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8.ある一本の道の先に

疑問が減ったわけでは無いが、男は蘇りゆく記憶との齟齬に悩む事が無くなったために街並みを観察する余裕が出てきた。ただ、それがかえって歩みを少しづつ遅くしていくことになる。

明らかに風化では説明できない破壊の跡が各所にあり、壁に出来たヒビには明らかに自然に出来たものでは無いものも含まれていた。赤黒い模様ができているものも中にはあった。

(そういえば門の部屋-「守衛室」といったか。あそこで俺は確か『どこかと争っているのだろう』と考察したが、どうやら事態はあの時考えていたよりもかなり深刻だったようだ。何者かがここに攻め、街の中にまでそれは及んだと考えていいか。最初の夢で俺に話しかけた中年の男はネメシス計画について「救世主を作る」と教えていたな。…「探す」とは言っていなかった。そして足りないものがあると呟いて俺を連れて行こうとした。そういえば日誌を書いた人もネメシス計画に関わっていたな。そのために家族の繋がりを失った。ということはネメシス計画は余程嫌われた内容の研究だったと言える。そういえば昨日の夢…恐らく憧れていたのは当時語られたヒーローだろうな。後悔したとはいえ、俺たちはその夢を叶えたことになる。…待てよ、昨日の夢、最後にした会話は少年時代のものじゃなかった。仮にこれが最初の夢も同じだとすればあの勧誘は少年の俺にしたものでは無い、とも考えられないか?いや、確定は出来ないか。それにしては話の流れが自然だった。…いやしかし無関係とは思えないな。研究が嫌われた理由として単に人間が必要だったというのが鍵になるか。人間を使って救世主を作る…か。俺の元の体が保存されていたのには意味があるのか?)

おそらくはそのネメシス計画には男も研究に巻き込まれる形で関わっているのだろう。しかし、男はそれが自分の人間関係に影響を及ぼしたかまでは覚えていない。考えているうちに自然と足はまたあの施設へと向いていた。自分が保存されていたあの施設である。記憶が間違っていなければここに父親が勤務していたはずである。最初に向かったのはその父の日記があった部屋である。が、あの時に調べ尽くしていたか、手掛かりになるような資料はなかった。いや、入り口の床に散らばっている破片は施設の避難図だったものだろう。それを組みなおせば構造を思い出せるかもしれない、そう考えた男は破片を拾い集め、パズルのように並べていった。

避難図には部屋の名前がはっきりと載っており、この施設では研究のほかに保安員を統括する部署も兼ねているようだった。次に男が向かったのは避難図の範囲内、保安員室と呼ばれる部屋である。まず目に入ったのは机の上にある錆びかけた機械のバーツのようなもの、そして以前見たものとは形の違う電池であった。おそらくは武器の類だろう。…どういうものだったのだろうという疑問、ではなく衝動に駆られて男はそれらに手を伸ばす。丁度いいところに磨き油と布を見つけた男は、思い出に浸るようにそれらを組み立て始めた。

next title>9.過去は示す(10/16)

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