信之15歳 初デート
デートの計画は人目がないところで。
「よ、良希。あの……」
ほぼ毎日入っているバイトを終了したので、良希が帰り支度をする。
良希が入って助かっちゃったと母さんは大絶賛だ。
元々良希は器用なのだ。ただし、気が弱いので期待されていると失敗する率が高い。そして、さりげなく手柄を横取りされるのだ。
昔町内会で遊びに行った時に貴重な何かを探すというイベントがあり、良希はそれをすぐに見つけたが、良希が見つけて動き出すのを見たとある子が目ざとく見つけてみんなに教えて褒められていた。
言わなかった自分が悪いしと自分の功績を言わなかったのが歯がゆかった。
話が脱線した。
そんな昔に想いを馳せてるのがメインではないんだから。
「んっ?」
どうしたんだ?
そんなきょとんとした顔を見せないでくれ可愛くて手を出しそうになる………。
「信之?」
少ししゃがんで目を合わせてくれる様に良希のほうが背が高い事実に悲しいものがある。
(お義兄さんも背が高いからな………。だが、俺だって、父さんが背が高いからな。今に抜ける筈だ!!)
そうだそうに決まっている。
「何黙っているんだ? 俺の方が高いから悔しいのか」
ふふんっ
嬉しそうに自慢してくる様に可愛いなと思いつつ、負けて悔しいからこその苛立ちでむかむかしてしまう。
「まあ、俺はそろそろ成長が止まるだろうけどね」
「なんでだ? お義兄さんはだいぶ背が高いし、筋肉が付いているぞ」
良希もそれくらい伸びるだろう。
「兄貴に変な当て字をしていた気がするけど………、兄貴はαだからな。それくらい立派な体格になるのも当然だろう」
少しは弟に分けやがれ。
「またチビだと揶揄われたのか」
「人の事をチビだとかガキだとか散々呼んで俺の名前をちっとも呼びやしない」
「そう言えば俺もあまり呼ばれてないな………」
糞餓鬼呼ばわりばかりされている。
「この前もさ。珍しく電話してきたかと思うと俺をチビ呼びして、じいちゃんをジジイ呼びだぜ!! まあ、剣道の大会の代表に選ばれたからと言う報告で観に来て欲しいのなら素直に言えばいいのにな…って、話がずれたな。何の用?」
勉強でも教えて欲しいのか。
「あっ、いや……」
「んっ?」
「あの、な……そろそろ夏休みだし、ずっとバイトでもないだろう。俺も勉強の息抜きをしたいから………その一緒に遊びに行かないか?」
(言えた!! 言えたぞ!!)
脳内で小夜子と伊織がよくやったと褒めている気がする。
「うんっ? いいよ」
「ホントかっ!!」
「ひぃぃぃ!!」
勢いよく良希の手を握ると良希は何かに驚いたように悲鳴を上げる。
「ホントだなっ!!」
「ホントだって。なんでそんな勢い込んでいるんだよ。頭に響くじゃないかっ!!」
後半意味が分からない。そう言えば、似たような事を言う事が多いな。
「じゃあ、どこがいい?」
行きたいところを教えてくれ。
「行きたいとこね~。まあ、お金がかからないところ?」
遊びに行くお金はそうないだろう。俺達。
お金は貯めてじいちゃん孝行したい良希と。お金を出して遊びに行くよりもお土産を買って弟妹を喜ばせたい信之なのでそういう結論に達してしまう。
「この前カラオケに誘われたけど、料金聞いて断ったんだよな」
けち臭い事すんなって。
「俺も似たような事を言われた」
家族の事ばかりでもっと自由に動けばいいだろうって。
「意味が分からない」
「だよな」
二人して自分達がおかしいのに自覚がない。
「じゃあ、場所考えとこうか」
「そうだな。互いに考えて決めればいいか」
そんな話をして。
電車で一駅の所にある公園に決める。
そこは乗り物券を購入すれば遊べる小さな遊園地も併設しているのだ。
で、そこに行こうと待ち合わせしたのだが…………。
「兄ちゃん達だけずる~い!!」
「私も行きたい!!」
「ぼ…僕も……」
風斗。奏子。雷斗。
倉田家の下三人に見事捕まってしまい。
「だ……」
ここは心を鬼にして連れて行かないと言わないと。
じぃぃぃぃぃぃ×3
兄ちゃんはデートだときっぱりしっかり。
じぃぃぃぃぃぃぃ(縋る目)
はっきり……きっぱり………。
お願いお願いお願いと訴える目×3
はっきり……………。
「………………………………………………………じゃ、じゃあ、一緒に行くか」
「「「わぁぁぁぁい!!」」」
ハイタッチで喜ぶ三人。
「で、みんなも来たんだね」
せっかくだから倉田家のパンをお弁当に持って行こうと待ち合わせを自宅にしていたのだが、パン選びに参加している下三人を見て苦笑する。
「ああ…………」
断れなかった。
くすっ
良希が楽しそうに笑う。
「良希?」
「いや~。お前らしいなと思って」
断れ切れなかった事に関してだろう。
「奏子ちゃん達もさ。信之が友達と遊びに行くのなら遠慮しただろうけど、俺が相手だから連れて言ってもらえると思ったんだろうな」
賢いよね。
「あ、ああ。そうだな………」
だけど、俺は。
「デートをしたいと思ったんだ」
二人きりで過ごせる時間が欲しかった。
確かに三人と一緒に居るのも楽しいのだが、本来の目的が出来なかった事に残念だと思う。落ち込んでしまう。
「デートね……」
ぼそっ
良希が何か呟いたが聞き取れなかった。
「良希?」
「じゃあ、リベンジでもする? 来週兄貴の剣道の試合だから応援に行くつもりだけど」
にやっ
「えッ。良希はお爺さんと行くんじゃ………」
「それがさ。じいちゃんの友達が車を出してくれるという事でじいちゃんはその人と一緒に行くんだ。そこに図々しく一緒に連れて行ってくださいと言えると思う? 俺が」
「あ~~~~~~~」
すっごく納得がいった。
それと同時に。
(良希の事だから”観に行かないから”と言って誘われたのを断ったんだろうな。お爺さんとお爺さんのお友達に気を使って)
そんな光景が目に浮かんだ。
「と言うか、忘れてるな」
「んっ?」
何がだ?
首を傾げると。
「来週の土曜はお前の誕生日だろ」
自分の誕生日忘れるんじゃねえ。
「あっ……」
「という事だから、ついでに誕生日祝いしてやる。欲しいものがあったら教えろよ」
お前欲しいもの主張しないからな。
良希がそんな事を言ってくるが、
「俺は良希が祝ってくれるだけで充分なんだが」
それが一番うれしい。
「欲がないな」
呆れたように告げるが、その良希の耳は少しだけ赤かった。
因みに公園は案の定三人が遊具で遊んでいるのを見守り、誰が隣になるかと電車で揉めて、帰りは遊び疲れて眠ってしまった双子を抱っこして歩いていたら抱っこしてほしいけど我慢している奏子にそれぞれ片手を差し出して手を繋いで、二人きりになる事は出来なかった。
良希「デートね。………お前のそれは勘違いだよ」




