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良希16歳 頼っていいと告げる人

誰かに助けてと叫べるようになるのも大人になった事だと思う。

「静夜くん。良希くん。何か困ったことはないかな? 何かあったら手を貸すよ」

 雨が収まった時間帯を見計らって、倉田家に晩御飯を食べに行く。雨の影響でお客さんが来ないからと早めに店仕舞いして、コックコートを脱いで信之の父親である志信が尋ねる。


「いえ……こうやって食事を用意してくれるだけでも充分……」

「男二人では掃除もままならないんじゃないの? 良希さん掃除苦手だったよね」

 助かっていますという前に小夜子が口を挟む。


「それを言うと静夜兄ちゃんもだよ。道場の掃除は綺麗にやるけど自分の部屋は全くだったし」

 雷斗まで口を挟む。


「台所も汚かったな……」

 数時間前にお邪魔した時にしっかりチェックしたのだろう信之まで告げてくる。


 いつ見たんだよ。っていうか味方はいないのかよ。


「兄……」

 静夜に助けを求めようとするが、静夜の方も雷斗に尋問されてたじたじになっている。

 そう言えば静夜は昔から雷斗に対して強く出られなかったな。雷斗が静夜にすごく懐いていて、静夜が傍に居る時は絶対離れないとばかりにくっついていたからな。


「良希!!」

 むすっ

 おい、何でお前機嫌悪そうなんだよ。

 頬を膨らませている信之にどう対処すればいいんだと困っていると。


「諦めな。良希兄ちゃん」

 ぽんっ

 倉田家の唯一の常識人――いや、倉田家の面々が非常識というわけではないのだが、なんというか……性善説を天外突破している方々なのでその点に関しては常識の範囲内なだけである尊がそう見えるだけなのである。

 そんな倉田家は好ましいのだが、時折自分たちが俗世に汚れているなと思えるので複雑なのだ。


「じゃあ、手が空いているもので掃除の手伝いをしようか」

「はい!!!!!!」

「「「は~い!!」」」

 雷斗に風斗。奏子が元気に返事をして手を挙げている。


 いや、可愛らしいんだけどさ。

 一番デカい声を上げていた信之(長男)にいろいろ突っ込みたいんだけど。


「お前の婚約者だろう。早く何とかしろよ」

「……………善処します(訳:無理だ)」

「何、遠回しの断わり台詞を言っているんだてめえは!!」

 ぐりぐりぐり

 頭を押さえつけられて拳骨を与えられる。


 殴られるわけじゃないけど、これも痛いからっ!!


 というか静夜がネットスラングだよなそのセリフ。それを言うのに驚いたんだけど。


「仲良しね~」

 えっと、佐紀さん。微笑ましいという顔で見つめないでください。全然微笑ましくないので!!


「駄目よ。お兄ちゃんは受験生なんだから!!」

「だが、妻のピンチに夫が助けなくてどうするんだ!!」

 小夜子がまともな発言をして止めるが、それよりもぶっ飛んだ発言をする信之に頭が痛くなりそうだ。うん。この痛みは拳骨の痛みじゃないよな。似てる気がするけど……。


「……姉ちゃんも手を挙げていたくせに」

 ぼそっ

 尊が口を開くけど、

「当然でしょ」

 何か文句ある?

 微笑んで発言を封じるさまは見事というべきか尊が怯えているけど。


「ははっ。みんなやる気だね」

「みんな静夜くんと良希くん……東家の皆さんの役に立ちたいみたいね」

 志信さんと佐紀さんは微笑ましいとみているけど収拾付かせてください。


「二人共」

 真っ直ぐに見つめられる。


「誰かの迷惑になるかもと考えなくていい。私たちは君たちも家族だと思っているからね」

 優しく包み込むような音。


(大樹みたいな人だな)

 揺るがない。枝葉を広げて多くのものを守るような強さを宿すそんな人。


「……………」

 そっと静夜を見る。


 静夜も良希に視線を向けている。


 ふと思い出す。

 互いしか信用できなくてくっついて互いを守っていたころの事を。


 やせ細って、ぼろぼろの身体ですべてが自分たちを害する存在だと警戒していた。


(あの時とだいぶ変わったな)

 爺ちゃんがいて、信之がいて、倉田家がいて……。いろんな人が味方だよと手を差し出してくれる。


『俺のこと忘れてないかっ!!』

 脳内に伊織が出てきて喚いているがもちろん忘れていない。


 だからこそ――。


「平原の家に相談する事がありまして」

「入院費とかその手の事は平原のおじいさんが詳しいので」

 詳しい事は言わないが、助けてもらう事は多いのだと告げていた。


「そうか。確かに平原の家はその手の事は強いね」

 私たちが頼ってもらえないのは残念だけど適材適所があるからねと寂しげに告げる志信さんに。


「だから……。生活面で助けてもらってもいいですか」

 力を貸して下さい。


 静夜と共に頭を下げる。


「ああ。もちろんだよ」

 嬉しそうに告げられる声。


 頼られる事が嬉しいと、差し出された手を拒まれなかったことに対しての喜びの顔。

 それを見て、ああ。頼っていいんだと安堵した。









――かちり






 何かが外れる【音】がした。


ずっと封じていた時の扉が開く――。

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