表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/72

68話 ありえないもの 〃

 自覚した気持ち。

 恋……という甘酸っぱいもの。

 私は告白された……だから、これは両想い。普通なら躊躇う必要はない。でも……私の恋は、普通とは違う。相手の告白を受け入れて、付き合って……


 駄目。

 想像したくない。恐い、変わる事が。告白を受け入れて、私達の関係が変わって、そしたら……今ある幸せが壊れてしまうんじゃないの?

 あの……誕生日の時のように……


 私達は本当に幸せになれるの? 周りから後ろ指さされて、私達の関係に傷つく人もいて……それでも、私は変化を望むの?


ーーーーーーー

 

「よっ、添、空なんか見つめて考え事か?」


 放課後の教室、部室にも行かず考え事をしながら、自席に座り流れ行く雲模様を見つめていた私は、声をかけられる。

 顔を向けると、いつの間にか私の隣には、幼馴染である戸塚が立っていた。


「まぁ……うん、ちょっとね」


 目を俯かせる私。それを気にしてか、してないのか戸塚は変わらず口を開いた。


「添も、悩んでいるのか〜、まぁそりゃあ悩むよな」

「え、戸塚悩みなんてあるの?」


 意外だった。戸塚に悩みなんてないように思えたから。

 私の言葉に、戸塚の口が大きく開く。


「ひっでぇ〜、そりゃあ私だって悩むに決まってるだろ、将来の事なんて言われたらさ」


 大げさに、肩を落としため息を吐く戸塚。

 そんな彼女を前に、私もため息をつきたくなったが、結局出ることはなかった。


「そうだね……決断するには大きすぎるね」

「そうだな、こんな紙渡されたってなぁ〜」


 そう言って、戸塚は、ポケットから一枚の紙切れを取り出す。むりやり押し込んだのか、紙きれはデタラメな折り目がつけられていた。


「それは?」

「それは、って進路調査票に決まっているだろ。帰りのホームルームで配られたやつ」


 折り目で、見づらくなってはいるけど、確かに進路調査票と書いてある。机の引き出しを見てみると、確かに進路調査票が入っていた。


「はは、そうだったね、配られてたね」


 苦笑いする私。そんな私を戸塚は訝しげに見つめていた。


「なぁ、添。やっぱり最近のお前少し可笑しいよ」

「……そう?」

「そうだよ、さっきのホームルームの時だって、上の空だったじゃないか」

「……そうだったね。最近何だか元気がでなくて」


 ポツリと、言葉を漏らす私。そんな私を戸塚は何だか真剣な顔持ちで見つめた。


「何、戸塚、そんな顔して」

「なぁ、やっぱり……」

「添さんが言い返さないからですっ!」


 突然の大声。思わず私は辺りを見渡す。

 照明がついていない放課後の教室は、窓から射す夕焼けのみが光源であり、ほの暗い。

 今教室にいるのは、私と戸塚、そしてもう一つの人影のみだった。


「花、あんた部活はどうしたの」


 聞き覚えがあった声に私は反応する。

 教室奥から現れた人影、もとい花は、私達に近付いてくる。

 花は怒っているのか、顔を真っ赤にしていた。


「それは添さんもでしょ。いや、それより心配でした!」

「し、心配って何を……」

「恋の悩みですよね!」

「……」


 ため息が聞こえる。隣を見ると、戸塚が頭を抱えていた。


「お前なぁ、こんな時まで恋とか。どんだけ恋愛脳なんだよ」

「恋愛脳とか心外ですね。私達女子高校生が悩むものといったら、恋に決まっています」

「それはあんたの理屈だろ……」


 呆れ声を出せる戸塚。一方の私はと言えば……そんな声を出す気分にはなれなかった。

 戸塚の隣に並んだ花は、続けて口を開く。


「で、でっ、結局のところ、どうなんですか。好きな相手は誰なんですか」


 ピョンピョンと、子犬のように体を揺らす花。本当に花は自身の気持ちに正直だ。

 そんな花とは売って変わり、戸塚は冷ややかな目を花に向けていた。


「おい、止めろよ。添が困ってる」

「そんなことないですよね〜。力になりますよ。私、知識だけは豊富なので」

「……」


 多分、前の私ならこの時戸塚が花にツッコミをしなかったことを訝しんだと思う。でも、この時の私は、その事に気を配れないほど、余裕がなくなっていた。


「……本当に、力になってくれるの?」

「本当です、本当……えっ、本当に?」

「……いる、好きな人」

「……」


 口を噤む花。

 そんな花は珍しくて、隣に立つ戸塚も、そして私も彼女を注視してしまう。

 無音の時間。それが長くて、私は口を開いた。


「花……?」

「きっ……」

「き?」

「きっ、たっっ〜〜!!!!」


 耳をつんざく声。窓ガラスが揺れると思うほどに、花の叫び声は大きく、思わず身じろぎしてしまう。

 それ程までに、花の声は大きくて、彼女は興奮していた。


「うっせぇよ、戸塚!」


 叫び返す戸塚。でも、戸塚の意を解すことなく、花は言葉を続けた。


「本当に、本当なんですよね! 好きな人がいるって」


 彼女の熱が伝わる。

 それは、暖かくて、彼女らしいって、そう思った。


「う、うん」

「んっ〜、ついに添さんも恋の素晴らしさに気づきましたか! だから悩む姿も可憐だったのですね。恋は人を美しくしますから」

「……」

「それで、それで、相手は誰なんですか、もしかして教助先生ですか! 良いですねぇ、先生と生徒の禁断の恋! そそります」

「……なぁ、花それくらいにしとけ」

「どうなんですか、添さん。結局誰なんですか」


 私の机に手を当て、顔を迫る花。甘い匂いが、鼻孔に触れる。

 彼女の目は輝いていた。キラキラと曇りない、見ている側が浄化されるような、そんな輝き。

 彼女なら、受け止めてくれるかもしれない。陽先輩や見治先輩のように、アドバイスをくれるかもしれない。

 後押しするように、そんな考えが頭に浮かぶ。


 それに、何より……花は友達だ。


「……兄さん」


 口から出た言葉。

 小さく、空気に混じり、直ぐにそれは消える。

 放課後の教室。夕陽が射す中、冬場の冷気が体を包み込む。いや……それは冷たすぎた。


 目に入った景色。

 窓から入る赤い光に照らされた彼女。輝いて見えた筈の瞳は、黒く……冷たい。漂っていた甘い香りも、もう……分からなかった。


「……嘘……だよね?」

「えっ……」


 私から距離を置く花。そして彼女は腕を大きく開き、大げさに反応し始める。でも、彼女の目は笑ってなんかいなかった。


「……またまた冗談言っちゃって〜、添さん。エイプリルフールはまだ半年も先ですよ。ボケちゃったんですか」

「いや、そんなこと……」

「あっ、じゃあ何ですか、義理の兄妹だとか? それはロマンチックですよね〜。一つ屋根の下、男女が家族として過ごすよう強いられる。でも、そこは血のつながっていない間柄。湧いてしまう想い、隠しても伝わってしまう想い。逃げ場のない中、二人の仲は近づいていき……ハァ最高です。心底羨ましいです添さん」

「……添、答えなくていい」

「どうなんですか、添さん?」


 止めてくれる戸塚。思えば、今日の彼女は、私に道を示し続けてくれていた。いつもの日常へと戻れる道を。

 それを私は……見逃していた。


 心臓が高鳴る、興奮じゃない。これは、恐怖に似たもの。血が体からひいて行くのがわかる。

 でも、そんな恐怖に惹かれていくように、私は足を進めた。


「……実の……兄。血のつながった……義理……なんかじゃ、ない」


 答えとなる、言葉を、私は吐いた。


 その瞬間、彼女の瞳は冷たさを通り越す。私を見つめる彼女の瞳は……理解出来ないものを見るような、軽蔑を示すものへと変わっていた。

 彼女の口が動き、言葉が、耳に入った。


「……気持ち悪い」


 ……何だろう、視界が黒と白に変わっていく。色が……消えていく。


「えっ……、な、なんて……言った……の」


 口が、上手く開かない。言葉が上手く出ない。思考が、まとまらない。


「気持ち悪いって、言ったの」

「な、何で。花……そう言うの、好きじゃない……の?」

「好き? 嘘でしょ。気持ち悪いに決まってるじゃん」


 冷たく、嫌悪感を隠す事なく示す花。

 彼女は、私の知っている姿とは、随分……かけ離れていた。


「だっ、だって、花この前の映画で、良いとか言ってたじゃん」


 席から立ち上がる私。椅子が倒れる音が教室内に、虚しく響いた。


「映画……? あぁ夏休みの時の?」

「そう。あの時、良いなとか、言ってたじゃん!」

「やだなぁ、それはフィクション、作り話の場合じゃん。現実でそんな人がいたら気持ち悪いに決まってるよ」

「そ、そんな……」

「ねぇ嘘だよね、血のつながった兄妹を好きになるなんて、冗談に決まっているよね」

「……花、そこまでにしとけ」

「兄妹で恋に落ちるなんて、そんなの」


「ありえないもの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です くぅ〜これですこれ!w ゲイカップルモノもそうですが、やっぱり第三者に対してのCOシーンがクるんですよ。近親愛系大好きなんですがやっぱこの「は?キモ…」っていうどうしようも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ