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決戦前日の小さな決戦


「ほら、ホロの番よ。早く引きなさいよ」


「うーん、どれにしようか・・・」


 自室にて。シトシトと傘をさすには弱く、何も対策をしていないと結構濡れてしまうという微妙な天気の1日だったが、今日は自室に引きこもってのんびりしようと決めていた。明日は魔主狩りがあるので、無駄な疲れを残さないようにするためだ。


 お気に入りの小説の新刊が丁度村に行った時に出ていたので、有無を言わずに買いつけた。その日の夜から早速読み始めて、少しずつ楽しむために一気に読み進めず、一日一章と決めて読んでいたが、今日は贅沢に行ける所まで読み進めよう。・・・と決意をしたのだが、引きこもる為の必須アイテム、お菓子と飲み物を持って来る時・・・。


「あら?ホロ、今日は出掛けないの?」


 暇そうな姉さんという、この日の予定を全てぶち壊す絶望に出会った。


「ね、姉さん、俺は今から本を読もうt」


「そう、なら丁度よかったわ。私も暇なの!遊びましょ!!」


「・・・はい」


 うちの脳筋はどうやら読書をするイコール暇だということらしい。抗議した所で長年培われた姉弟のヒエラルキーが逆転することなどあり得ない。・・・要は姉さんに付き合わねばならないのだ。


「んで、何して遊ぶの?」


 自分の部屋・・・ではもちろんなく、弟の部屋にズカズカと入り込んで座布団を敷き、読書のお供として持ってきた弟のお菓子と紅茶を遠慮なくむさぼる怪獣に問うた。


「ん〜、前にジャイルに借りてたカードゲームがあったじゃない?ハートとかの模様と12、3くらいの数字が書いてあったやつ」


「・・・え〜っと。・・・あぁ、トランプ?」


「そう、それ!トランプで遊びましょ!!」


 トランプはジャイルに借りてきた遊び道具の中でも、特に家族に好評だった。凡庸性が高く、それ1つで色々なゲームが楽しめる。俺や姉さんだけでなく父さんや母さん、それに兄さんにも不動の人気を誇る逸品だ。


「わかった。じゃあこれ切っといてよ」


 そう言って玩具箱からトランプを取り出して姉さんに渡した。


「いいけど、何処いくのよあんた?」


「追加物資の調達。2人ならお菓子と紅茶のカップがもう一ついるでしょ」


 そういったら、なぜか呆れた様子でこちらを見る姉上。


「相変わらずのやりたがりね、あんたは。仮にも貴族なんだから人を使うことを覚えなさいよ。シャンテさん!悪いけれど、追加のお菓子とカップを持ってきてもらえる?」


「かしこまりました、お嬢様」


 姉さんお付きのメイドさんは静々と一礼して、部屋を後にした。・・・確かになー。姉さんのいう通り、俺はどうにも自分でできることは自分でやりたがる気質らしく、昔から人に頼むのは苦手なのだ。


「んーでも、自分のことは自分で決めた方が楽しいかなーって。例えば下に行く途中までは紅茶の気分だったけど、そこで現物を見たらコーヒーが欲しくなるかもしれないし」


「気持ちはわかるけどね。シャンテ達もこれが仕事なのだから、雇い主が自分たちの領分を侵し過ぎていたらやりづらいと思うわよ?」


 シャカシャカシャカシャカッ


 いや、おっしゃる通りで。そこらへんの塩梅が地味に難しいというか、気を使うというか。そういう意味では俺のお付きのリオさんなんかはよく頑張ってくれている方だと思う。・・・ちなみに、リオさんは今確か洗濯中だったかな?


 そんなことを思いつつ、無心で何気なく姉さんから渡されたトランプを切っていたら、ふと悪戯な笑みを浮かべる目の前の姉上。


「?・・・何?」


「ふふん、これが人を使うということなのよ。弟よ」


 ・・・・あ。そういえば。切っておいてと頼んだはずのトランプはいつの間にか手が空いた我が手に。結果的に姉さんは何もすることなく、ゲームをお菓子紅茶付きで楽しむことが出来たのであった。


 ・・・。なんか釈然としないので、少し嫌味を言ってみる。


「まぁ、姉さんはぶきっちょだから俺が切った方が早いしね」


 ピクッ


 お、片眉が反応した。姉さんも自分が不器用なのは自覚があるのだろう。ふふん。


「何、負け惜しみ?そういうあんたは器用貧乏っていうのよ」


 ムカッ


「出来ないよりは出来た方がいいでしょ。まぁ加減ってものを知らない誰かさんには分からないかな?」


 ピククッ


「いうじゃない。でも確かに?貴族よりも使用人の方が向いているような地味な誰かさんのようにはなりたくはないわね」


 ムカカッ


「「・・・・・・・」」


 睨み合う、ウルフラル家の長女と次男。気がつけばお互いの距離はおでこがくっつくくらい近くなっていて、お互いを牽制している。そんな2人を見たシャンテは慌てて止めに入る・・・でもなく、お菓子と追加のカップを持ってきて、部屋の片隅でため息一つ。心の中ではまたですか・・・なんて言ってそうだ。


「やるか?」


「上等よ」


 お題は神経衰弱。数ある遊び方の中からなぜこれが選ばれたかというと、単純に2人でトランプをする遊びがこれ以外分からなかったのである。ババ抜きなんて、最後まで絶対揃っちゃうし。


 切ったトランプを綺麗に伏せた状態で整列する。見れば姉さんは今から真剣な目付きでトランプを見据えていた。・・・どんだけ負けず嫌いなんだ。


「じゃあ、始めましょうか。負けた方が勝った方のいうことをなんでも一つきく・・・いいわね?」


「はいはい」


 これは俺たち姉弟が真剣に勝負事をするときのルールだ。ちなみに前回俺が負けた時は夕食のデザートを根こそぎ奪われた。・・・大好きなパンケーキだっただけに、あの時は夜中に枕を濡らしたものだ。


「じゃんけん、ほい」


「ふふ、私の勝ちね。先攻はいただくわよ」


 先攻後攻を決めるジャンケンは姉さんに軍配が上がった。まぁ神経衰弱なのでそこまで影響はないが・・・


「あ、揃ったわ♪」


「えっ!?」


「へへーん、あとはこれとこれ!」


「!?!?」


 驚愕で意識を失いかける。神経衰弱は最初から揃うことなんてそうそう無い。カードを開示して、徐々に情報を収集。そしてそれをいかに記憶してカードをゲットしていくかというゲームだ。いきなり2回も連続で当てることなど・・・っ


「ね、姉さん、ズルしてない!?」


「かもねー。でもその種を当てられなければしてないのと一緒よ。第一カードはあんたが切ってたじゃない」


 なんという横暴か!しかしいう通りではある。カードは俺が切って、俺が配った。つまり姉さんがカードに細工をする時間はなかった筈だ。俺にはどうやってルール違反をしているか分からない以上姉さんは普通にカードを当てているようにしか見えない!


「あとは・・・これとこれ!」


 次々とカードを当てていく我が姉上。くそッ。これじゃワンサイドゲームだ!なんとかしないと・・・。考えろ!このままじゃ終わったあとにどんな目に遭わされるか・・・。今回はいざこざから始まったゲームだ。デザート以上の見返りを要求されること受けあいだ!!


「ん〜、そろそろエースが欲しいわねぇ」


 そう言ってハートのエースとスペードのエースをめくる姉上。宣言通りかよ、もう絶対カードの配置が分かってんじゃん!!考えろ・・・この女魔術師はどうやって・・・魔術?そういえば、カードを配置するときにイヤにカードを凝視していたような・・・


 目に魔力を通して、カードを睨みつけてみる。すると全てのカードに細い糸のような魔術痕が。そうか、この女、カードに細工をしたのは俺にカードを渡す前だ。勝負が神経衰弱になるであろうと予測した姉は、全部でエース〜キングまでの数字ごとに13種類の魔力痕をつけたのだ。


 キッ!


 これ以上リードされたら逆転出来なくなる。とっさに魔力で部屋に風を起こし、整列してあったカードを全て空に打ち上げた。


「わっ!?何すんのよ!?」


「あぁ、ごめん。暑くてね。空調を効かせようとしたんだけど、失敗だったみたい。・・・すぐに元に戻すよ」


 そう言って俺は空中でカードをシャッフルした後にまた机の上に並べた。


「全く、魔力制御がなってないわね。今度お母さんに指導()てもらいなさいよ」


 姉さんが気を取り直して、カードを貪ろうとしたそのとき、目から余裕が消えた。


「━━なるほどね」


 魔力痕の上書き。もはや一つずつカードを確認する暇がなかったので、打ち上げた際全てのカードに魔力痕を上塗りした。例えるならば、13種類のペンキが綺麗に塗り分けられていたところに、全て一色になるように全部上から塗りたくったようなものだ。


「これで小細工は無しだよ、姉さん」


「え、なんのこと?・・・あら、ようやく外れたわね。次ホロの番よ?」


 このやろう、しれっとしやがる。・・・しかし、ここで問い詰めても、え?魔力痕何それーそんなのあったんだ〜なんて誤魔化されるに決まっている。幸いにもまだカードはたくさん残っている。逆転することは十分可能なはずだ。


「これとこれ!だーっ!外れた!!」


「じゃあねぇ、、、これと、これよ!・・・あ!!」


 お、よしよし。姉さんが外した上に、さっき開いた数の片割れがあったぞ。


「悪いね、姉さん。いっただっきまーす」


「フン、まだ私がリードしてるもの!問題ないわ!!」


「さてさて、ズルをした姉さんではなくいい子な俺に運勢が回ってきたぞと。それに純粋な記憶力勝負なら俺に部が・・・あっ!?」


 今度は俺が外した上に・・・


「あ!やったわ!それの片方さっきあったやつじゃない!!悪いわね、ホロ、いただくわよ!!」


 このゲームに速さは必要ないのに、スパーン!と無駄に素早くカードを取る姉さん。嫌味・・・ではないな。この反応は純粋に嬉しいのだろう。


「後はー。これとこれ。・・・え!?やった、また当たった!!また当たったよ!ホロ!!」


「!?」


 なん・・・だと?今度は間違いなくイカサマはしていない。現に当てた本人が対戦相手の俺の両手を持ってすっごく嬉しそうにブンブン手を振ってくる。姉さんの野生の勘はイカサマをせずとも十分脅威なのだ。


「しょ、勝負はここからだ!!」


「次も当てられるかなー」


 ・・・と、こんなふうに。いつの間にかギスギスした姉弟喧嘩から始まったゲームはなんだかんだ言って、最後には2人ともすごく楽しそうに進めていったのでした。とずっと成り行きを見守っていたシャンテさんは心でオチをつけたようで、苦笑しつつ勝負が終わった後のために、2人のカップに紅茶を注いでいた。


 ・・・ちなみにだけど。結局、最初のリードがやはり大きくて、俺は敗北を喫したのだった。姉さんからの要求は、今度街で一緒に服選びに付き合い、荷物持ち係をしなさいとのことだった。・・・まじかよ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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