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とにかく俺は帰りたい!  作者: やま
第1章
6/24

6.1人じゃない、かも。

 スーツケースの回収から戻ると、よく焼けすぎていた魚と手持ちの食料を食べた。焼けすぎた魚にねこは少し不満そうな目をこちらに向けたが、饅頭を1つ与えてみると機嫌が治ったようだ。ねこって饅頭与えていいんだっけ?ほんとはねこじゃないしいっか。


 ねことの散歩はかなり良い発見があった。

 スーツケースを隠したところまで歩く道中、ねこは上手に木に登り樹上の実を落とした。落とすと同時に高所より飛び降りてひらりと着地。すぐさま果実を食べ出した。食後のデザートらしい。色は黄緑のこぶし大の木の実はこの森で俺もみた記憶がある。果実だったのか。俺も一口分けてもらったがいい感じに酸味のある甘さで口内がさっぱりした。

 このねこの行動から色々森の事情がわかるかもしれない。食べられるもの、水源、他の動物たちの存在、それらがわかれば生存率は高くなる。とにかく1つ食べられる果実学んだ。そういうのもっとちょうだい!カモンねこー!!

 スーツケースは隠したまんまそこにあった。他の動物や俺以外の遭難者は本当にいないのかも。付近の浜辺に新たな漂流物も無かった。少しだけの捜索を終えた俺は、ジュラルミン製のスーツケースに使えそうなものを詰め替えた。パール下着も一応入れた。何が己の命を救うか分からんからなっ。残る2つのスーツケースは使わない予定だ。プラスチックっぽいスーツケースよりジュラルミン製の方が耐久性がありそうだからだ。

 キャンプ地へ戻るとすぐに暗くなった。空には昨晩と変わらず3つの月が浮かんでいた。

 昨日との違いといえば、ちょっとでも寝たこと、満足に飯が食えた事、水も十分に飲んだこと、ねこと出会ったこと。日の出前から凹み始めた精神が、日が沈んだ今ではだいぶマシになっていた。やっぱり人間、睡眠と飯と他者とのコミュニケーションが大切なんだなぁと実感した。落ち込みもしたけど、やっぱり俺はツイている。今日だけでさまざまな幸運がフィーバーしている。

 精神的な回復も自覚したところで1つ目標を立てよう。人間目標があれば多少の困難も乗り越えていけるはず。

 まず最大の目的、ゴールについてだ。これは簡単。「沙奈の元へ帰る」こと。これしかない。あんな可愛くてまだ幼い妹を、今この瞬間も1人にしてしまっている事が不安でたまらない。とにかくこのサバイバル遭難生活生き抜けば可能性はゼロじゃないはずだ。この地にこうして来たんだから、帰れないはずはない。そう信じて頑張る。これを俺の行動理念として掲げよう。さらにそのゴールへ向かう一番直近の目標として「生き残る環境づくり」だな。具体的には水源の確保だ。平行して「人里の捜索」だ。まだ水源を見つけていないのは実はやばいよね。明日以降頑張ろう。ねこが生きてきたぐらいだから水はあるはずだ。その捜索の中で偶然人に出会えれば超ラッキー。そこからこの世界の知識を得て、見事帰還する!

 そうと決まれば、今すぐできることは寝ることだ。真っ暗な森の夜では俺は何もできないからね。明日の日の出から行動開始だぜ!

 寝床があるわけでもないので、焚き火から少し離れたところに横になる。枯葉・枯れ草を敷き詰めた寝床はあまり寝心地が良くないが仕方なし。すると、ねこがとてとて寄ってきて、俺の顔に頰を寄せてきた。…食べちゃいたいぐらいかわいい。沙奈とタメ張るレベルでかわいい。しかし違和感に気がつく。あれ?獣臭さが無い?ねこをむんずと掴んでその体を色々嗅いでみるが全く獣臭はしない。それどころか甘く爽やかな香りが少しするな。どっかで嗅いだ記憶のある香りだ。…あ、さっき一緒に食べた果物だ。と気付いて目を開けるとねこの顔を正面にして嗅いでいたらしい。口臭すら獣感ゼロ!?

「お前さんは本当に何者なんだ〜?」

 と抱き上げたまま聞いてみると「んなぉ」と返事があった。抱き上げている事による抗議の声ではなさそうだ。kawaii…。ほんと好き。

「このまま一緒に暮らそうか?」

 つぶらの瞳と見つめ合う。


「んなんな」


 まさかの返事が来た。なんだか頷いたようにも見える!ねこは俺に抱き上げられたままあくびをした。たまたまタイミングが良かっただけかもしれないのでもう一度聞いてみる。

「俺と暮らす?」

「んなお」


 返事超はやい。そして結婚したいレベルで可愛い…。では、ねこ本人?の許可も得た事ですので、この相棒に名前をつけましょう。「ねこ」だとこいつは猫っぽいだけで猫じゃないから紛らわしいよね。将来的に、誰かに呼んでるところ見られたら恥ずかしいし。悩むなぁ。いきなり名前らしい名前も出てこない。タケシとかキャサリンとか普通だしなぁ。タケシとキャサリン、すまん。

 では考え方を変えてこいつの特徴を名前に入れよう。まず猫っぽい。色が黒い。足が太い。よくみると指のところだけ毛が白い。尻尾が複数ある。 変な鳴き声。魚をよく食べる。特徴はこのぐらいかなぁ。

 しばらく名前を考えていたが、ねこは眠そうにしながらも俺に付き合って大人しく座っていた。ねこが、んなぁとひとつ鳴いた。あくびも同時に出ている。

「なねこ」

 そう呼んでみた。「んなぁと鳴く猫」で「なねこ」。抱き上げた時に見えた、いや見えなかったからおそらくメスだろうし、「」が末尾に入っていれば女の子感が出る。

 肝心のなねこの反応は、なーなーと小さく鳴きながら、横になる俺の脇の間に無理やり入って俺の肩を枕に寝るというもの。毛が固くて少し痛い。了承したのかよく分からない反応。まぁ名前を呼び続ければそのうち理解するだろう。

 この遭難生活も一人きりじゃなければ案外なんとかなるかもしれない。本当に俺はツイている。肩に頭を乗せて眠るなねこに頬を寄せて俺も目をつぶった。

「おやすみ、なねこ」

 なねこはうにゃうにゃと返事らしきものを返してくれた。

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