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情報収集


「領主様!」


「閣下!」


 接近するアイアンウルフを倒した後、見張りの騎士2人がこちらへと駆け寄ってくる。見れば残っていたアイアンクルフもすでに急所を裂かれて、倒されていた。


「ふむ。久しいな、2人とも。確か、、、秋の合同訓練以来か。息災だったか?」


「はッ。領主様もお変わりなく。・・・申し訳ありません、お手を煩わせてしまい、、、」


「お陰で、安心して残る1匹を討伐できました!感謝致します!!」


 2人は片膝をつき、うちの父さんに頭を下げている。・・・こうして見ると偉い人なんだなぁと実感する。・・・とても家で母さんにしばかれたり、意地を張ってブラックコーヒーを飲んでいる同一人物とは思えない。


「ふむ、2人とも相変わらず魔力探知が苦手科目の様だな。・・・ともあれ、こちらこそ村を守ってもらい感謝する。・・・表をあげてくれ。紹介しよう、次男のホロ=ウルフラルだ」


「ホロと申します。以後お見知り置きを」


 こちらも一応貴族の次男。それなりに礼節は弁えているので、辿々しくも丁寧に自己紹介をしておく。


「おお、貴方が。申し遅れました、ポトフと申します。・・・そして、こちらはクリフ」


「こんにちは!貴方が今回の初メイン!!クリフっす!よろしくお願いします!!」


 どうやら、最初の一体を仕留めた、真面目だがやや頭がカタそうな騎士がポトフ。身が軽く、口も軽い騎士がクリフとのことらしい。なんとなくだがバランスの取れた二人組だ。


「ポトフ、クリフ。ここの後始末は任せて良いか?」


「承知いたしました。じきに応援も来ますし、お任せください。・・・お二人は今から役場で顔見せと情報収集ですね」


「ふむ。頼んだぞ。役場には後処理が終わり次第、人の出入りを許可するように言っておく」


 助かりますと、丁寧に礼を言った後、二人は慣れた手つきで魔物の死体処理をしていく。2分程したら、騒ぎを聞きつけた応援の騎士達が到着した。皆、俺達に・・・いや、正確には父さんに気づき、驚きつつも挨拶をしてきたが、今優先すべき順位を弁えていて、すぐに後処理の手伝いへと向かっていた。



♢♢♢


「そういえば、ホロよ。先程の問いは分かったか?」


 役場へ向かう途中で父さんが問うてきた。・・・あぁ、なぜ追い払うのでは足りず、確実に討伐をしなければならないか・・・だったか。


「あの二人を見てたらなんとなくね。・・・多分下っ端を生かして返せば、群れのボスへと報告が上がって、報復でこの村へと襲撃が来るってこと?」


「ふむ。襲撃が来る・・・という所は合っているな。━━だが報復で、と言うのは違う。先の奴らは威力偵察だ。主は群れから四方に下っ端を放ち、どこが一番侵攻しやすいかを決めているのだ。その中で帰ってこない所には群れの脅威がいるとみなし、侵攻は遅らせる」


「なるほど。逆に普通に帰ってきたところには、自分たちを排除できる危険因子はいないと判断して、そちらに歩を進める訳だね」


 そうして領土を拡大していくわけか。・・・実に合理的。コロニーと言うのは、思った以上に組織的に出来ているのだ。


「そう言うことだな。その習性をあえて利用して狩りをしていく訳だが・・・まぁそれは中で話そうか」


「え」


 ・・・考えることに夢中で気がつかなかったが、コロニーの問答をしているうちにいつの間にか役場の前に着いていたようだ。


 役場は村の中央十字路をさらに北側へと進んでいくと、ドンと建っていた。他の建物に比べれば一際大きく、特に豪華な作りにはなっていないが、村の重要な事柄を決めるときに人が集まる施設なだけあって、機能的な作りをしている・・・らしい。


 玄関から中に入ると、一番奥の部屋の前に、この村の村長と、逗留している騎士の団長と思われる人が立っていた。父さんの姿を目視すると、二人とも慇懃に頭を下げる。


「お待ちしておりました、領主様」


「お久しぶりです。秋の合同訓練ではお世話になりました。オルドラ騎士団ちょ・・・いえオルドラ様」


「うむ。二人とも出迎えありがとう。ハナ村長、今年もいい野菜を送ってくれてありがとう。妻も料理人も喜んでいたよ。・・・それとカイン、私が団長を引退したのはもう10年以上前だぞ。いいかげん慣れてくれ。今は貴様が団長だろう」


 はっはっはっと。3人は形式上の挨拶もそこそこに楽しそうに会話をしている。だが、大人同士の会話は子供にとって退屈なのだ。2人とも知っている人だし、気配を殺しつつ部屋に入って、会議が始まるまで隅っこでやり過ごそうと考えていると・・・


 ジロリ


 ・・・こわっ。父上閣下が談笑をしながらも、こちらを睨みつけるという離れ技をやってのけた。・・・やっぱり挨拶もせずにこの場を離れるのは無理なようだ。・・・堅苦しいのは苦手なんだよなぁ。仕方なしに3人のもとへ、トコトコ近づく。


「こんにちは。ハナ村長、カイン騎士団長。秋風がたち始め、幾分すごしやすくなりましたがいかがお過ごしですか?」


「おお、これはこれは、ホロ様。おかげさまで作物の育ちも良く、村人一同豊かに過ごさせていただいております」


「ホロくんも元気そうで何よりだ。うむ、なるほど。父君に似て精悍な魔力を纏うようになってきたな。これならば今回の初陣も期待出来そうだ」


 お二人は上機嫌に、俺の最近の様子だとか、姉上のこととか色々聞いてくる。背筋を伸ばしつつニコニコと対応しているが、やはり厄介なのは・・・


「そういえば、ホロくん。アーチボイス家とリンケンス家からお茶会の歓待があったぞ。今度会うことを伝えたら是非ホロくんもカグラちゃんと共に誘っておいてくれとのことだ」


 これである。・・・貴族としてはダメなのかもしれないが、どうもこのお茶会というのは苦手なのだ。しかも大概が俺を招くと言った程ではあるが、その実兄さんや姉さんに近づいておこうとする輩がほとんど。・・・いやはや、優秀な姉や兄を持つと苦労する。


「分かりました。しっかりと『姉』にも伝えておきますね」


 ニコリとしつつ、姉の部分を強調しておく。歓待があった貴族は姉狙いなのが分かっていたのだろう。カイン騎士団長も苦笑いを浮かべている。


「ところで、そろそろコロニーの情報をお聞きしたいのですが」


「おお、そうだな。では奥の会議室まで行こうか。村長、準備をお願い致します」


「わかりました。ささ、お二人ともどうぞこちらへ」


 こうして、村長の案内のもと資料がある場所へと案内された。


♢♢♢


 会議室には主に20人程の騎士たちが揃っていた。小隊長や、中隊長クラスの人たちが前で、役職を持たない人達が後ろに控えている。皆今回の狩りのサポートをしてくれる人たちだ。かく言う俺はメインということで、一番前のど真ん中に座らされた。学校で言う教壇の位置だ。・・・ほんと勘弁して。


 案の定ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。「・・・おお、あの方が」とか「あの年でもうメインかよ。・・・あの程度の魔力量で」とか肯定的だったり批判的だったり話し声が入り乱れている。・・・生まれつき耳がいい俺にはすっごく気まずい。


 早く始まらないかなぁと思っていたら、俺のことを汲んでか、カイン団長がすぐに会議を始めてくれた。ありがたい。流石にヒソヒソ話はもうなくなった。


「事前にお送りした情報通り、今回のコロニーはランクD。・・・規模もさほど大きくなく、初級〜中級下位の主から形成されるコロニーと推測されます」


 案内された会議室で改めて資料をもらい、用意された椅子に座って目を通す。コロニーは主の強さ、大きさによってランクが変わる。今回のDと言うのは一番低いランクだ。


「カインよ、主は判明しているのか?」


「えぇ、お二人は先程アイアンクルフとの戦闘にご参加いただいたとか。・・・今回はその上位種であるグレイアンクルフですね」


「グレイアンか・・・まぁ大方予想通りだな」


「えぇ。斥候の話ですと、今コロニーは、第二段階に突入した所だという報告が上がっています。・・・先程村への威力偵察が来ていたことからも、それは伺えますね」


「ふむ。『逃し口』は何処に設定しているのだ?」


 逃し口?と俺が疑問符を浮かべていると、村長が周辺の地図持ってきて、机に広げてくれた。カイン騎士団長が麓の山から右下あたりを指さす。


「南東の廃村です。ここならば人々の犠牲もなく、生態系も比較的崩れにくいかと」


「『炙り出し』から大体六つ時程度の距離か・・・やや遠いが、総合的に見ればそこがベターだろうな」


「ねぇ、父さ・・・父上。逃し口とか炙り出しと言うのは、なんですか?」


 話が弾んでいる中申し訳ないけれど、聞き慣れない単語の連発により話に着いていけないので質問をする。すると3人とも特に気分を害するわけでもなく教えてくれた。ただまたヒソヒソ話が少し。


「ふむ。まず先程の第二段階というのは、主がコロニーを拡大する為の下準備というのは教えたな」


「うん、威力偵察が帰ってきた所から勢力を拡大していくヤツ」


「その習性を利用して下っ端を討伐する箇所と、あえて討伐しないでおく箇所を作っておく。そうすれば群れは自ずと討伐していない方向へ向かうので、ある程度の誘導が可能なのだ」


 父さんが山の周りをペンで囲うように線を引き、南東の村の方だけCの字の様に穴を作る。


「こうやって戦闘に入っても、比較的被害が少ないところにコロニーを誘導していくことを、『逃し』という。そして誘導した後、主を叩く場所が・・・」


「逃し口」


 父さんとカイン団長はコクンと頷いてこちらをみる。・・・成る程、単純に村を襲いに来ない・・・だけでなく、そういった観点からも先程のアイアンクルフたちは確実に討伐しておかないといけなかったのか。群れが何処に勢力を拡大するかわからなくなるから。


━━とどのつまり。俺はこの廃村で主を迎え撃つわけだ。


「じゃあ、炙り出しは?」


「コロニーの主がより確実に且つ短時間で逃し口へいくために、逃し口以外の所から攻撃を仕掛けることだ。群れを刺激することになるものの、これをすることでじっくり侵攻されるより、他への被害確率が格段に減る」


「なるほど」


 カイン騎士団長の答えに納得し、ありがとうございますと礼を言う。それを見たカイン騎士団長は一つ頷いた後に話を続けた。


「そして肝心の第三段階・・・『規模拡大の実行』までの予想推移はあと5日程度です」


「ふむ。思ったより早いな」


 父さんは髭を親指と人差し指で撫でつつ、思案するそぶりを見せた。・・・大切なことを決める時の癖みたいなものだ。


「・・・よし、わかった。・・・ホロ、3日後に炙り出しを実行する。覚悟はいいな?」


「3日後に炙り出しをするということは・・・」


 ━━3日後、魔主を狩る。父さんをまっすぐ見据えてそういうことだね、と理解を示す。・・・正直思ったより早くて戸惑いはある。けれど、姉さん達との稽古でいつでも闘う覚悟だけは固まっていた。


 父さんは俺の目を見て、満足げに頷き、全員で3日後の詳細をさらに詰めていった。








お読みいただきありがとうございます。

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