信之15歳 その日に向けて
ケーキ屋じゃなくてパン屋のはず。
自分の誕生日が終わった。
「次は良希の誕生日だ!!」
よしっ
良希が甘い物が好きなのを知っているので毎年ケーキを手作りしている。
信之は台所でケーキの材料を広げて、手を動かす。
良希の誕生日の前にケーキを試作で作るのも毎年恒例なのだ。
そのケーキの試食をしたいという思惑もありつつ、手伝いを申し出るのは下三人。
「今年は何にしようか」
「はいはいっ。チョコケーキ!!」
風斗が勢い良く手を上げてケーキの希望を告げてくる。
「ぼ、僕はチーズケーキがいいな………」
おずおずと雷斗も手を上げて意見を言う。
「イチゴがいいよ。お兄ちゃん」
だって、良希お兄ちゃんとこの前イチゴケーキをテレビで見たし。
奏子まで加わってくる。
「それはお前達が食べたい奴だろう」
尊が呆れたように三人を見る。
「尊兄ちゃんは分かってないな~」
「良希兄ちゃんは…甘い物が好きだけど、ホールケーキをみんなと一緒に食べるのが好き……だから……」
希望を上げているんだと双子が反論をする。
「まあ、良希兄ちゃんはそうだけどさ~」
「良希に特別に喜んでもらいたいもんな」
尊の気持ちは分かるぞ。だが、
「良希はやらんぞ」
「いや、そういう事じゃなく……」
呆れながら溜め息をついて、
「………まあ、安心したかな」
と告げられる。
「尊?」
「兄ちゃんはさ。なんでも俺達を優先してくれるけどさ」
「………?」
「譲れないものがあった事にほっとした」
譲れないものって………。
「? そこでほっとするのがおかしいんじゃないのか?」
弟妹を優先するのが当然だろう。兄なんだし。
「いや、普通の兄ってそうじゃないらしいぞ」
俺も驚いたけど。
「お兄ちゃんと言うか倉田家は代々そんなものよ」
「小夜子」
「姉ちゃん」
台所を覗きに来たのは店のエプロンを着けた小夜子。
「長男長女が下を大事にしすぎるって」
私も驚いたけど。
「ところで、良希さんにケーキを作るんだったら今年はプリンのケーキをお勧めします!!」
「姉ちゃんもかよ~」
尊が顔に手を付けて呆れてモノが言えないばかりに小夜子を見る。
「ううん。この前買い物に付き合ってもらった時にプリンの専門店の前を通った時にね」
「待て。いつ良希と一緒に買い物に行ったんだ。羨ましいぞ!!」
いや、小夜子と出掛けるのも羨ましいし、良希と一緒もずるい。
「俺はどっちに羨ましがればいいんだ!!」
「煩い」
「うん。煩い」
尊と小夜子が文句を言う。
「で、兄ちゃんだと話し進まないから聞くけど、良希兄ちゃんがなんだって」
「うん。そうそう」
話が中断になったけどと口を開いて。
「参考書を買いに付き合ってもらったんだけど」
「なんで良希兄ちゃん? 兄ちゃんじゃないの?」
小夜子が思い出しながら話を進めていくと、尊が疑問を口にする。
「えっ? お兄ちゃんに頼まないのって?」
「うん」
「なんで?」
「なんで? なんで?」
奏子、風斗、雷斗も気になったのでじっと信之と小夜子を見る。
「だって、お兄ちゃんだと参考にならないから」
「「「「ああ~~~」」」」
「お前たちその反応は兄ちゃん悲しいぞ」
納得してしまった下四人に信之は泣きたくなった。
大型ショッピングモールの本屋。
「ありがとうね。良希さん」
買った参考書をエコバックに仕舞いながらお礼を言うと。
「小夜子ちゃんの頼みならいつでも聞くよ~」
恥ずかしいやら嬉しいやらで顔を赤らめて胸を張る良希にふふっと小夜子は笑う。
「もっと時間かかると思いましたよ」
「小夜子ちゃんの希望を聞けばすぐに求めている参考書は分かるからね」
本屋を出て他の店を見て回る。
「んっ?」
良希の足が止まる。
「どうしました?」
良希が足を止めたのはプリンの専門店。
「小夜子ちゃん見てみて♪」
そこにあるのはプリンの乗ったケーキ。
「ケーキとプリンが一体化してるよ!! すごいね」
と興奮したように教えてくれたのだ。
「プリンのケーキが高かったから買わなかったけど、今年はプリンのケーキがいいと思うよ。良希さんが興味津々だったし」
「そっ、そうか。プリンのケーキか……どうやって作ればいいんだろうな」
早くもケーキが決まったので試作品を作ろうと思って広げていた材料を確認してプリンの材料がなかったので今日は作れないなといそいそと片付ける。
「「「ええぇぇぇぇ~。作らないの~!!」」」
試食をしたいから手伝いをしようと思っていた三人が不満そうに声を上げる。
「どうせ毎日試食してケーキを食べ飽きるだろう」
以前は同じように試食に手伝いをしていたが、食べ飽きて誕生日当日にケーキを美味しく食べれなかった経験がある尊は絶対試食には加わらない。
「明日は作るからなっ!! 材料をまず買いに行かないとな」
作り方を調べないと。
「………はぁ」
溜息を吐きながら。
「作り方は俺が調べておくよ。兄ちゃん調べんの苦手だろう」
尊が台所を出てリビングでスマホを開く。
そんな子供たちを見て。
「張り切るのもいいけど」
にっこり
「そろそろ良希くんがバイトに来る時間よ」
母さんの言葉と同時に、
「おはようございま~す」
と良希が店に入ってくるのが同時だった。
プリンのケーキは美味しいよね。




