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10.旧知の壁番

ガー、ザザザ。「こちらポー・・・・の状況は?」「・・・ードネメシ・・せず。・・・は期待でき・・・は届いて・・・」「安全な・・・うぞ。」「了解」プッ・・・

以上が持ち帰った小型通信機に残っていた会話記録である。経年劣化によるものか断片的にしかはっきりとは聞こえなかったが、そんな途切れ途切れの音声データからもわかることがある。

(恐らくはネメシス計画についての情報だったのだろう。何かしらを諦めた代わりに向こうに何かを送り、安全な場所に保管したといったところか。それに俺の記憶通りならば「ポ」で始まる名乗りは「ポート」のみ、これは港町配属の保安員を示すものである。となるとネメシス計画を追うためには港町に寄る必要がありそうだな、明日にも行ってみるか。)

翌朝、遠出の準備を整えた男は拠点から見て反対に伸びる道を進む。子熊が隣を歩こうが路脇でイノシシが水を飲んでいようが男は足を止めなかった。街を抜けて森を進む。木々は拠点のものよりずっと太く、数本線の傷が所々に見て取れた。以前していた狩りの癖なのか、動物の痕跡を探している自分がいた。いや、それだけが理由ではないか。痕跡が少ないように感じて落ち着かないのである。それが壁砦へ、そしてその先へ向かう男へ緊張感として貼りいていく。草木の道は欠片の石を転がしていき、木々の間から石壁が姿を現していく。その門は石の塊によって阻まれ、ところどころ壁の断面を斜めに晒して壁砦は佇んでいた。荒廃を感じさせるその外観は中の状況まで表していたと結果的に言えた。部屋はおろか廊下までもが崩落し、機械設備も壊れて今の男には使えそうにないものが殆どだった。小石が転がり落ちる砦を軽くほど探索したのち、港町に向かおうとする。

と、その時近くの木が悲鳴を上げた。見上げると大きな塊が頭を飛び越えてすぐ前に降りてきた。土煙を上げて着地したそれはのそりのそりと向きを変えて、ようやくこちらを向いた何時かの熊が道を塞ぐ。理由は知らぬが先へは通さぬつもりだろう。振り返ってみれば廃墟街との遭遇以来か、奴と戦ってこなかったのは。男と熊の間に久方ぶりの緊張が走る。

手始めに、と銃を取り出そうとする男を見るや否や熊は弧を描くように接近し、男の手を薙ぎ払った。拾わせる間も与えずに突進してくる熊を避けて下がりつつ、いつもの手槍を取り出した男は熊をけん制するように構えた。槍先を口元に向けつついつでも切り上げられるように手を添えると男は熊ににじり寄っていく。少しフェイントを挟んで頭を狙おうとするが、読まれているのか槍を器用に避けて下から突っ込んでくる。さほど勢いは載せていなかったらしく、すぐ後ろに跳んで前を塞ぐように位置取る。・・・行かせられない理由でもあるのだろうか、この後も港町を背にするように熊は立ち回っていった。それにこちらの隙を見ては後ろにも警戒を向けているように見える。先へ進むにはその隙をつくべきか?それとも熊が警戒するほどの危険があるとみるべきか?そう考えながらも読みあいが続いていく。

しかしその迷いを見られたか、男の手槍が弾かれた。低い体勢から熊がうなりながらこちらを警戒する。しばらくけん制するようにしばらくこちらを睨むとふっと背を向けた。その様子を見た男は諦めて飛ばされた武器を拾い集めていると、熊が動き出した。何か熱いものが頭上をかすめた感覚がすぐ後に残る。危険を感じた男は銃を握り、すぐにその正体を探し始めた。耳鳴りに似た音が森にこだまし始めている。

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