良希15歳 見せつけられるもの
倉田家母→紗季 new
(あっ、まただ)
からんころん
優しいベルの音と共には行ってくるのは制服の女の子たち。
「倉田くんいますか~?」
その中で積極的な子がレジにいた良希に声を掛ける。
「いらっしゃいませ。倉田と言うのは誰の事を言っているのでしょうか?」
まあ、十中八九信之だろうと思うけど確認をしないとな。
「えっと、の、信之くんを………」
名前を呼ぶ事が嬉しいのか恥ずかしいのか顔を赤らめて告げる女の子はとても可愛い。
恋する女の子だ。
ちくん
胸が痛い。
「お待ちください」
レジを空ける事をおばさん――紗季さんに告げるとすぐに家に続くドアを開ける。
「信之。お客さんだぞ」
ドアを開けるすぐに居間に繋がっていて、今では風斗と雷斗を膝に乗せて、勉強をしている信之が居たりする。
一応、尊と一緒だが、自分用の部屋があるのだが、静かだと落ち着かないという事で居間で勉強しているのだ。
「えッ? 誰だろう?」
膝に乗せていた二人に退いて欲しい付告げて降ろすと店の方を覗きに行く。
「あっ、××さん」
信之がレジの近くにいた女の子に声を掛ける。
「**さんや○○さんも」
信之がその女の子たちに呼ばれて話を始めるが、
「信之」
店の邪魔になるからとこそっと告げると、信之もそうだったと気付いて女の子たちと店を出る。
信之は気付いていないが、扉を出る一瞬だけ一人の女の子が気持ち悪いものを見る目で良希を見ていたのがはっきり見えた。
「…………」
いつもなら信之の声を聞き洩らす事はないのに女の子たちの名前を聞き取れなかった。女の子の名前を聞き取る必要がないと無意識でシャットアウトしていたんだろうな。
「困ったものね」
紗季がレジを交代しようと近付いた良希に向かって告げる。
「信之の鈍さは誰に似たのかしら」
明らかに恋愛感情を向けられているのに。
「お客さんが信之と知り合いだったから会いに来ただけですよ」
思ってもいないくせにそうフォローをする。
「お客さんならパンをトレーにのせてお会計のついでに聞いてくるわよ。義理でも一個購入してから声を掛けてくる子はまだましだけど、買わないで会いに来るのなら困ったものよ。特に信之がレジにいる時を狙ってね」
「紗季さんは気にしないと思いましたよ」
子供の友人が尋ねに来ると言うのは。
「以前は気にしなかったわよ。でもね。そうやって、レジで買わないのに長時間話をするという事は他の購入したいお客さんの迷惑になって、その人たちの時間を奪っていると東さんに叱られてね」
「じいちゃん……」
まあ、じいちゃんらしいけど、それを言うのも。
「おじいさまは間違っていないわよ。間違っていたことを諭してくれる。叱ってくれる人がいると言うのは幸せな事なのよ」
叱ってくれる人か。
「それに考えてみたら婚約者がいるのに期待させるのもどうかと思うわ」
きちんと諦めさせないと。
「そう言ってくれるのは嬉しいですけど………」
先ほど見た。
こちらに向けて敵意を込めた眼差しを向けてきた女の子。
あれは知っている目だった。
信之が婚約している事もその相手が良希だという事を。
知っていて、気持ち悪いと。認めないと告げている目だった。
「………………」
分かっている。
何度も言われた。
どうして、良希が信之の側に居るのだと。
「………………」
Ωならいられる理由がある。
でも、第二の性がまだ分からない。
信之との関係が変だと言われた時に調べたΩの特徴を思い出す。
子供が産めるΩ。
そのオメガは第二の性が分かる前から劣っている者が多く。発覚する前からそれらしいとも思われる特徴があると。
どこにでもあるような平凡な自分。
精々、生まれつき色素が薄くて髪と目が金色なだけだ。
(ただの男である俺が信之の側に居るのがおかしいのだ)
その事実を見たくないから測定不可と言う結果に表れているのでは。
「――全く困ったものね」
婚約者を不安にさせて。
そんな声が耳に届いたが、
「すぐに婚約を破棄したいと言い出しますよ」
あいつも目が覚める。
「良希くんは楽観的ね」
「? はい?」
「志信さんの血が一番濃いのはあの子よ」
逃がさないし、思い込みとか勘違いなんてけしてしないわよ。
そう言われてしまった。
東家のじいちゃんはポイ捨てをする学生を堂々と叱りつける立派なお祖父ちゃんです。




