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信之15歳 静夜18歳

まだ誕生日会から遠い……。

「よお」

「あっ、お義兄さん」

 何度も何度も練習を重ねて、無事に成功させたプリンのケーキを良希の家に運ぼうとしたら声を掛けられる。


 それが遠くの学校に通っているはずの良希の兄――静夜だったので。

(良希の誕生日をお祝いに来たんだな)

 とほのぼのしてしまう。


「おいっ。何か鳥肌が立つこと考えてねえかっ!!」

「考えてません!! 弟想いのいいお兄さんだなと思っただけです!!」

「それが考えているって事だぁぁぁぁぁ!!」

 何故怒られるんだろう。事実なのに。


「で、今年も恒例のか」

 ちらっ

 視線の先には箱に入ったケーキ。


「けっ」

 なんでそこで嫌そうな顔をするんだろう。


「顔に書いてあるぞ。……お前が毎年ケーキを手作りするからジジイがケーキを買うのをやめるんだぞ。たまには市販のケーキを喰わせろ」

「すみません!! ムリです!! って、言うか、市販のケーキならお義兄さんの誕生日に食べれるじゃないですか」

 この日は我慢してください。


「ちっ」

 舌打ち一つ。

 あっ、これは認めてくれたと言う事だろう。


「おいっ、糞餓鬼」

「俺は糞餓鬼じゃないので名前で呼んでください」

 すたすたと良希の家に入ろうとする。

 家で待っていればいいのに外にいるという事は用があるという事だろう。なら、きちんと名前で呼んでもらいたいものだ。


「…………信之」

 あっ、すっごく不機嫌だ。


「はい。なんですか。静夜さん」

 いつもはお義兄さん呼びだが直す。


「いつまで茶番を続けるんだ」

 茶番?


「何の事でしょう?」

「分かってるだろう。お前」

 分かっていると言われても………。


 何をとしか言えないんだが。


 一体何を言いたいんだろうと思っていると静夜がある方向に視線を向ける。

「空気を読まないというか、ある意味空気を読んだと言うべきか………」

 その視線に釣られるようにそちらを見るとそこには一人の制服の少女。


「あれっ。芦田さん」

 家反対方向だったよね。どうかしたの?


「あっ、あの……倉田くんに話があって……」

 顔が赤い。緊張しているようだ。

 何かあったんだろうか?


「話って?」

「あの、ここじゃ、言いにくいから……移動して……」

「――行くんじゃねえぞ」

 冷たい声。


「静夜さん?」

「行く必要ねえだろう」

 静夜の顔は名前のごとく静かなもの。

 感情が削ぎ落とされたような代物だった。


「で、でも、困っているみたいですし……」

 さっ

 箱を静夜に押し付けるように渡す。


「おいっ!!」

「冷蔵庫に入れておいてください!! すぐに戻ります!!」

 頭を下げて告げると。


「行こうか」

 芦田に声を掛ける。


「どこに行けばいい?」

「あって、じゃ、じゃあ……近くの公園に」

 そこならゆっくり話が出来ると思うからと誘われる。


「いや、良希の誕生日会をするからすぐに戻るよ」

 長居は出来ない。


「――そう」

 芦田の声が堅い。不快だと言うかのような。


 ずんずんと芦田は先に進んでいく。

 それについていく。


「芦田さん。話って……」

 公園に辿り着いたからさっさと聞いて戻ろう。


「――あんな人じゃなくて、私を選んでくれたんだよね」

 どこか不気味な声だった。

 不気味に嬉しそうに笑っている。


「芦田さん……?」

 いつもの芦田と違う。

 信之の知っている芦田は友人の後ろをついてゆく、物静かな女の子だった。


『――行くんじゃねえぞ』

 静夜の声が脳裏に浮かぶ。


「私…倉田くんの事好きです」

 微笑む顔が怖いと感じる。


「気持ちは嬉しいけど……」

「――大丈夫」

 にっこり


 ぶわぁぁぁぁぁ


 公園に広がる妙な臭い。


「だって、倉田くん。私を選んでくれたんだから」

 にっこり


「倉田くんだって、おかしいと気付いているでしょう。男同士なんて」

 生産性もないし。倫理的にもおかしいよ。


「あの人。幼馴染と言っていつまで倉田くんを束縛するんだろうね。ずっと邪魔だったんだ」

「あ、芦田さん……」

 その臭いをさせているのは芦田だろう。

 それを止めてくれと告げようとするが口を開こうとすると何かが体内に入ってきて内側から暴れ出そうとするので言葉を紡ぎたくても紡げない。


「大丈夫。――すぐに目を覚まさせてあげる」

 ふふっ


「Ωだって聞いた時はショックだったけど、今思うと嬉しいよ。だって」

 欲しい物を手に入れるためなら手段を選ばない。


「こうやって、倉田くんを手に入れれるんだから」

 Ωのフェロモンでαを誘発できるって聞いて嬉しかったんだぁ~。


 今になって、静夜が止めた理由が分かった。

 彼は気付いていたんだ。

 大人しそうに近付いて、手に入れようとする女のしたたかさを。


 芦田の目は不気味に輝いていた。

 獲物を捕らえる猛禽のように――。

 

 好きな子の誕生日に他の子の誘いに付いていっちゃいけません

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