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魔主狩り2


「姐さん!やりましたぜ!!ドンピシャのタイミングで爆発しました!!」


「これでウルフラル家の奴ら、相当焦りますね!!」


 森から西側に少し離れた広野。あたり一面を見渡せる一際高い丘の上に4人のシルエットがあった。そのうちの1人が、ご機嫌にカッカッとハイヒールを鳴らして一歩前に。


「フン、ざまぁないね。アタシたちをコケにした罰さ」


 ジャイルをスカウトしに来た、絵に描いたような悪党3人組が溜飲下がる思いで森の戦いを鑑賞している。


「しっかし、あんたの爆発の魔術も大したもんだね。こんな離れた所から起動できるなんて」


 その3人から少し離れたところ。森の全体が一番見える箇所に、フードを深く被った男が1人静観している。その男に向かってアルバは鼻歌混じりに話しかけた。


「・・・何、君達が指定した位置に火薬を置いてきてくれたおかげさ。それにまだきっかけを作ったに過ぎない・・・・。実験はこれからだよ、アルバ嬢」


 フードの男はそう言って懐から手のひらサイズの青い玉を取り出した。美しく群青色に輝くその玉は不思議と威圧感があり、アルバはそれを見て2歩下がる。


「・・・なんだい?ソレは」


「・・・ちょっとした魔石さ。主専用のね。・・・それよりも、そろそろ移動しようか。流石はオルドラが収める領地の騎士団だ。あの混乱の中でしっかりと魔物達を逃し口の方へ誘導していってる。クック、全くいい仕事だよ」


「・・・・・」


 ━━やぁ。あんたたち、エドルドル家のスカウトマンだろ?ウルフラル家に一泡吹かせられる計画があるんだが、乗らないかい?


 とある街の酒場で問いかけてきた、フード越しからでもいびつな笑い方だと分かる不気味な男。胡散臭い男ではあったが話を聞いているうちに、あの憎き小僧に復讐するチャンスだと理解が及ぶ。


 ━━ウルフラル家という後ろ盾がなくなれば、あの頑固な発明家(ジャイル)も首を縦に振るだろう。・・・そういう打算も相まって、アルバは喜んでこの不気味な男と盃を交わした。


 ・・・だが。アルバはこの男を何一つ信用していない。


 あの時はやけ酒に酔っていたが、そもそもこの男はなぜ自分達が他領のものだと見抜き、ウルフラルの小僧との確執が生まれたことを知った?その上、魔主狩りなんていう領主の極秘事項案件の詳細を熟知し、それをわざわざ乱すという行為に至る?


 正体、動機、面構えさえも分からない相手を信じろという方が無理だろう。


「まぁ、今は乗っておいてやるさ」


 少しでも不利益が生じようものなら、即座に手のひらをクルリと返そう。アルバはそのつもりで紅色の唇を釣り上げた。


♢♢♢


 爆発の魔術で攻撃を仕掛けるタイミングを狂わされ、統率が乱れている魔物達を狩らねばならないこの状況下。オルドラ男爵は眉毛一つ動かすことなく、騎士団たちに指示を送る。合間に魔法瓶を取り出し、暖かいコーヒーを口に含んで味わいを楽しむほどの余裕っぷりだ。


 ━━この程度の瑣事、トラブルというのもおこがましい。


 オルドラが指揮する騎士団達は、戦い、逃げ惑い、隠れてやり過ごそうとする魔物達を余すことなく確実に南の逃し口の方へ追いやっていく。何処に行こうが、どのような行動に出ようが、オルドラ達がいる以上、北の方角は魔物達にとってデットラインだ。それが分かっているのか、必然魔物達は逆の方向へ逃げていく。


「報告いたします!たった今タカから連絡がありました!逃し口から、東の方角へカイン騎士団長が騎士達を率いて、応援に行かせた模様です!」


「ふむ。なれば逃し口はカグラが指揮を取る形にした訳か。臨機応変でよろしい。まぁホロの負担が大きくなるだろうが仕方あるまい」


 ホロ本人は慎重派なので不安だろうが、客観的に見てグレイアンクルフ程度ならば1人で相手どっても問題はないだろう。側近と連携されれば厄介だろうが、カグラが指揮下に入れば側近は十分引き剥がせるはずだ。


 ━━問題があるとすれば・・・


♢♢♢


 森の西口。結論から言うと、そこは異様な光景だった。魔物が跋扈し、至る所で戦闘が繰り広げられているこの森で、ここら一帯はとても静かだ。朝日が上り、おだやかな空気とともに小鳥達が鳴き始めたような穏やかさが西の森に漂っている。


「こちらハネ。うん、分かったわ。メインはそのままホロ君、逃し口の指揮はカグラちゃんがとるのね。とりあえず、当初の予定通り魔物達を連れていくと、ホロ君に伝えてちょうだい」


 優雅に、まるで散歩をしているかのように南へと歩き出すウルフラル夫人。その表情は余裕に満ちていて、森を散歩する貴婦人そのものだ。


 彼女の後ろには、西区を任された精鋭の騎士達。いかなる戦いも覚悟して臨んできた彼らがポカンとあっけに取られた表情を見せている。


 ━無理はないだろう。なぜならば夫人の目の前には。10を越す魔物たちが自分達を襲うことなく、共に南を目指して歩を進めていたのだから。魔物達の目に生気は感じられない。カレらは虚ろな瞳で彼女の目の前を先導する形でゆっくりと歩いていた。


「催眠・・・魔術?・・・でもこれは・・・」


 夫人の魔術の非凡さに頭が整理しきれていないその時。前方から、新たにアイアンクルフが2頭食ってかかって来た。この2頭は他の魔物と違い、明確な殺気を夫人に向けて四足獣に相応しい素早さで向かってくる。


「ギャアアアルルル!!」


「!前方に新たな魔物捕捉!!夫人、お下がりくださ・・・ッ!!」


「「「グギャルルルル!!」」」


 事は一瞬で済んだ。夫人はその足取りを止めることはなく、、、また騎士団達も1人として、鞘から剣を抜く事もなく。・・・新たに来た2頭は絶命した。━他ならぬ、自分の味方であるはずの魔物達の牙によって。


 操られている魔物達は仲間2頭を葬った後に、何事もなかったかのように南へと向かう。その一連の光景は優秀な騎士団達ですら・・・いや優秀だからこそ、異様に映った。


「使役している訳でもない・・・10を超える魔物をここまで従わせるなんて・・・こんな強力な催眠魔術、見たこともないぞ」


「これが国家魔導師、、、フレイアさま」


 フレイア=ウルフラル。世界に57人しかいないとされる国家魔導師は、驚愕する後ろの騎士達に悟られないように。その退屈さから、欠伸を一つするのだった。


「平和ね〜」


 ♢♢♢


「・・・獣臭が強くなってきた。・・・そろそろかな」


「そうね。ワクワクしてきたわ!」


 魔主の側近クラスは基本的にその群れの中でも一際強い魔力持ちがついている。そんな強敵達と戦うことがワクワクすると言う、うちの姉上。・・・うん、実に怪物・・・もとい大物だ。


「いや、普通に怖いでしょ。俺なんか震えが止まらないんだけど」


「武者振るいじゃない?気にすることないわよ」


「いや、無理だろ!?気にするよ!!」


 なんという大雑把な理論か。・・・もう少し可愛い弟の心にも気を使って欲しいものだ。


「だってどの道やるしかないんだから、そういう事にしときなさいよ。適度な緊張感は必要よ?」


「・・・・なるほど」


 前言撤回。どうやら、姉さんもそれなりに気を使って、自分なりの戦いにおける心構えを教えてくれていたらしい。その会話を聞いていた、騎士団の1人がこちらに歩み寄る。


「はっはっはっ。ホロ様、カグラ様の言う通りですよ。誰でもバージンは怖いもの。そして命懸けで一仕事終えた後の酒がまた旨いのです!」


 いや、俺、女でもないし、酒の味なんて知らんし。とは言え、まぁ言っていることは分からんでもない。うん、俺なりに覚悟を決めて魔主と戦うとし━━


「ねぇ、ホロ。バージんってなによ?」


「・・・・・」


 無言で目を逸らす俺。やめろ、今ここでそんな純粋無垢な質問をするな。というかそれなりに年頃なんだから、知ってといてよ!!


 ガンッ


「いてっ!な、なにすんのさ!?」


「お父さんみたいに、都合が悪くなったらあたしから急に目を逸らすからよ。・・・んで?」


「・・・・さぁ、ボク、コドモダカラ、ヨクワカンナイ。言い出しっぺの騎士さんに聞いてみたら?」


「っしゃあああ!!野郎ども!!そろそろ決戦だぁ!!気合入れるぞコラァ!!!」


 全力で逃げやがった。これで事が終わったら姉さんは俺にしつこく聞いてくること請け合いだ。・・・あの騎士、まじで余計なことをしやがって・・・。


「・・・ねぇ、ホロ」


「だーから、分かんないって・・・」


「構えなさい。・・・来るわよ」


 とたん、空気が張り詰めた。先程までのザワつきがウソみたい。この群れのボスは他の雑種とは圧倒的に格が違うのだ。無様に吠えずらを晒したり、不必要な威嚇などはしない。


 ━━悠然として堂々と。実にゆったりとした足取りで。


 ・・・金色の毛並みを持つ美しい狼が森からその姿を表した。


「・・・すごく、綺麗」


 誰もが息を呑んでいるその場所で、俺は思わず素直な感想を漏らした。恐怖よりも先に、感動がこの身を占めたのだ。


 その威容は紛れもなく一つの王たる器だった。常識離れした美しい容姿もさることながら、気丈な立ち振る舞いや、体の最奥に眠る圧倒的な存在感を放つ魔力量。後ろに静かに控える数多の魔物は自らの王を誇る騎士のようだ。


「なるほど、いいタマね。これは苦労しそう。━変わってげよっか?ホロ」


 軽口を叩きながらも臨戦態勢に入っているカグラ姉さん。その闘気は目の前の軍勢を相手にしても、一片の曇りもなかった。正直変わってもらいたい気持ちが強かったが・・・


「・・・どうせウソでしょ?」


「ええ、もちろん。ウソよ!」


 ドンッ!


 そう言って、姉さんは金色の狼へと真っ直ぐに突っ込んでいった。



お読みいただきありがとうございます。

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