信之4歳 良希5歳
オメガバースものですが、なんちゃってなので間違っていても大目に見てください
「小夜!! 小夜っ!! どこなんだ!?」
どうしよう。俺のせいだ……。
信之は泣きそうになりながらも我慢して妹の小夜を探していた。
先日弟の尊が生まれて、小夜はお姉ちゃんになったのを喜んでいたが、急にお母さんが尊に掛かりきりになって寂しそうにしていたのに気付いていた。
俺は兄ちゃんだから我慢できたけど、妹の小夜は我慢できなかったのだろう。遊びに行きたいのを我慢して、尊の面倒をみているお母さんをじっと見ている小夜が可哀想で。
「小夜。公園に遊びに行こう」
気晴らしになるかと思って誘ったのだ。
本当は子供だけで行ってはいけないよと言われていたけど、お母さんは尊の世話で、お父さんは店の仕事で忙しいのだ。我が儘を言ってはいけない。
俺は幼稚園に入っているんだ。小夜を連れて公園まで行ける。
車に気を付けて、道路を渡って、二人で手を繋いで無事公園に行ったのは良かったが、公園について一安心していたのがいけなかった。
「小夜……?」
少し目を離した隙に小夜の姿がない。
「小夜ッ!?」
どうしよう!! 俺が連れて来たばかりに!?
小さな公園ならすぐに見つけれただろうけど、ここは少し大きな公園で小夜の姿が見えない。
(どうしよう。悪い奴に攫われたら)
小夜は兄の欲目抜きで可愛いと評判だ。幼稚園で聞いた悪い誘拐犯に攫われてもおかしくない。そんな怖い事を想像しながら、泣きそうになりながら必死に探す。
目に涙が溜まるが堪える。泣いちゃだめだ。だって、俺よりも小夜の方が不安で泣いているかもしれないんだ。お兄ちゃんの俺が泣いちゃだめだ。
涙を堪えて、必死に小夜を探している時だった。
ふわっ
「いい匂い……」
小夜の事で泣きそうになっていた心を安らげるようないい匂いがどこからともなく流れてきた。
何だろうこれ……甘い? お菓子の甘さではない。花のような……。香しいと言うんだったかこういう匂いの事を……。
(なんだろう……強くて、優しくて、真っ直ぐな……)
もっと嗅ぎたくなるような匂い………。
ふらふら
小夜を探さないといけないと思っているのにその匂いに引き寄せられる。
誘われるように導かれるように………。
(その匂いのモノを側に置いておかないといけない気がする……)
どんどんその匂いに近付く。
それは白詰草が咲き乱れている野原。
「そっか。さよこちゃんって言うんだね」
声がした。
「さよこちゃん。か~いいね。おひめさまみたい」
「さよこ。おひめしゃま?」
小夜の声だ。
野原にはずっと探していた小夜――小夜子と俺と同じくらいの子供……。
ずっと漂っている甘い甘い香りはその子から漂ってくる……。
どっがぁぁぁぁぁぁぁん
「ひぃッ!?」
急にその子が悲鳴を上げる。
「なッ!? なにっ!?」
きょろきょろ見渡すその子供は綺麗な綺麗な金色をしていた。
「あっ……」
その子供と目が合う。
綺麗な目。
卵の黄身のような……鼈甲飴のような綺麗な目。
「に~ちゃん」
小夜が嬉しそうな声をあげる。
その小夜の頭には白詰草で作られた花冠が飾られている。
「さよこちゃんのおにいちゃん?」
その子がじっと俺と小夜を見て、
「さよこちゃんとそっくりだね」
ねぇ~。
小夜と顔を合わせて同じように首を傾げるその仕草になぜか怒りが込み上げる。
早く。
何かが訴える。
早く。それを手に入れないと。
しるしを付けないと。
訴える何かに答えるようにその子の後ろに回り……。
「えッ……」
どうしたのかと不思議そうにしているその子の項に。
がぶりっ
思いっきり噛みついた。
「………………えっ」
最初は呆然としていたが、やがて痛みを感じたのかその子の目に涙が溜まってくる。
(かわいいな)
最初に思ったのはそれ。次に泣かせてしまったという後悔。
「じいちゃん。じいちゃん!! じいちゃぁぁぁぁぁぁん!! にいちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
大きな声で泣きだしてしまい、
「うるせえぞ。チビ」
「どうしたんじゃ」
俺よりも少し大きい子供とおじいさんが現れて、その子に近付く。
最初はただ泣いているだけだと思っていたようだが、項にくっきり噛み痕があるのを見て、おじいさんは慌てて、年上の子供はすぐにキッと目を鋭くさせて視線で殺せたら殺してやるのにと告げるように俺を睨む。
「――てめえが、良希を泣かせたのかっ!!」
今にも殴り掛かってきそうな勢いだった。
「あっ、ああ」
泣かせたのは事実なので頷くと。
「その面殴らせろ!!」
拳を握って迫ってくる。
「止めんかっ!!」
この子が泣いているだろう。
おじいさんが叱りつけてくると小夜が泣きながら、その子に向かって、
「いたい? いたい? いたいのいたいのとんでけ~」
と何度も何度も項を撫でながら飛んでけと手を動かしている。
「あいがとね。さよこちゃん」
泣きながらもにっこりと笑うその子に。
「現金なやつ」
「にいちゃん~」
口は悪いがホッとしたと言う様に告げる年上の子。
同じく安心したと頷くおじいさん。
「さて」
そのおじいさんは俺に視線を合わせて。
「君の名前は?」
「倉田信之です!!」
きちんと苗字も言えるのだと誇らしげに告げる。
「そうか。信之くんか。信之くん。君達のお家はどこかな?」
お母さんとお父さんにお話があるんだが。
そんな話をしている矢先に。
「信之!! 小夜子っ!!」
尊を抱っこしてお母さんが慌てたようにこちらに向かって走ってくる。
「くらたベーカリーの……」
「東剣道道場の先生……」
お母さんが戸惑っていると。
「すまないが少しお邪魔させてもらえんかのう」
おじいさんはそう告げるとお母さんの案内で家についてくる。
何が起きたか分からないけど、金色の子供とまだ一緒に居られるんだと嬉しくてその子に手を握る。
「なっ、なにっ!?」
「俺は倉田信之だ!! 君の名前はなんて言うんだ?」
早く名前を呼びたい。
「お、おれは、さ……じゃなくて、東良希だよ」
良希。やっと名前を知れた。
「じゃ、じゃあ、良希。俺と一緒に家に行くぞ」
「えっと……? なんで?」
きょとん
「チビから手を離しやがれ!!」
そんな俺と良希を年上の子供が引き離す。
「に、にいちゃん」
「けっ」
どうやら良希のお兄さんらしい。
「初めましてお兄さん!」
なら礼儀正しく挨拶をすると。
「てめえがお兄さんと呼ぶんじゃねえ!!」
と怒鳴られてしまった。
家に帰るとお父さんとお母さん。そして、東さんと名乗ったおじいさんが三人で話をしていた。
話の内容は難しくて理解できなかったけど、良希は小夜の拙い言葉に相槌を打ったりしてお話をして、それに俺が不満げに加わったり、良希のお兄さんが慣れた手つきで尊をあやしていて、
「にいちゃんうまい~」
と良希に褒められて当然だと威張っていたり。
「俺の方が上手だぞ!!」
「何言ってんだクソガキ。このチビを育てたのは俺だからな。てめえよりも上に決まってんだろ」
良希のお兄さんと張り合って、絶対俺の方が子守りが上手くなってやると心に誓っていたり。
「おとぎ話の王子でも~♪」
良希が小夜や尊に凄く上手な歌を聞かせていた。
「じゃあ……」
「バース性がはっきりするまではどうなるか分かりませんが……」
「信之の婚約者という事で良希くんの件を預からせてください」
大人たちがそう結論を出し、深々とお父さんとお母さんが東さんに頭を下げていた。
「お母さん? お父さん?」
良希たちが帰って行く。
どうやら斜め向かいの日本家屋が良希のお家だったのだと初めて知った。
「――信之」
お父さんが呼ぶ。
お父さんの話は難しかった。でも、難しい中で理解できたのは。
「うん。分かった!! 俺良希の家族になる!!」
大きくなったら良希と結婚する。
そんな約束をしたのだと。
それがとても嬉しかった。
倉田信之。東良希。
バース性が判明しないうちに俺が項を噛んでしまった事で仮の婚約者になった瞬間だった。
倉田家は大家族です。