表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/43

信之15歳 覚醒

恐れていた日が来た。

 温かい何かに包まれた感覚。

 ゆらゆらと揺れているが不愉快ではない。

 

「あっ、起きた?」

 声がする。


「…………良希?」

 良希の声が近い。


「気分はどう? 歩ける?」

 歩けると聞かれて自分が良希に背負われている事に今更気づく。


「うわぁぁぁ!!」

「ちょっ、ちょっと暴れるなよ!!」

 背負われていると気付くと慌ててしまうのは仕方ないだろう。


 だって、好きな人に背負われているんだぞ。

 すごく近いなと喜んでしまうけど。


(どうせなら俺が良希を背負いたいんだぞ!!)

 なんで逆を味合わないといけないんだ。


(身長が少し高いだけなのになんか屈辱だ)

 だけど、今に追い越して見せるんだからな。


「何不満そうなの。ってか、重いから降ろすぞ」

 よいしょ

 降ろされる。


「はぁ~。重かった~」

 肩を捻るように動かして、重かったんだぞアピールされる。


「悪かった。でも……」

「うん?」

 いったい何があったんだ。


 確か……。


「芦田さんに呼ばれて……」

 そうだ。


「あの臭いは……」

 と呟いた瞬間違和感を感じる。


 背中に負われていた。

 ずっとくっついて近くに居た。


 それなのに………。


(良希の匂いがしないっ!!)

 あの優しい匂いが感じない。


 いつも幸せな気持ちを与えてくれていたのに、それが全く分からないのだ。


「――忘れな」

 そっと頭に手を置かれる。


 くしゃくしゃ

 乱暴に頭を撫でられる。


「何をッ!?」

「俺に重たい想いをさせた奴に嫌がらせ」

 にやりっ

 揶揄うように笑う時にいつも感じていたこちらを気遣うような優しい匂いを感じない。


 いったいどういう事なんだろう。


「信之? どうしたんだ? 何か不安そうだけど」

 不安? ああ、不安だ。

 当たり前だったものが分からないんだ。


 どうして。

 どうなってしまったんだ。


「家に帰って病院に行こう。もしかしたらさっきのショックで何か異変が起きたかも」

 慌てて手を引っ張られる。

 引っ張られて連れていこうとしている先は良希の家ではなく自分の家。


「い、いやっ!! 大丈夫だ!!」

 このまま引っ張られたら良希の誕生日会に参加できない。


「信之!?」

「だって、良希の誕生日会なんだぞ。ケーキを作ったのだから一緒に参加したい」

「……………」

「良希の誕生日会の先に話しかけられて迷惑をかけた俺が言う事じゃないけど……」

 そうだ。芦田さんに呼ばれたから付いて行ったけど、良希の誕生日会の方を優先するのが正しかったのに。


「だから…………」

 家に帰りたくない。


「はぁ~」

 溜め息。


「すぐに病院に行くんだぞ」

 参加していいといわれて喜色満面の笑みを浮かべる。


「まったく。まるで散歩に連れて行ってもらえると喜ぶ犬じゃないんだから」

 そんなに喜ぶなよ。


 匂いがなくても良希が困っているけど嬉しそうなのが伝わってくる。


 そんなことで誕生日会を参加したのだが………。


「遅かったな」

 呆れる静夜の匂いが気に障る。


 今まで良希の匂い以外感じなかったのに刺々しい匂いが静夜から放たれているのだ。


「おっせ~ぞ」

 伊織が部屋から玄関に居る面々に声をかける。


 その伊織からも刃物で切り付けられるような匂いを感じる。


「お兄ちゃん?」

 先に到着していた小夜子がエプロンをつけて料理を運んでいる。


 その小夜子から鈍器を叩きつけられる様な匂いが。


「信之?」

 心配そうにこちらを見てくる良希からは相変わらず匂いが感じない。


「良希……」

 いったい自分はどうなってしまったのかと縋るような眼をしていた気がする。


 良希はそんな不安そうなこちらに気づいて、

「じいちゃん!! 信之がおかしい!!」

 今から病院に行ってくるから。


 戻ったばかりなのに再び家を出る。


「おばさん!! 信之がおかしいから病院に行ってきます!! 保険証を!!」

 母さんに伝えて、店があるから付き添えない父さんと母さんの代わりに付き添いをして近所の病院に向かった。







 そして、診察の結果は。


「αの能力が開花したんですね。おそらく攻撃されると思えた匂いというのは同じαのテリトリー争いという感覚を本能が感じ取ったんですね」

 自分がαであるという結果。


 周りにいる静夜、伊織。小夜子がαだというのに気付いた本能が無意識に縄張り争いをしていたという答え。


 そして、今まで幸せな気持ちを与えてくれた良希の匂いが全く感じなくなったという事実。









 Ωはαを誘うような匂いがあるという。匂いを感じさせなくなった良希は。

(Ωじゃないのか……。いや、そんなはずはない)

 だって、今まで感じたのだ。良希の優しい匂いが。


 それがもう感じない事実を認めることができなかった。


この近所のα率……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ