良希7歳 信之6歳 伊織6歳
桜って最近卒業式だよね
「良希!!」
入学式。
昔は桜が丁度満開の頃に入学式があったようだが、温暖化の影響か卒業式に桜が咲き始めて、入学式の辺りでは散りだしてしまう。
そんな桜を眺めていたら、勢いよく信之に突進された。
「やっと、同じ学校に通えるぞ!! 良希が幼稚園を去ってから寂しかったんだからな!!」
もう離さないとばかりに力いっぱい抱きしめられると苦しい。
「大げさだな。毎日会えただろう」
朝手を繋いで途中まで一緒に居たし、夕方は一緒に遊んでいたんだからな。
「何言っているんだ!! 昼間は一緒に居られないんだぞ」
それがどんなに辛い事か知らないのか。
縋るように言われて、困ってしまうが嬉しくもある。
「………………」
口に出さないが同じ気持ちだったのだ。
「しょうがないな」
そう年上として困ったものだと受け入れるスタンスを取りつつ、甘えてしまう。
そして、そんな良希の胸の内を知ってか知らず果信之は嬉しそうに、
「そうだな。しょうがないんだ」
と笑って答える。
そんなこんなで帰りも一緒に帰るんだと約束して、手を繋ぎながら歩いていると。
がしゃん
どかっ
「やめろ!!」
暴れる音。
悲鳴。
「血の臭い……」
信之が呟く。
二人してそちらに向かって走って行った。
公園のゴミ捨て場の裏。そこで綺麗な顔立ちの女の子が男の人に襲われている。
「何しているんだ!!」
信之は女の子を助けようとその男に突進していく。
「くそっ!!」
信之に見られたのでその男は苛立ったように舌打ちをして、信之に手を伸ばして、
「邪魔すんじゃねえ!!」
思いっきり壁に叩きつける。
ぷっつん
音が消えた。
気が付いたらその場にあった捨てられてた壊れたホウキを手にしていた。
たんっ
足が動いていた。
「なッ!?」
男が良希の存在に気付いた時はもう遅い。
良希はホウキをその男に向けて攻撃をする。
「……………」
良希の耳は捉えていた。その男の急所を。
「このガキがっ!!」
殴りかかろうとしているその男の腹に一撃。
次に足を攻撃をしてバランスを崩させる。
倒れた瞬間を見て、再び腹にホウキを叩きつける。
「……………去れ」
小学生の子供だった。
大の大人であるそいつに本来なら敵わない。
だが、良希の家は剣道道場だった。
兄の静夜が剣道を学んでいたので自然に良希も教わっていた。
そう。
良希はその教わった技術を持って、叩きのめして圧倒的な力を見せつけて相手を恐れさせたのだ。
「良希……」
信之が声を掛けた途端。良希はガタガタガタと震え出す。
「良希」
「……こ、怖かったよ……人を傷つけた。。じいちゃんに教わった誰かを守る技なのに」
それなのに……。
ぼろぼろと泣き出す良希を抱きしめて、
「大丈夫だぞ。良希は俺とこの子を守ってくれた。すごかったぞ!!」
何度も何度も言い続けるが良希は泣き続けた。
じいちゃんごめんなさいと何度も何度も謝り、良希は人を傷つける怖さを知って怯えていた。
「あんたの技……」
助けた女の子はじっと良希を見ている。
「まるで子供を守る母親のような強さだな。大事な物を守るために躊躇いのない強さだ」
圧倒的な力でもって、もう二度と害させないように叩きのめす。
「守るという事を知っている。野生の生き物みたいだ」
ありがとう。
「俺は平原伊織。今日からあの小学校に通う一年生だ」
よろしくな。
手を差し出してくるその子は顔の割に筋肉質だった。
「平原………」
同じクラスにそんな名前の子がいたと信之は思い出す。
「でもその子は男の子だったような……」
「何言ってんだ。俺は男だぞ」
伊織の言葉に。
「「はあぁぁぁぁッ!?」」
良希と信之は信じられないと声をあげる。
その騒ぎをようやく聞きつけて大人が次々とやってきて、平原伊織は最近越して来た子供だと知らされた。
そして、襲い掛かってきた男が巷で有名なその手の趣味の変態で後日無事警察に捕らえられたのだった。
そして、良希はじいちゃんの期待に応えたいからと始めた剣道を辞めた。
良希は実は剣道の才能はあるけど、人を傷つけるのは好きではない性格ゆえにあまり強い自覚がない。
でも、誰かを守るためにならどこまでも強く容赦ない。
傷をつけるのが嫌いなのは実は幼少期に弱い者を傷つける人とその人から必死に守られた記憶があるから。