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スカウトと魔物叩き


「ジャイル!いるんだろ!?ジャイル!!」


 ジャイルが玄関を開けると、そこには男が2人と女が1人立っていた。発している言葉通り、柄が悪い男が2人。そして妙に尊大な態度を取る女が1人。・・・うん、なんか典型的なチンピラ3人組という感じだ。


 ━━そんな3人組を怖気付くこともなく、ジャイルはジロリと見渡した後に一言。


「喧しい。1度呼べば分かるわ。豚のように何度も軒前で喚くな、愚か者ども」


 おおう、煽る煽る。我が友人は機嫌を損ねると誰これ構わずこの調子だ。特に礼節がなっていない人間への態度は半端じゃない。・・・まぁ今回のように、相手方の自業自得なことが多いけれど。


「あぁ!?相変わらずいい度胸してんなテメェ」


 いとも簡単に挑発に乗ってくる男たち。今にも殴りかかりそうな野郎どもを、よしなっと嗜める後ろの女。案の定女がこの3人の中のリーダー格らしい。・・・な、なんというテンプレ。このまま額縁に突っ込んでおきたい程だ。


「ふふ、悪かったねぇジャイル。なかなか出てこないモンだからウチの若いもんが血の気を出しちまって」


「全く、いい迷惑だ。今日は友人も来ていると言うのに、この胸糞悪い気分をどうしてくれる?アルガ」


「友人?」


 アルガと呼ばれた女性はジャイルから俺の方へと視線を移す。20代後半の端正な顔立ちをしているが、その舐め回すような視線に気持ち悪さを感じる。何かに利用できないか打算めいたことを考えている表情だ。


「こんにちは」


 そんな目線にもめげずに無難な挨拶をしておく。どんな相手にでも最低限の礼儀は尽くしておかないと、貴族として後々めんどくさいのだ。


「何度も言うようだが、俺は貴様らの所へ行くつもりはない。どんなに金を積まれようと、だ」


 だからとっとと帰れ、と手をシッシッと振るうジャイル。そんな態度にピクっと眉毛が動くアルガ嬢。


「〜っ。下手に出ていれば調子に乗りやがって」


「やっちまいましょうよ!姐さん!!」


 なるほど。要するにこの怪しい3人組はどこの者かは分からないが、ジャイルをスカウトしに来たわけだ。商人、職人にしてみればジャイルの発想、発明はまさに金の卵。放ってはおけずにいつまでも首を横に振るジャイルをこうやって強引に勧誘しているわけか。


 ━━御愁傷様。ジャイルの性格上、こうなってしまうとテコでも動かないだろうなぁ。もはや興味は失われつつあった俺は家の方へ戻ろうとして・・・


「ふふ、そうだねぇ。強引なスカウトはあまり本意ではないんだが・・・我々のことをもう少し知ってもらう必要がありそうだね」


 そう言ってジャイルの方・・・ではなく、なぜか俺の方へと指をさすアルガ。


「ジャイル。これを見たら少しはこちら側へ来ることを考えるだろうさ。おまえ達、あの地味なガキをやっちまいな!」


 ・・・ちょっと待て。


「・・・俺ですか?なぜ?・・・てか地味って言うな」


 気にしてるんだから。貴族なのに存在感薄いですね〜とか村の子供達によく言われて地味に傷ついてるんだから。


「けっへっへ。なるほど、見せしめってやつですね」


「流石は姐さん。・・・オラ、こっちこい、そこの地味ガキ」


 え〜。なんでこうなるんだ・・・。なんとかしてくれと我が友人を見てみるが・・・ジャイルのやろう、笑ってやがる。地味ガキてのがツボだったのかな?


「・・・おい、それだけはやめておいた方がいいぞ、貴様ら」


 と、一見友人を庇うセリフをなぜかカタコトで言うジャイル。


「ふふーん?アンタみたいな冷血漢でもやっぱり友達は大事みたいだねぇ?けれどダメだよ。今からこのガキが痛めつけられるところを見て今まで私達をコケにしてきたことを詫びるんだねぇ!!」


 そのセリフを聞いて、ほくそ笑むジャイル。・・・違う!?ジャイルのヤツ、この状況を楽しんでいやがる!!俺を体良く巻き込んでこの始末を俺に転嫁させようとしていやがる!!?たまらずジャイルに文句をつけようとしたその時。


「ウラァ!!」


 下っ端の1人が俺に殴りかかってきた!ちょっと待てぇぇ!!


 内心でジャイルに億千万の文句を展開しつつ、俺の体は実に合理的に動いていく。


 下っ端との間合いを図り、魔力循環を即時展開。特に使う(・・)人間でもないのは立ち仕草などでわかっている。フェイントもトラップもないと見切った大振りの右拳を半身(はんみ)にしつつ体の内側に流す。空振りによって大きく開いた臓物の入れ物目掛けて、思い切り左拳をぶち込んだ。


 ドゴムッ!


「ぐはぁ!?」


 両膝を付き、悶絶する下っ端A。通常腹打ちは徐々に聞いていくものだが、全く警戒していなかったところに深々撃ち込まれたので、1撃で下っ端の行動を奪った。


「あ、アニキぃ!?」


「ま、魔力!?こいつ魔力を使った戦闘ができるのかい!?」


「そうそう」


 テキトウに答えておく。この世界は魔力が浸透しているものの、案外一般人は魔力を戦闘に用いることは少ない。まして俺のような子供が使うのは稀だろう。


 ━━理由はいくつか。平民が暴動などを起こした際、貴族がそれを抑えるために魔力戦闘技術を秘匿するだとか、そもそも例外を除き、平民は戦う機会が少ない上、魔力量が少なくて技術を磨いたところでブーストがかかる割合が少ないから非効率的だとか。


「こ、このガキぃ!!」


 下っ端Bが今度はキラリと光る得物を取り出す。長さ20センチ程のそれを威嚇するように俺に向けた。自分を殺す手段を見た俺は、意識を喧嘩から殺し合いへとシフトしていく。


「・・・ナイフ、か。━━いいの?それでかかってくる以上・・・加減はしない」


 魔力をさらに循環させていく。己の体をただ目の前の人間を殺すだけの装置とする。


「ま、まちな!あ、アンタまさか・・・ルウ=ウルフラルかい!?」


「それは兄さんだ。俺は次男。━━ただ、見立ては間違っちゃいないよ。アンタ達が今、喧嘩を売っているのはウルフラル家ということだ」


 この発言は平民にとって死刑勧告に近い。平民が貴族に喧嘩を売るということはそういうことだ。貴族として基本的にこの手の脅しはするべきではないし、してはいけないとは思うが、武器を持って襲いかかってくる人間に容赦をする謂れはない。遠慮なく死神のカードを切ることにした。


 ━━これで、もし。相手がかかってくるようならば・・・貴族と同等の権力、ないし実力を持つ者か、或いは・・・


「ひ、引くよ!おまえたち!!」


「「ヒイいいイイイイ!!」」


「よほどの馬鹿か・・・と思ったけど、良かった。そこまでではなかったか」


 引いていく3人組を見て、ホッと一息ついた。話の流れとはいえ・・・家の名前を出した以上、これ以上食ってかかって来た場合、俺は責任を持ってあの3人を殺しておかなければならない。成り行きで人殺しなんてゴメンだ。・・・後処理が非常にめんどくさいし。


「ふっ。これで奴ら、当分はこちらには近づくまい。ざまぁみろだ」


 と、溜飲が下がったのか、一転してご機嫌そうにそんな事をのたまう我が友人。


「ジャ〜イ〜ル〜っ」


「まぁ、そう怒るな。悪かったとは思っている。アイツらにはしつこく勧誘されて困っていてな。善良な領民を守るのも領主の仕事だろう?」


「俺は領主ではないし、お前の何処が善良なんだ!」


 悪知恵をきかせやがって、と半眼で睨んでみるがこの野郎どこ吹く風だ。


「さぁ、中に戻ってまた茶会をしようじゃないか、友よ。礼と言ってはなんだが、新しく発明したおもちゃがあるからそれで遊ぼう」


 そう言ってジャイルは一足先にガラクタ屋敷へと入っていった。


♢♢♢


「・・・それで、新しいおもちゃって?」


 少し心にモヤモヤが残っているが、新しいおもちゃが気になるのでお茶を啜りつつ話を切り出した。するとジャイルはしばし待てと部屋を後にする。どうやらおもちゃはリビングではないところにあるらしい。


「こいつだ」


「・・・この、箱?」


 そう言ってジャイルが持ってきたのは、縦横1.5メートル程、高さ50センチ程の箱だった。その箱には、横にパネルのようなものがついている。そして、9つの穴が空いていて、穴の中には何やら魔物をかたどった人形のようなものが入っている。


「あぁ、これ人形をしまっておくやつ?・・・この人形が新しいおもちゃなの?」


 確かにこの手の人形は見たことがない。大体は可愛い動物をモデルにした人形がほとんどだ。・・・珍しくはある・・・が、人気が出るかは微妙だと思うけど。・・・少し期待しすぎたかな。


「いや、5歳児じゃあるまいし、ただ人形遊びをしようと言うわけではない。これはこう使う」


 そう言って、ジャイルは何やら魔導石に自分の魔力を込め始めた。魔導石はコードでその箱に繋がっていて、箱の中に魔力が送られると、箱が淡く光を放った。すると・・・。


 ぽこんっ


 に、人形が飛び出てきた!?


 すると、ジャイルはすかさず右手に持っていたフカフカしたハンマーのようなもので、魔物人形の頭をパカっと叩いた。たまらずひっこむ魔物人形・・・だが次は別の場所から再度魔物人形が飛び出てくる!


「お、おお、おお!!」


 パカっパカっとリズムよく出てはひっこむ魔物を叩いていくジャイル。出てくる魔物はランダムで、何処から出てくるか分からない。おまけに、時間が経つにつれて、ペースが早くなり、時には同時に、2、3体同時に出てくる!


「くッ、このっ!」


 見れば最後の方はジャイルは息を切らすほど、体力と神経を使っていた。最後の方には叩く前に引っ込んでしまう人形も出てくる。そして、3分程経つと、箱から淡い光が消えて、人形達が引っ込んだまま動かなくなった。


「ふぅ、こんなものか」


 満足げに一仕事終えたぜーという感じで息を切らすジャイル。見れば箱の横についているパネルに94という数字が映っている。94回叩いたという事だろう。


「おー、面白そうだね、これ!!」


「名をモグ・・・魔物叩きという」


「まんまだね」


「まぁな。ご覧の通り魔力を込めれば、ランダムで魔物達が出たり引っ込んだりしていくから、3分でそれをどれだけ叩けるかというものだ」


 そう言ってジャイルはハンマーを渡してくる。やってみろという合図だろう。よーし、ジャイルよりも高得点を狙ってやる!


「準備はできたか?魔力を流すぞ」


「はいよ」


 俺はいつ魔物人形が出てきてもいいように盤面に釘付けだ。横でなぜかジャイルがニヤリとした気がしたが・・・疑問を咀嚼するより先に、盤面が淡く光り始めた。ゲームがスタートする合図だ。・・・?盤面の光が先程とは色が違う?


 ぽこここんっ!!


「なぁ!?」


 い、いきなり連続で三つ出てきた!?それから明らかに先程のジャイルとは段違いの速度で次々と出てくる魔物人形達!俺はそれに対応すべく、神経を張り巡らせて次々叩いていく!!


「ちょっ、ま、、、、わっ!!」


 パンパンスカパンパンスカパンっ!!!


 は、速い速い速いってー!?明らかに叩けない速度で出たり引っ込んだりしていく魔物人形。げっ!!終いには全て同時に魔物が出てきやがった!!?


「はーっはーっはーっ」


 ・・・気がつけば終わっていた。表示パネルを見たら俺が叩いた数は465匹。先程とは明らかに配分が違う。肩で息をしながら、ジャイルに目をやるとしれっとした態度で、ゲームを見ていた。


「ふむ。このくらいの魔力だと、3分でおよそ500匹叩ける感じになるか。後はやっぱり叩いたら、いてっとかそういうリアクションが欲しいところだな」


「・・・これっ魔力量で・・・ゼェ・・・難易度が・・・っ」


「あぁ、変わる仕様になっている。今日はお前もいることだしな。どの程度の魔力量でどのくらいの難度が変わるのかを分析するつもりだ。・・・さぁ、何をしている?そろそろ2セット目だ」


「ちょっと・・ま・・・」


 こうして俺は夕方まで、ジャイルのモルモットとして、こき使われたのである。

 





読んでいただき、ありがとうございます。

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