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母さんと魔力運用


「ホロ、明日の午後は予定を空けておいてくれ」


 家族会議の日から2日後の昼食過ぎ。リビングで本を読みながらゴロゴロしつつ、そろそろ自主練習に行こっかなーというときに父さんに呼び止められた。


「えーなんでー?1週間後に魔主狩りでしょ?稽古でもしようかと思っていたのに」


 父さんは仕事をしていた手を止めてこちらを見る。書斎こそあるものの、最近はリビングで事務作業をしていることが多い。・・・今手元にあるのは、領地の予算配分書かなんかかな?


「それは大変結構だが、その魔主狩りの件でな。麓の村に先見隊がコロニーの情報を集めて帰ってきたのだ。それを聞きに行きがてら、今回協力してくれる者たちに挨拶をせねば」


 なるほど。どうやら父さんが持っていたのは、先見隊からの手紙だったらしい。協力してくれる人たちへの挨拶も勿論だが、特にコロニーの規模と主の情報は直に詳しく聞いておきたいな。


「そういうことなら、わかったよ。・・・そしたら午前中に稽古は回すか・・・あ、ついでに村の友達と遊んでもいい?」


 ダメもとで聞いてみた。姉共々座学の時間が最近はあまり取れていないので、情報を聞いたら帰って勉強だろうなぁ。


「あぁ、構わんぞ」


「え、いいの?」


 おぉ、嬉しい誤算。麓の村は地味に遠い為、友達に会いに行くにも一苦労なのだ。用事のついでに会えるのなら会っておきたい。お堅い父さんにしては粋な計らいだ。


「最近は稽古意外でも自主練に励んでいるし、あまり友達と遊ぶ暇もないだろう。多少の融通は効かせよう。・・・ただし、狩りが終わったら、遅れている分の座学はしっかり取り戻すように」


「・・・はーい」


 ・・・ちっ。勉強は避けられなったか・・・。まぁいい、そしたら早速手紙を送るか。


「じゃあちょっと鳥を飛ばしてくるね」


「うむ。わかっていると思うがあまり長い時間はとれんぞ。三時間〜六時間くらいだからな」


 そう言って父さんはまた仕事へと没頭していった。はーいと返事をしてみるものの、もう聞こえてないだろうなぁ。うちのバロン閣下は相変わらず事務作業となると凄い集中力だ。




♢♢♢



 拝啓 ジャイル様


 昨今、すごく暑い中、いかがお過ごしでしょうか?


 さて早速ではありますが、本題です。明日麓の村に行くので、夕方頃にお土産持って遊びに行くから、お茶を用意して待っといてよ。


 p・s お土産はクッキーでいい?


 ホロ=ウルフラルより



「うん、こんなもんか」


 自室の住み慣れた空気を吸いつつの執筆活動。気心が知れている友達じゃないと、とても書けないようなテキトーな文章をぱぱっと書いていく。急な話だし、これであっちが予定入ってたら仕方ないか。


「トランス、手紙鳥〈レターバード〉」


 魔用紙と呼ばれる、特殊な紙に魔力を通していく。すると紙が、勝手にパタンッパタンッと折られていった。何度見ても面白いなぁ。


 みるみるうちに手のひらサイズの鳥の形になった紙が、チチチッと鳴いて肩に乗ってくる。準備が出来たので行き先を教えてくださいと言っている様だ。只の紙のくせに非常に動きがリアルである。


「魔力識別番号005まで頼むよ」


 チチッと手紙で出来た鳥は鳴いた後、窓から勢いよく飛び出していった。


 魔力というのは、個々に性質が異なる。指紋のように一人一人が違うものらしい。レターバードは魔力を感知し、その性質を識別することができる。そしてその魔力目掛けて飛び立つので、メッセージのやりとりが出来る・・・のだとか何とか。


 正直便利だけど、ジャイルの発明品は仕組みを説明されてもよくわからないんだよね・・・。いつか、電波とかいうものを使ってどんな長距離の相手とでも一瞬で会話ができる装置を作るとか言ってるけど、どういう事?て感じだし。


 そんな事を考えながらも、ひと段落ついたので紅茶を一口。・・・うん、美味い。コーヒーといい、性格はアレだが、やはりリオさんはいい仕事をしてくれる。・・・さて、これを飲んだら稽古にでも・・・


 コンッココンッ


「おーいホロくん、ちょっといーい?」


 ノック音と共に聞き慣れた、母さんの声。相変わらず独特なノックをするなぁ。


「はいはーい、どーぞー」


 ごめんねーという掛け声と共に部屋に入ってくる母様。のほほんとした笑顔をしながら、キビキビとした軍人の様な動きで部屋に入ってくる。・・・・・そこまでは問題ない。


「どうした・・・の」


 ━━━絶句した。


 そこには、45リットルくらいの大きな袋を抱えている母上の姿があった。右肩に担いでいるその姿はまるで泥棒のようだ。


「・・・母さん、それなに?」


「なにって、明日麓の村に狩りの挨拶に行くんでしょ?お土産にクッキーを焼いたからどうかと思って」


「・・・・クッキーって、それ全部?」


「そうよ?」


 それが何か?って感じで、いかにも貴婦人よろしく右頬に手を当てて首をかしげる我が母上。最近お菓子作りに凝っている母さんが、お土産にお菓子を作るのは問題ない。けれど・・・


「量、やばくない?」


「?そうかしら。これ作ったうちの、3分の1くらいなのだけれど」


「どんだけ作ってんの!?」


 ということは、現在この屋敷には後、90リットルくらいのクッキーがあるってことだ。うちの母ちゃん、マジで手加減知らず。そういえば、昔裁縫に凝っていた時も屋敷の一室が埋まるほど服やら何やら作ってたな・・・。


「今回は馬車じゃないみたいだし、とてもじゃないけどこんなに持っていけないよ。クレータは入ってるの?」


「クレータって・・・あぁ、保存料ね!えぇ、入っているわよ」


「じゃあ1週間は保つね。屋敷の冷室に保存しておいて、誰かが来た時とかおやつの時とかに少しずつ消化してくしかないよ。俺も遊びに行く時なんかに持ってくから」


 そうすれば全部駄目にならずに済むだろう。・・・当分お菓子はクッキーにはなるけれど。・・・姉さんも好きだし、何とかなるだろう。


「それもそうね!ご近所さんにも配りましょうか!・・・ふふ、ならば段々コツが掴めてきたから、明日には第2弾を作るわね!」


「駄目!当分クッキー作りは禁止!!」


「え〜、なんでー?」


 このままじゃ、うちの屋敷は・・・いや、このご近所一帯は母さんが飽きるまで、クッキー地獄と化すだろう。・・・もう少し適量というものを覚えてほしい。


「シャナさん、とりあえず母さんの持っている大きな袋から、小さな袋へクッキー小分けしてくれますか?」


 母さんお付きのメイドさんに、細かくお裾分けできるようにお願いをする。・・・というか黙って見ていないでこうなる前にアドバイスの一つでもすればいいのに・・・


 ブツブツとせっかくコツが掴めてきたのにーとか、ブー垂れている母さんにため息を一つ。・・・あ、そういえば、母さんにお願いしたいことがあったのだった。


「所で国家魔導師サマ。そろそろ稽古の時間なんだけど、ちょっと見ててくれる?魔力と体との接続が最近調子悪くて・・・」


「あら、いいわよ。じゃあ裏庭に行きましょうか」


 

♢♢♢



 国家魔導師━。その名の通り、国が認めた魔術を指導する先生のこと。この魔術が発達した世界で、より専門的な知識と卓越した魔力運用、事細かに論理展開が出来る魔術分析力に優秀な指導力が求められ、4回の難問試験に合格しなければ取得出来ない、非常に狭き門の国家資格である。


 そんな資格を持っているウチの母さんに現在指導を頂いている訳で、非常にありがたい状況な訳だが・・・


 

 「ねぇ、その足のバケツは何?」


 「だって、暑いじゃないー」


 裏庭の木陰でバケツに水をぶち込んで足でバシャバシャしている貴婦人が1人。指導をする上で何の問題も無いといえば無いのだが、TPOってものがあると思う。


「母さん、もうちょっと緊張感を持ってよ。身が入らないじゃん」


 母さんはそれでも足を冷水から出すのを止めず、あまつさえシャナさんから本を受け取って読み始める始末だ。・・・ちなみに本のジャンルは魔術に関するものでも何でもなく、ただのミステリー小説。


「それよ」


「え?」


・・・それってどれだ?


「ホロくんが魔力と体の接続が悪いと言っている原因。・・・それは結局魔力に対する意識の仕方なのよ」


「どういうこと?」


「貴方は、無意識に魔力を特別なものと考えて、扱おうとしている。・・・緊張感を持ち、気持ちを入れて初めて発動する力。・・・つまり、自分が自然に出来る事柄とは別物だと考えている。それではどう足掻いても、スムーズな接続は厳しくなるわ」


 ・・・・ほう。


 よく見れば、魔力に対する意識の仕方を説きつつも、母さんはミステリー小説を読みながら、まるで呼吸をするかのように足にあるバケツの水を、魔力運用によって常に循環させている。その手には先ほど作ったクッキーが一つ。


「クッキーを作る様に、意識的に魔力を扱うのでは3流。クッキーを無意識に手で取って食べるように魔力を扱えて2流。・・・1流の魔力運用をしたければ、クッキーを体内で消化するように魔力を扱える様になる事よ」


 「・・・なるほど」


 つまり魔力を生理現象レベルで当たり前に扱えという事だろう。試しに自然体に自分の体を立たせてみる。

出来るだけ違和感なく丹田から血液が流れていく様に体の隅々まで魔力が行き渡らせる。ある程度循環が出来てきたら、今度は循環から意識を手放して━━


「わっ!!!!」


「うひゃッ!!?」


 突然の衝撃と声。気がつけば、母さんが俺の背後に回って背中を押したのだ。・・・顔が悪戯が成功した時の姉さんそっくりである。


「母さん!せっかく上手くいきかけていたのに!」


「あら、ホロくん。これも鍛錬のうちよ?びっくりしたくらいで魔力を乱している様ではまだまだだわ」


 ━━━まずは感情が乱れたとしても魔力は乱さない様に成りなさい。それが今日出された母さんの課題だった。理屈は分かるが、いざ実践となるとこれが難しい。


「〜〜ッ。次こそは!!」


 こちらにも意地というものがある。せめて今日一日くらいはもう決して魔力を乱さないように心に誓い・・・


「そうね、頑張ってね!・・・そうだ、カグラちゃんにもホロくんをおどかす様に言っておかなくちゃね」


 母さんの一言で今日一番魔力が乱れた。



 


お読みいただき、ありがとうございます。

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