17.魔人じゃない、かも。
俺の異世界転移は全くのノーサポートであることが判明した。刃物を眼前に突きつけられ、全く理解できない言葉で怒鳴られて理解せざるを得なかった。ざっけんなよ。
俺はなんとかこの場を切り抜けるため頭を回転させる。しかし、特に人生経験豊富でもない脳筋にはいろいろ無理だった。そこでここは殺されないために潔く「捕まろう」と思い至った。相手は寝ている間に俺を殺さなかったし、体を揺すって起こそうとしてくれた。今も槍をこちらに向けるばかりで、俺の次ぎなる行動を待っているらしい。きっと殺す気はないのだろう。そうに違いない。そうであってくれ頼むっ!!しかし、例えこの思惑が成功しても俺の異世界転移は犯罪者スタートだ…。でもでも!だって、周りを囲まれては逃げられないでしょ?槍で刺されたらもう終わりでしょ?…でも殺されそうになったら暴れてやるっ。頼むから私有地への不法侵入的なアレで、厳重注意からの即釈放になりませんかね?
鈍く光る槍の穂先に心臓がばくばく言っている。怯えながら両手を「お縄を頂戴致します」ばりに差し出すと、俺を囲む男達は困惑した表情を見せたが、結局4人がかりで縛り始めた。……通じるもんだな。槍の人は俺に向けて油断なく獲物を構えている。今後逃げるチャンスに行動できるよう考えて、手首を横にして縛られようとするも、親指から縛り始めやがった…。異世界の人ってあまり知識無いんじゃないの?横にも縦にもぐるぐる巻きに縛られると、槍を上下に、顎もクイっと上にしゃくるようなジェスチャーをしてきた。
「…立てって事ですか?」
ダメ元で聞いてみる。
すると周りを囲んでいる野次馬達?がまた蜂の巣を突いたような騒ぎになる。俺もびっくりする。俺を囲む男達の表情も怯えの色が強くなったように思われる。これ、もしかしなくとも喋っちゃいけないやつだ…。俺の言葉に怯えてるよね?相手の言葉は理解できないし、こちらが話すと周りはパニック。詰んだ?ねぇ、詰んだ?
槍と顎のジェスチャーをもう一度と、なんという意味かわからないが『フント!フント!』と言われた。多分「立て!立て!」って事だよな。俺は相手を刺激しないよう、あえてゆ〜っくりと立ち上がる。ゆっくりと尻を浮かし、ゆっくりと中腰になり、ゆっくりと直立していく。なぜこんなにゆっくりと立ち上がったかって?当然だ。俺の身長は2メートル10センチ。ついでに言えば体重は140キロある。筋トレが大好きな俺は、街を歩けばプロレスラーにならないかと勧誘を受けるほどだ。そんな俺がさっと立ち上がってみろ。槍で刺されるぞ…。俺が徐々に立ち上がるにつれ、向けられた槍の震えも徐々に大きくなり、槍を持つ男の表情は「恐怖」という言葉をそのまま形にして顔に貼り付けたようになっていた。野次馬達が何か叫びながら走って逃げる音が周りから聞こえ、俺を囲む男達は大きく距離をとった。槍の人が可哀想だろ…。あと、縄ちゃんと握ってろよ。
俺は引っ捕らえられた人の典型みたいなポージングでとぼとぼ森を歩いていく。どうやらなねこは近くに居ないらしい。逃げおおせてくれていれば良いのだが…。あわよくば近くで待機していてほしい。助けて神様仏様なねこ様。ナイフは寝ている間に手から抜かれていたらしく、リュックサック(葉)も奪われている。荷物を奪われるどころか、こんなに大勢に囲まれて気がつかないとか、どんだけ熟睡してたんだ俺は。
歩く森は肌寒い。少しあたりが明るくなって夜明けを感じる。薄暗くなった視界に現れた森の様子は、俺が過ごした森とはだいぶ違うようだ。つまり俺は寝ている間にここへ移動してきたという事になるのか?周りに見える木は前の森より幹が細く、間伐もされているのか密集していない。てか寒いって久しぶりの感覚だな。前は「ザ・ジャングル 〜野生の爆発〜」な森だったし、気候は亜熱帯か熱帯だった。ここは温帯から亜寒帯と言った植生の様に見える…。あの森の湖周辺と似たような植生だったが、木が細いし背も低い。神秘的な雰囲気もない。もしかしてもう一度異世界転移したのか?もし本当にそうだとしたら、何を考察しても無駄という事になる。もしそうなら、なねこもいっしょに来ていれば良いのだが…。
日が完全に出て、あたりをより一層明るく照らした。周りがよく見える。俺の手を縛っている縄を持つ男は襟付きの白いシャツにこげ茶のベスト、カーキのズボンに革靴を履いている。俺がいた現代の服装よりは少し前の時代っぽい感じ。髪の毛は明るい茶色で背は175センチ程だろうか。先ほど見た顔は表情もさることながら、下から焚き火の炎に照らされて、なのでやたら顔が怖い人という印象。周りの男達もシャツ・ベスト・ズボンに革靴という出で立ち。昨今この辺で流行のファッションなのかな?中にはツバ付きの帽子をかぶっている人も2人ほどいる。はっきり顔を見たわけではないが彫が深い顔立ちだった。俺を囲む6人ほどの男達のそのさらに外側を囲むように40人から50人ほどの野次馬が、おっかなびっくりというように付いてくる。走り去ったやつらを合わせたら100人近くいたんじゃないか?皆一様に生地の荒そうな貫頭衣?筒型衣?を着ている。それ以外の服装に統一性はなく、ベルトをしている者や、丈が長かったり短かったりとバラバラな印象。履物もサンダルに毛が生えたようなもので靴ではない。全体的に粗末な印象だ。俺を囲む男達と比べて「格差」を感じる。身分が低い人たちなのだろうか。俺の視線に気づいて慌てて視界から逃げたり木の幹に隠れたりしている。
彼らをよく見ると、「彼女ら」の姿も目に飛び込んできた。
女性だ…女子だ…はぁはぁ…久しぶりに見る女体だぜ…はぁ…はぁん……い、いかん!森で生き残る事に精一杯で性欲をうっちゃっていた反動がっ!お、落ち着け俺!今必要なことは柔らかな2つの膨らみじゃないだろう?やたら短い裾から見えそうで見えない神秘のデルタゾーンのことじゃないはずだ!己の命を未来に繋ぐことのみに集中しろっ!そうだ、己の生きた証を未来へ、己のDNAを未来という次世代へ残すためにナイスバディなおねいさんと組んず解れつ―
じゃなくて。
彼ら彼女らをよく見ると、ケモ耳だったり尻尾だったりがチラホラ。やたら長く尖った耳の持ち主も見える。手の甲や首筋に鱗のようなものが見える者や極端に背の低い中年と思しき男女も。俺の異世界転移はサポート不足、いやサポート皆無だが、どうやら「異世界要素」の開示は惜しまないスタイルらしい。多分彼ら彼女らは獣人とかエルフとかドワーフとかそんなところだろうか。
森を抜けると、あたり一面は田畑だった。麦のようなもの、葉野菜のようなものが見て取れる。何が育てられているのかは正確にはわからないがここには確かに「農耕」がある。その向こうには家畜だろうか、牛のようなサイズの動物が群れとなりまとまって走っている。視線を横に動かせば火の見櫓のような物と建物の屋根が見える。その奥、遠くには、村だろうか街だろうか、建物が集中している様子も薄っすら見える。
近くに見えるのは家だろうか倉庫だろうか、ついに俺は念願叶って人里にたどり着いたのだ。久しぶりに目の当たりにする文明に、自然と頰が緩み、口角が上がる。叫び出したい気持ちをぐっと抑える。抑えきれない部分は小さくガッツポーズで。
ブチっ
手を縛る縄が切れた…。
俺は、小高い地形にポツンと立つ牢屋と思しき小屋に連れてこられた。ここで俺の異世界お勤めが、今始まるっ!と思いきや、小屋の脇の木に、俺の脚に新たに足されたごつい金属の足環と鎖で固定された。今夜も野宿か…。そんな事を思っていると、槍を持った比較的身なりの良い男が2人やってきた。最初の槍の人は泣きながら交代していった。怖かったね。よくわからないけどごめんね。
俺には一枚の布が与えられた。もちろん下半身を隠した。引っ捕らえられ連行されている間、俺は周囲を観察していて気がついたのだ。歩くたびに揺れる俺のJr.への熱い視線を。それは男たちが恐れおののいている様でもあり、その隠された戦闘力に想像を羽ばたかせる淫らな女性たちの雰囲気もあった。俺のマッスルボディと組み合わされば、そんじょそこらの男は自信を喪失してしまうだろう事は明白だ。嫉妬から言われなき嫌疑をかけられ、立場が益々悪くなってしまう。ここはおとなしく隠すことが最善だろう。
遠くに飯が見える。近づいて来る様が見える!あれは他人が作ったご飯だ。数ヶ月ぶりの外食だ。俺の期待はマックスハートだったが、ご飯を持ってきてくれた人はかなり怯えていたので申し訳ない気持ちになった。
ちょっと遠くにトレーに乗ったご飯がある。今まで森の恵みと海の恵みを焼く・煮るしかしてこなかったし、調味料も十分になかった。こんな状況だが、俺はあの飯が楽しみで仕方ない。ハリー!早く食べさせて!ご飯の人は、超怯えながらトレーを俺の前方5メートル離れたところに置いた。そして槍の人が槍を使ってトレーを俺の方にズズっと押してよこす。その顔は引きつり、なんとか体を逃して槍だけでこちらによこそうとしている。…大人しく捕まったし、ここでも大人しくしているのになぁ。傷つく。
心の傷は与えられたご飯が癒してくれた。一汁三菜である事に感動して全回復した。しかも結構、いやかなり旨いから驚きっ。スプーンもフォークもなかったが幸い主食はパンだった。貪る様に食べて合掌し、心の中で「ごちそうさまさまでした!!」と言う。見張りの人達に顔を向けると何やら妙な表情。何か付いているかと自分の体を見回してみても、よく鍛え上げられた黒光りする肉体があるだけ。いや、今視界に何か落ちるものが1つ、2つ、3つ…あれ?突然の鼻水が……
俺はいつの間にか泣きながらご飯を頂いていたようだ。
ついにたどり着いた人里。出会いはこんなだったけど、目指していた所へたどり着いた。人里を視界に収めた時にも涙がでそうになったが、人様の作ったご飯をいただいてついに涙腺が崩壊。恥ずかしかったので繋がれている木の裏に隠れ、3人の視線をやり過ごす。
その後、日暮れ時に晩御飯も出た。ご飯の受け取り方法を変更しました。配膳の人が来たら鎖の許す限り彼らから離れます。ご飯が置かれたら、彼らを刺激しないよう「俺、ご飯、取り、行く」と言うジェスチャーをしながら近く。ポイントは中腰で、自分と置かれたご飯を交互に指差しながらジリジリ進む事。これで平和的にご飯が受け取れた。夜の分のご飯、こちらも大変美味しゅうございました。昼より量が増えたのが有難い。
夜には3つの月が出た。食後に与えられた毛布に包まりながらぼんやり空を眺めていた。同じ世界の中で移動させられていた事に少し安心した。命さえつながればあの森へなねこを探しに行かなくちゃな。沙奈の元へ帰る前に寄らなきゃならない場所ができちまったぜ。あたりの建物からは光が漏れている。久しぶりに夜に「安心」を感じて眠りについた。
ちなみにここでのトイレは、鎖の範囲で「出来る」ところだった。犬よろしく穴掘るぜ!森の生活とあまり変わらないなぁ。
囚人生活2日目
日の出とともに目覚めると、すこーし肌寒さを感じる。俺を監視する槍の2人は夜の間に交代したらしい。彼らは二の腕をさすったり肩をすぼめたりして篝火の近くに固まっている。どうやらかなり寒いらしい。俺は自慢の筋肉のお陰で毛布さえあればそこまで寒くはない。起きたアピールをするべく体を起こしゆるくストレッチを始める。槍の2人が俺に気がつき警戒したように槍を握り直す。目が合ったので、軽く会釈。槍の2人は驚いた様子でお互いの顔を見合わせ、数俊ののち俺に向き直り会釈をしてくれた。ポカンとした表情で。
朝ご飯はスムーズに受け取れた。昨日の昼と同じメニューだったが、量が多めで大満足。がつがつ食べ終えて、あぐらをかいたまま持ってきてくれた人に手を合わせ、お礼を体で全力で表現する。喋ると怯えさせちゃうしね。
囚人生活はやる事がない。食べたらあとは寝るまで待機だ。取り調べがすぐに来るかと思ってたんだけど、当てが外れた。そこで俺は激しい動きを必要としない筋トレを始める事にした。まずは体幹トレーニングのクランチだ。おもむろに体を動かしクランチの姿勢をとる。カウントは60秒。その後30秒休んで次のセットへ。これをとりあえず10セットぐらいやってみようか。その後サイドクランプ、アームレッグクロスレイズを行なって、スクワットは槍の2人を刺激しそうだから…空気椅子にしよう。そんなことを考えながらクランチの次のセットへ。槍の2人は怪訝な表情で俺を見ている。視線をまっすぐ前にしてクランチの正しい姿勢に集中していると、ふと2人の先に動くものが見えた。
遠くに人が3人、身を低くしてこちらを伺っているらしい。さらによく見てみると子供たちの様だ。頭にケモ耳が付いているし身なりは簡素なので、俺が捕まった時に周りを囲んでいた大勢の人達と同じ立場の子供たちの様だ。くりくりお目々のかわいいお……女の子?男の子?性別はどっちにも見えるな。年の頃は10歳ぐらいか?いや、ここは異世界だ。あんななりで100歳超えているかも。
俺は30秒の休憩に入った。その後もう一度クランプの姿勢をとり子供達の方を見ると、バッチリ視線が合った。驚いた子供たちは慌て、わちゃわちゃした様子で何事か話しながら、それでもゆっくり後退していく。俺はいたずらがバレたような子供達の反応に、微笑ましい気持ちになり自然と笑顔になった。それを見た槍の2人が俺の視線の先に気付いた。大声で子供達に声をかけている。怒っている様な語気ではないので『覗きはほどほどにしてマンマのところへ戻りなよ〜い』ぐらいの感じだろうか。
昼飯は麺類が出た。麺の長さは短いが「すする」と言う食べ方が久しぶりにできて、日本人の食の心が満たされてゆくのを感じた。
晩御飯には箸が付いてきた。すごい太いけどこれは間違いなく箸。え?麺の次は箸って何か気づかれてない?ねえ、気がついてないっ!?
囚人生活3日目
食事を手渡しされた。何を言っているかはわからないが、声もかけられた。あまりに突然な態度の豹変に固まってしまい、返事も何も出来なかった。槍を持つ2人もどこか気楽に立っている様に見えた。昨日のアレはやはり、俺について何かしら気がついたのではないだろうか。
囚人生活4日目
朝ごはんを食べていると、槍の2人が突然片膝を付き槍を地面に寝かせた。2人が視線を送る方をよく見ると10人ほどの人が馬の様な動物にまたがりこちらへ向かっている。飯に集中してて気がつかなかったぜ。しかし彼らが乗っているアレはマジで馬だな。この世界、馬居るんだ。
馬に乗ってきた人らは皆、一目で質の良いものとわかる身なりの年配の男達だった。姿勢も良く、顔つきからして雰囲気が違う。中には腹が出ている人もいて裕福さが伺える。俺は食事を中断し、トレーを傍に置いた。座ったまま姿勢を正し、まだ距離が若干ある彼らに対峙する。ムッチャ緊張する…。足環のせいで正座がうまく出来ない。いきなり「死刑」とか言われないよね…。
彼らは槍の人のほど近くで馬を止めた。すると、1人の老人といっていいほどの顔つきの男が馬からヒラリと降りる。見た目の歳の割に軽やかなその動きのせいか、周りの男たちは彼が馬から降りた事に遅れて気がついた。すると皆、何か慌てた様に馬から降りた老人に声をかけている。周りの声を無視して老人はこちらへ歩いてくる。厳つい顔の白髪混じりの髭面で、濃いグリーンの生地に金の刺繍が入ったベストを身に纏い、腰にはサーベルの様な剣を下げている。その剣も装飾が施されている。おそらくこのメンツで最も地位の高い人なのだろう。槍の2人も腰を浮かせたが、男が手で制して片膝立ちの体制に戻り頭を垂れた。歩くスピードが早い。キビキビ歩く、そんな表現が似合う歩き方だ。未だ馬上にいる男達も次々降り始めたが、それよりも早く地位の高そうな老人は俺の前に立った。俺はこの男が近づいてくる間、ずっと目を合わせていたが、目の前にこられ見下ろされると挨拶の1つでもしなければと思い、目を合わせたまま少し頭を下げた。それに反応してか老人の片眉が上がる。老人は踵を返して歩き始めた。やっと追いついた男達に何か声をかけてそのまま馬に跨り、1人走り去ってしまった。
一体あのやり取りに何があったというのだろう。偉いさん?の老人が去り、その後は怒涛の展開だった。
馬に乗ってきた男のうち40代ぐらいの苦労してそうな男が俺の足環を外したのだ。うそっ!?釈放!?と思ったが今度は手枷を嵌められた。途中だった朝ごはんを置き去りに俺はまた連行されていった。そのほかの男達は皆、俺の連行を見届けることなく帰っていた。
田畑を連行されていくと、人々が農作業している姿や、あぜ道に腰を下ろし談笑しながら休憩しているのどかな光景が見えた。そのうち、やたら広い平屋に見える2つの建物が見えてきた。さらに近づくと小屋も複数見える。建物の周りにも貫頭衣や筒型衣を着た人たちが何やら作業をしている。彼ら彼女らはこちらに気がつくと、まず馬上の人を見てにこやかにしかし尊敬の篭った態度と眼差しで挨拶をした。その後連行される俺を見て顔を引きつらした。俺はそのまま広い平屋の片方の前に連れていかれ、手枷を外された。そこには複数の男女が姿勢を正して整列していた。
俺を連行してきた人が何事か説明をしている。度々俺の方を向くので、俺に関しての説明をしていると予想がつく。説明を受けている男女は不安そうな表情が目立つ。中には明らかに俺を敵視しているショートカットの女性が1人と、優しい眼差しでこちらを見やるお爺さんが1人。他の人らは微妙な顔つきなので、幸先はかなり悪い感じがする。
普通、異世界転生や転移物だと、奴隷制のある土地で主人公は奴隷を助ける・買うなどして、その土地の常識からは考えられないレベルで己のものとなった奴隷に優しくする。暖かい食べ物を与えられ、あまつさえ同じテーブルで食事を許され困惑し恐縮する奴隷。重ねて優しく接し、食事を終えれば次は身なりを整える。奴隷は今までに経験がないほどの上等な衣類を与えられ驚き感謝する。主人公はそのビフォー・アフターに驚き奴隷が美少女だったことに気がつく。旅の中で絆を深めた2人はやがて…
しかし、俺の異世界転移は、俺が奴隷だった。まあ、薄々感づいてたよ?現地民の身なりの格差はそういうことだろうなーって思ってたし。どこぞの馬の骨とも分からない、なんの特別な力も持たない俺は殺されないだけマシ。いきなり「実は王族の美少女」とかが現れて俺を気に入って近くに置くなんてことにはなりませんよね。現地民からは無茶苦茶怯えられていたし、権力者は俺みたいな浮浪者に興味ないでしょっ。とスネてみる。
奴隷たちに引き渡された後、俺は伸び放題だった髪と髭を全剃りされた。いきなりナイフを持ち出されたのでびびったが優しい眼差しのお爺さんが自らの頭を刈り始めたので理解した。さっぱりした俺はタライぐらいの桶になみなみと入った水2つと、かなりごわついた布切れを沢山渡された。またお爺さんが布切れで体を拭くジェスチャーで教えてくれたので、俺は少し恥ずかしかったが頭から足の指の間まで全身をくまなく、何度も布切れで拭った。タライの水はあっという間に真っ黒になってしまって二度恥ずかしい。通りでタライがふたつな訳だ。
まるで生まれ変わったかのような爽快感を感じていると、ついにお揃いの服が渡された。先程体を拭った布よりもう少しだけマシな硬さで、頭を通す部分のみに穴の空いた正真正銘の貫頭衣と、おそらく腰紐であろうくすんだ青色の平紐が支給された。サイズはちと小さいが股間がしっかり隠れているから問題ない。それまで巻いてた腰布はそのまま持っていてもいいらしい。これで晴れて俺も野人→犯罪者→奴隷と順調に出世したわけだ。みんなよろしくな!
その後お爺さんと敵視女以外は解散していった。心なしか早足に見える。
足早に去る人達を見送っていると、お爺さんは自身を指し『ア・ウ・ガ、アウガ』と言った。また、敵視女を指差し『タ・ア・ラ、ターラ』と言い、手のひらを差し出すように俺に向けた。もしかしなくともこれは自己紹介タイムではないのでしょうかっ!?俺は自分が喋ると怖がらせてしまう事を恐れて小さな声で
「柳澤 孝蔵です。あっ、ヤ・ナ・ギ・サ・ワ、コ・ウ・ゾ・ウ」
と言った。すると敵視女ことターラさんがすんごいメンチを切りながらまくしたてるように怒鳴ってきた!?ボディランゲージも激しいっ!!ひぇぇえ、お金は持ってませ〜ん、と怯えてしまったが、お爺さんことアウガ爺さんがターラさんをなだめ、自己紹介のくだりをもう一度繰り返してくれた。
俺は改めて自己紹介をする。
「ヤ・ナ・ギ・サ・ワ、ヤナギサワです!!」
俺は奴隷から沙奈の元への帰還を目指す。その前に出来ればなねこの森にも。この世界に「来た」んだから帰れないはずかないっ!!
よね?




