が終了した。


「うーし全員いるな! これから島の密林を抜け、この島の総長がいる拠点の村を目指す! その先導を副船長がするため、ちゃんと指示に従うように。これを破って密林に迷い込んだ場合、どうなっても知らんからな! そして、各自手渡した『虫よけの葉』を手放さないこと! 返事は!」


「「「「「「「「「「「「「OK!」」」」」」」」」」」」」」」

「よっしゃ、なら行って来い!」


 最後に俺が号令を出すと、船員たちは列番を守りながらも浮足立って密林に突入した。久方ぶりの陸というだけでなく、始めて来た新入りにとっては未知の冒険でもあるからだ。男衆がロマンを求めて足早になったとして、誰が責められようか。


「よっしゃ、俺らも行くぞ」

「…………」

 俺がそう言うと、ガキは不満げな顔でコチラを睨みつけて来た。

 ガキの手は、その腰に巻き付けた縄をつかんでいる。縄の逆端は同じように、俺の腰で結ばれていた。つまり、俺たちは腰のあたりを互いに縄で縛られていた。


「何、このロープ? なんでアンタと一緒に縛られてる訳? あたしは市場に売られる奴隷か何か?」


「どっちかっつーと、犯罪者を縛っておく手錠とかだろうよ。お前ひとりを船に残す訳にはいかんが、かといって密航者であるお前のために、船員をひとり監視役として置いく訳にはいかん。

 だからキャプテンとして責任をもって、お前の面倒は俺が見るということだ。村に着くまで素直に付いてくるんだぞ」


 俺がそう言って歩き出すも、メスガキは素直に動こうとしない。

 なので縄をピンと引っ張って、強引に俺の跡を付いてこさせた。

 力で負けているメスガキは、そのまましぶしぶ歩き出す。


「……フンッ!」

「可愛くねーやつ。イマイチ反省してなさそーなんだよな」


(あはは、まるでペットと飼い主だね。野良猫を散歩させようとしたら、そりゃあ上手くいくはずがない)

 やかましいわ、もう一人の俺。


 けどそのペットってアイデアはいいな。稀少動物を連れ歩く……貴族の間でブームでも起こせたら、だいぶ儲かりそうだ。

(やめといた方がいい。本来であればいないはずの生物を安易に持ち込むと、きっとその周辺で不利益のほうが生じるから。外来生物は安易に海を超えさせない方がいい)


 あっそ、じゃあ止めとくか。もうひとりの俺が忠告までするんだったら、やらない方が無難だろーからな。

 そして、俺たちが森に入ってしばらく経った。

 突然に後方を歩いていた密航者のガキが叫ぶ。


「キャアァァァァァッッッ!?!? 虫、むし――ッ!!」

「おいお前、渡しといた『虫よけの葉』はどうした」

「おっ、落としちゃったぁぁッッ!!」


 あの葉っぱは原住民が森に入る時、必ず使用する大事なものだ。

 アレがないと大量の虫に集られてしまう。特に恐ろしいのが毒アリだ。人間だろうと容赦なく噛み付く上に、やつらの牙には毒がある。死にはしないが、一匹に噛まれただけで猛烈に痛い。

 そんなアリが何百匹もの群れで寄ってくる。


「ヒィィィィィ! 何これ、何これぇぇぇ!!」


 おまけに、独特の酸っぱいアリの毒の臭いに反応して、どこからともなくハチの大群までやって来る。アリと蜂は近縁種、蜂から羽の針をとればアリになる。そして、蜂は毒針から分泌した毒の臭いを拡散させて、仲間とコミュニケーションを取ったりする。


 だからこの森の毒アリに噛みつかれると、ここに獲物があるぞという仲間からのメッセージだと勘違いした、大量の蜂までもがよってくるのだ。


「痛い! 痛い、痛い、痛い!!」

 そして、アリの噛む力は想像以上に強い。ネズミ捕り器のバチンと挟む勢いが、極小に凝縮されたかのような痛みだ。大人でも普通に出血する。

 そして血が出ると、その臭いに反応してヒルや蚊がやって来る。特にヒルなんかは密林の木々の葉っぱにへばりついてるから、そいつらが一斉に落ちてくるわけだ。


「イヤぁァァァァァ!! 助けッ、助けてっ!?!? 気持ち悪いーッッ!?!?!!!」


 血吸いヒルに吸い付かれると、傷口からバイ菌が入ってくる上に、血が固まらなくなる成分を注入されるから血が止まらなくなる。これが悪化すると、蛇やワニといった猛獣までもが臭いに反応、寄ってくるわけだ。

 だからそうなる前になんとかしなくちゃいけない。


「落ち着けガキ、俺の葉っぱを使え!」

 急いでロープでたどり寄せたメスガキに、俺は俺の葉っぱを押し付ける。額に叩きつけた『虫よけの葉』の強烈な香りが虫を散らしていく。

 これにより、ガキの体からはボロボロとヒルが落ちていった。


 しかし、問題は蜂だ。蜂はアリ毒の臭いに釣られてやって来ているから、毒の臭いと混ざることで『虫よけの葉』の香りが弱まってしまう。そして俺は魔法が使えるが、こういった小さいものがわんさか来る状況に適した魔法は使えない。

 だから――


「このまま逃げるぞ、俺にしがみついてろ!」

「ひ、ひぃぃぃぃっっ!!」


 素直でないコイツでも、流石にこの場面で反発はしなかった。

 パニック状態で、言われるがままにしがみついて来る。

 好都合だ。このまま逃げよう。


「痛ってぇ、ちくしょう! 俺のとこまでアリンコが来やがった!」

(ドラゴ、代わろうか? アリに集られるのはさぞ気持ち悪いだろう。僕に押し付けてもいいんだよ?)

「ハッ。別にいいさ、過保護にならなくていい。これぐらい自分でできらぁ!」


 今、俺に助けられてるガキじゃねぇんだ。これぐらい自分でどうにかする。

 俺はいつか世界を一周する男。それだけにとどまらず、世界の全てを海図に収める男! キャプーテン・ドラゴだ!

 これぐらいのピンチ、自分でどうにかできなくてどうする!!


 そう考える俺の頭に浮かんだのは、何度も訪れたこの島の地図。

 そして、空を見た。太陽の位置から現在地を推測、思いついた対策を実行に移す。

 これで、追いかけてくるハチどもをまけるはずだ。


「おいガキ、聞こえるか!」

「何だよ、聞こえてるよ!」

「俺たちは今、ハチから逃げてる! そして逃げ切るために――()()()()()()()()()()()()()!」

「……は?」


 もう遅い。ガキを抱えた俺ごと、二人一緒に空中に飛び出してる。


「俺たちは今からお湯に落ちる! そのつもりで縮こまってろ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」


 そして、ドボンと盛大な水柱があがった。

 ここは底の深い温泉だ。湧き上がる温泉が崖を流れるうちに、階段状の岩場ができた。そこにお湯がたまり、無数の温泉が集まる露天風呂となった。

 これでアリの毒が洗い流され、蜂の追跡も終わるだろう。


「ゲホッ! がぼっ、ぐほぼぉぉっ!」


 温泉は底が深いため足がつかない。俺は海の男の必修科目、立ち泳ぎができるので平気だが、メスガキの方は溺れかけていた。なので脇腹をつかんで持ち上げてやる。正直、人を持ち上げながらの立ち泳ぎはだいぶキツイが、しばらくの間は何とかなるだろう。


 そして、盛大に水音を立てて温泉に突っ込んだ俺に、入浴していた連中が反応した。ここは原住民族の村の一部。男女で分けられた露天風呂のうちの、女湯にあたる場所。

 そのため俺たち2人に最初に気づいたのは、入浴中であった原住民の少女たちだった。褐色肌の彼女らは全員、唐突な乱入者である俺たちに対し、一斉に声を上げた。


『神様だ!』

『神様が来たー!』

『お祝いしなきゃ。村のみんなに知らせなきゃ!』


 口々に、そう好意的な言葉を口にするのだった。

 

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