表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/10

5.懐にあったコンパスを見つめる

(が、そうは言っても一つに集中しすぎては重要なこと見逃してしまうこともあろう。たまには少し気分を変えるのも悪くはあるまい。)

男は拠点を出ると今度は山を下り、浜辺へと出る。手槍を取り出すと海へ飛び込み、そのまま海中へと潜っていく。男は日常に新鮮さを入れたりする目的でたまにこうして魚を獲りに海へと来るのだが、この日の海はいつもと違って見えた。いつも通っている魚の隠れ家が、初めて見るような感覚にさせられるのである。そして、目印としていた特徴的な模様に既視感を覚えた。数匹を仕留めた後、火を起こして体を温めながら海中で見たものについて、そこで感じたことについて考える。

(恐らくこの場所は、ここに来てから初めて知った場所だろう。ただ、あの模様はこの時代に来る前、過去の自分が見てきたものかもしれない。思えばこうなる前も、知らずしてあそこに安心感を覚えていたのかもしれぬ。いや、そうだ。過去では見知っていたものだったのかもしれない。まだ全ての記憶が戻った訳ではないから理由や正体は知らぬが、これについて探っていくのも何らかの鍵になるだろう。)

気付けば辺りは暗くなっていた。しかし戻った記憶への興味に任せて動き回っていた疲労が男を縛り付ける。獲ってきた魚を棒に刺して焼き、残りの魚や貝の下処理を進めて保存出来るように加工を始めた。一通り作業が終わると敷いていた葉を広げて横になりながら魚越しに燃え続ける火を見つめる。計画の名前としてではなく、確かに「ネメシス」という単語を聞いたことがある。もっと言えばそれに憧れすら抱いていたのかもしれない。‥‥それなら親と疎遠になっていたと頷けるか?いや、なら最初に見た夢では親と会話すらしなかっただろう。第一あの夢の自分は計画について知らなかった。そうみていい。

(結局謎が増えただけか。でも、これから真実を知る上でこの疑問は役に立つかもしれない。大きな疑問として俺がなぜここに来たのか、それがまずわからない。なぜ俺一人残して消えたのか、もな。それに関わるのが恐らく「ネメシス計画」だろう。そして俺の体が保存され、別の体で俺として生きている理由もまだ謎だ。それに過去の俺が「ネメシス」をどう知ったのか、という謎もある。‥‥今のところ謎ばかり増えていくがどれも関係はあるように思える。‥‥)

暫く考えた後、体を起こして焼いていた魚にかじりつく。焼き過ぎたのか、少し苦くはあったが、マズく感じる味ではなかった。暫くして、重い腰をようやく上げた。獲ったものを肩に下げ焼き魚を空いた手に浜を後にすると、険しい山道を登っていく。月明りを頼りに歩いていくと遠くから何かの声が聞こえてきた。顔を上げて声の方に走りよると先の方に影が見える。明るく手を振りながら呼ぶ影に両手を広げて答え、麦わら帽子を被り直すと少年は自分を呼んだ友人を追った。月は明るく、まるで昼の野山を見ているように景色は鮮明であった。

next title>蜃気楼に囲まれて(8/28)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ