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信之15歳 良希16歳 ずれた歯車

信之スランプを味わう。

 部屋で受験勉強をしていて、ふと休憩を入れようと部屋を出る。


「「あっ……」」

 そこで業務用の小麦粉を取りに来た良希にばったり出会った。


 まただ。


「今休憩?」

「あっ、ああ……」

 良希は笑う。気遣うように。


「根詰め過ぎないように。お前根詰めすぎて倒れるからな」

 小麦粉を抱えて良希は店に戻る。


 まただ。


「兄ちゃん。良希兄が来てたの気付かなかったの?」

「呼ばなくても気づいてたのに……」

 風斗と雷斗がお菓子を食べながら不思議そうに口を開く。


「お兄ちゃん最近どうしちゃったの?」

 奏子まで心配して聞いてくる始末だ。


「…………」

 どうしちゃったのかと言われたらどうしたのかこっちが聞きたい。


 良希の誕生日以来あんなに感じ取れた良希の優しい匂いが分からなくなったのだ。

 それと代わるように小夜子と伊織と静夜の匂いが感じ取れる。


(α同士ゆえにテリトリー争いの関係で互いの匂いが感じ取れるようになったと言われたが)

 医者の話を聞いて、小夜子も検査してみたらαだと確認された。


 兄妹で同じαなのは珍しいと言われたが、6人兄弟だ。αが二人いてもおかしくないだろうと結論を出して、案外父さんと母さんが運命の番だったのではないかと。


 第二の性が見つかったのは10年ほど前だけど、それ以前にも居たのではないかと一部の科学者が論文を出しているというのを聞いたことある。

 その表に出てこなかった番が両親かもしれないと浮足立っていたが。


 今まではっきり分かった良希の匂い。

 場合によっては良希の体調すら感じ取れた匂いが一切分からなくなって、良希にどう接していけば分からなくなったのだ。


 今までだったら良希の匂いを感じ取れたから匂いがした矢先に良希の元に行き、話をして疲れを吹っ飛ばしたのに感じられないから良希の元に行けない。


 良希はそんな様子を見て避けられているのだ判断しているようだ。


 避けていないのに。

 そうじゃないのに。

 

(良希の匂いが分からないからどう話しかければいいのだろうか)

 あんなに傍に居たのに。

 あれだけ一緒にいたから分かるはずなのに。


 分からない。

 良希の心が。


「何悩んでいるの?」

 呆れた。


「小夜子……」

「今まで良希さんの匂いに頼りすぎてたからそんな事になったんでしょう」

 小夜子はエプロンをつけて店に入る用意をしている。


「お兄ちゃんと良希さんはそんな匂いが分からなくなるだけで壊れる関係なの?」

 だとしたら失望する。


「失望って……」

「お兄ちゃんがそんな態度だから怖いんでしょう。自分の成長を止めてしまうくらい」

 意味深な言葉だ。


「小夜子は、分かるのか……」

 この状況の突破方法を。


「――知らない」

 少し怒ったような声だった。


「私が教えても無意味だし。じっくり考えなさいって事でしょう」

 じっくり考えてみたら。


 そう言い残して店に入っていく。店に入る時にはいつもの穏やかな声でいらっしゃいませと言っているところは小夜子のすごいところだな。


「奏子姉意味わかる?」

「う~ん…………」

 風斗が奏子に尋ねている。

 奏子は分かったような分かっていないような複雑な反応をしている。


「………僕は分かったかも」

 雷斗がポツリと呟く。


「雷斗?」

「ほんとかっ!」

 問い詰めようと肩に手を置くが。


「僕は……良希兄の気持ち分かるよ……。だから言わない」

 おずおずとしながらもそう意思を主張する雷斗は珍しい。


 いつも風斗が主張するのに同意する事が多いのに。


「お兄ちゃんはお勉強頑張って」

 少しだけ緊張したように微笑んで雷斗がそう言いだす。


「きっと答えはお兄ちゃんの中にあるから……」

 今は分からないけど、きっとお兄ちゃんなら分かるよ。


「雷斗……」

「良希兄は臆病だから」

 臆病……。


「お兄ちゃんが受け止める覚悟をしてあげればきっと分かるよ」

「…………」

 何が分かったんだろう。


 小夜子も。

 雷斗も。


 それが面白くない。


 家族に。(さよこ)(らいと)にそんな事を感じるのがおかしいのに。


 でも……。


「分かった」

 じっくり考えてみる。


「うん。でも……先に勉強だよ。受験失敗したら良希兄怒るよ」

「そうだな……」

 いつも叱られてたな。


『自分の勉強用に取っていたノートだろう!! なんで他の人に貸してまだ返してもらってないんだよっ!!』

 ノートを取るのを忘れていたから貸してくれと手を合わせてお願いされたからノートを貸したら叱られた時の事を思い出す。


『まず自分を優先しろ!!』

 それから誰かに気を配れ。


 そんな良希だからきっと受験を失敗したら怒るだろうな。


 するべき事を優先しろと。


「あれっ?」

 何か答えが見えた気がした。








 ――だが、その答えを得られないまま春を迎える事になる。

 

 いまだ匂いは分からない。



尊「俺もわかるんだけど……」

小夜子「分からないお兄ちゃんがおかしいんだよね」

雷斗「奏子姉は小夜子姉ちゃんと歳離れているから大丈夫みたいだけど………」

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