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7話 始まり(視点:四条結)

今回は、愛梨陽の部活仲間である四条結視点となります。

また今回の話は前半は物語が始まる一年前、後半は5話の後の話となっています。

 春は始まりの季節と言われている。

 でも全ての人達が、始まりを向かえる訳じゃない。変わらぬ、前と同じ生活を送る人達もいる。

 けど、少なくとも私、四条結(しじょうゆい)にとって、あのときの春は人生の始まりと言えるものだった。


ーーーーーーー


 帰りのホームルームで、とある冊子が配られた。

 タイトルは部活動生活、安直だ。

 薄く安っペラい紙を使っているだろうその冊子を、受け取って早々私はその冊子をペラペラとめくった。中はタイトルから察せられる通り部活動の紹介である。

 バレー部やバスケ部などの運動部から、科学部や美術部などの文化部まで、多くの部活がそこにはある。

 当然ながらそれぞれの部活を紹介する内容も違う。運動部ならそれぞれの種目のルール、文化部ならそれぞれの部活の活動内容など。

 けど、どの部活も最後の紹介文には決まってこう書かれている。


『部員皆仲がよい楽しい部活です。私達と一緒に充実した高校生活を送っていこう!』


 そして文末に添えられている、部員全員で撮ったであろう集合写真。どの部活の集合写真も、みんな判子を押されたように笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔。そうじゃないと死んでしまうかのように、同じような笑顔。

 それが分かった時には、私は冊子を閉じていた。

 冊子が、クラスの皆に渡ったの確認した後、教卓に立つ先生は部活の体験入部を説明し始める。


 高校1年の私達にとっては、今後の高校生活が決まる大事な選択、その説明を私は配られた冊子を弄りながら聞くのだった。


ーーーーーーー


「ねぇ、どうするよ部活」

「どうするって加藤は決めてるの」

「私?決めてないからこうして聞いてるじゃない」


 放課後、窓側の教室隅で、私と友達二人は先程の先生の話でもあった体験入部について話し合っていた。

 といっても、私はその会話にあまり乗り気じゃない。だから主に友達二人が話し合っていた。


「決めてないって、何かあるんじゃないの」

「う~ん、本当にないんだよね。美崎はさどうするの」

「私?そうね……バスケ部とかいいじゃない」

「バスケ部?美崎バスケに興味なんかあったっけ?」

「違う違う、女子バスケじゃなくて、男子の方。マネージャー」

「マネージャー!?あぁけど、そうかマネージャーという手もあるのか……四条はもう決めた?」


 友達の一人である加藤が私に尋ねてくる。それにつられるようにして、美崎もまた私の方を向く。二人とも気になるのだ、高校生活を決める部活をどこにするのか。

 そして、私には二人の知りたいという欲求に答えられる解を既に出している。

 私は、小さな、それこそ聞いてる人が不快にならない程度のため息をついた。


「帰宅部」

「ん?きた……何て言った?」

「帰宅部だよ帰宅部。つまりは部活に入らないってこと」


 あっけらかんにいう私。けど、二人は違う。二人は暫し、口をつぐんでいたかと思うと、突然大声を出し始めた。


「はぁっ!?四条、あんたは何考えてんのよ」

「帰宅部って、それ本気で言ってるの!?」

「ちょっ、うるさいから。目立ってるじゃん」


 実際、加藤と美崎の大声に、教室内に残って友達と、私たちと同じように部活の相談をしていた皆が、こちらを向いていた。

 何があった、というような野次馬の視線を送って。

 それを部屋内を見渡して確認した加藤と美崎は、先程とは対照的に小声で話しかけてきた。


「けど、帰宅部って本気?高校生活を棒に振るつもり?」

「帰宅部だからって、高校生活が灰色になるとは限らないと思うけど」

「でも、何で帰宅部?中学と同じテニス部に入ればいいじゃない」

 

 美崎が、抱くであろう疑問を尋ねてくる。中学と同じ部活に高校でも入る。それは部活に入る上で立派な理由に違いない。

 けど、高校生になった私は違う。

 私は窓に寄りかかると空を見上げた。少し赤色に染まった空を。


「なんかね、静かに過ごしたい気分なの」

「静かに?」

「そう、静かに。何事もなく、何の憂いもなく過ごしてみたいそんな気分なの」


 実際、その時の私はそんな気分だった。中学では部活に時間の大半を捧げ、家に帰ったら弟や妹達の遊びに付き合う日々だったから。だからこそ、忙しくイベントばかりの中学校を卒業した今、高校では静かに過ごしたかった。少なくとも()()()()

 そんな私の願望を二人は聞いてくれた。中学での私を知っている二人は、私の境遇を分かってくれたのだ。

 

 その後、二人はそれぞれバスケ部と卓球部に入った。両方とも運動部ということもあり、放課後は部活である。

 だからこそ、高校1年の私の放課後は、中学の頃とは違い何事にも干渉されない自由となった。


 そんな自由で静寂な時間を、私は過ごしていく。


 と、大げさに言ったけれども、高校になって手に入れたこの時間を有意義に使う方法を私は知らなかった。

 静かに過ごしたいという思いから、部活に入らなかったのに、余った時間をカラオケやゲーセンに費やすのも、矛盾というもの。

 そんな静かな場所に縁がなかった私には、1つしか思い至らなかった。


 体験入部が本格的に始まった日の放課後、私は街の図書館に来ていた。

 といっても、先程言ったように、静かだからという理由だけで私は図書館に来ただけであり、読書なんてしたことがほとんどない。

 だから、図書館に来た私は、どの本がどこの棚にあるか。またそもそも何の本を読めばいいのか分からなかった。


 私は図書館内を、迷子の子供のようにキョロキョロと辺りを見渡しながら歩き回る。そんなおり、とあるコーナーが目に入った。

 そのコーナーは話題の映画・ドラマコーナーというもので、小さなポップが点々と本棚に飾られている。

 近づいてよく見てみると、それらのポップにはドラマや映画となった作品の原作となる小説を紹介していた。中にはその時私が見ていたドラマも含まれている。

 

 あのドラマ、原作あったんだ。そんな思いと共に、私はポップ近くにあった本を手に取る。

 分厚い。教科書よりも何倍も。パラパラとページをめくる。半ば予想していたことだけど、漫画のように絵はなく、字が一面にびっしりと埋め尽くされていた。それを見て、私は眉をひそめる。

 そこにあるは、国語の教科書よりも重く、例えるなら訳の分からない数式が並ぶ数学の教科書のような重さだった。

 私は手に取った本を閉ざすと、元の本棚へ戻そうとする。読めはしないと思ったから。けど、そこで思い出す、ここに来た理由。


 静かに過ごしたい。その思いでここに来た。なら、本を読まずして何をするのと。

 自習室で勉強?だが、それはガリ勉君がすること。私には相応しくない。

 なら、やはり本を読むしかない。静かに過ごしたいという今の私の願望を叶える為には。私は手に取った本を戻すのを止め、渋々ながらも近くにあった読書コーナーへと向かった。


 それから数週間が経った。

 最初は、躊躇った一般小説も今は、躊躇いなく読めるようにはなった。

 その頃私がよく読んでいたのは、既に見たことがあるドラマや映画の原作ばかりであり、大まかに話を知っているからこそすらすらと読める。また、知っている話だとしても、ドラマや映画は映像という制約がある分、小説とは異なっている描写などが多くあり、その差異を楽しめることも出来た。

 と、幾分か読書を楽しめるようになった私だけど、まだ読書自体を楽しめるようになった訳じゃない。実際、一度もその作品に触れた事がない本を読んだときは、話にのめり込むことが出来ず、早々に断念した。


 そんな訳で、片寄った読書をしていた私だけど、その頃、学校では既に体験入部の期間が終わっていた。新入生だった1年生は正式に部活の部員として、放課後部活の先輩達と共に活動している。

 一方帰宅部の私と言えば、一人で図書館に通いつめる日々。寂しくはなかった。だって私が望んだ道だから。

 

 そんな毎日続いていたある日、私はふと学校を探検してみようと思った。そう、本当にふと唐突に。

 体験入部という期間を早々見限り、帰宅部という部活を選んだ私は、部活巡りという名の学校探検をしていない。

 移動授業で、ある程度クラス以外の部屋を知っているとはいえ、全てを知っているわけじゃない。特に北側にある第三校舎には、私はほとんど立ち入った事がない。そこには理系向けのと、使い道がない空き部屋があるということしか知らない。

 だから、第一、第二校舎を先に探検することとし、第三校舎は最後にした。楽しみは最後まで取っておくというのが、私の性格でもあったから。


 第一校舎は保健室や進路相談室、職員室と言った、重要な機能を持った部屋があり、第二校舎は主にクラスの教室があった。


 そして最後に私は第三校舎へと足を踏み入れる。けど、そこは、第一や第二とは違う異質な空間だった。

 静寂が校舎内に充満し、コンクリートの床からの冷気が場を侵食する。そこには何か、見放されたような、終末にも似た佇まいがあった。


 一歩一歩歩く度、自身の足跡が校舎内に反響する。そこには静けさがあった、私自身が望んだものが。そして、それ以上のものが。

 その静けさは寧ろ私の心に恐怖心を植え付ける。まるで好奇心からいつも通いなれた通学路とは違う道を歩いた結果、全く知らない場所へと来てしまい不安に怯える小学生のような、そんな気分。

 けど、私は小学生じゃない。立派な高校生だ。だからこそ、私は探検を続行する。

 目につく部屋を、廊下から私は覗いていく。どんな部屋なんだろう、何があるんだろう。そんな思いで。


 そうして一階から順に見ていき私は最上階である三階へとやって来た。ここまでの部屋は噂通り、理系向けの化学室や実験室、もしくは様々な小道具やロッカーや机が所狭しと入っている荷物室であり、人っ子一人いなかった。

 私が入学した真中高校は南から第一、第二、第三校舎とあるけど、第二と第三の校舎は距離が近いため、第二校舎が壁となり第三校舎はあまり日の光が入らない。それが静けさの理由の1つでもあった。

 けどそんな第三校舎の中でも三階は違う。高いからか、三階は日の光が満ちていた。そこにあるは一階や二階のような寂れた雰囲気ではなく、心が安らぐような心地よさ。

 

 静寂と暖かさが混在している第三校舎三階。そこでも私は部屋を覗いていく。

 こんな暖かな場所でも、無人なんだなぁと呑気に部屋を覗いていった私、だからこそ衝撃だった。だって、今まで無人の部屋を覗いていった時に、流れをぶった切るように人がいる部屋を目にしたんだから。


 とある部屋、窓から差し込む光を背に、少女は椅子に座り、本を読んでいた。

 けど、そこには音の気配はない、全くの無音。でも写真なんかじゃない。そこには確かに空間と時間がある。そこに佇む彼女がいる。

 豊かな、長い黒髪に、石膏像のようななめらかな肌と端整な顔立ち。そして脆さよりも美を感じさせる細い指が、本のページを捲っていく。

 一枚、また一枚と。まるで、長針がきっかり60秒毎に針を進めるように、同じ間隔でページを捲っていく。


 そんな彼女は、人間というよりも、一種の妖精のように思えた。

 陽の光が届かない深く暗い森の中にある、木々のない開けた場所。その中央、光の下に佇む、汚れなき神秘の存在。


 そこにあるは、喧騒とは無縁の、静寂である。けど、決して冷たくはなかった。そこには熱があった、暖かみがあった。

 私の望むものがそこにはあった。私が望む静寂を体現している人物がそこにはいた。

 

 春から初夏へと移り変わろうとしている時期、私は愛梨陽と出会った。


ーーーーーーー


 それから約一年後。

 高校二年生になった私は、学校が終わった放課後、第三校舎三階にある部屋で、本を読んでいた。

 そんな私の前には二つの机をくっつけ簡易のテーブルがあり、そこには2Lのジュースとそれを注いだ二つの紙コップと二つのスマホが置いてある。

 一組は私のだ。けど、もう一組は違う。もう一組のは私の対面に座る人物のもの。

 

 毎回同じ速度で、音を絶てずページをめくる彼女。姿勢を伸ばし、私よりずっと本を読む姿が様になる彼女。皆が一目置く彼女。

 私と同じ読書部員である彼女、愛梨陽のものである。

 彼女と私の間には基本会話がない。あったとしても、部活の始まりか終わりの時ぐらい。静寂の中で本を読む。それが私の所属する読書部であり、そこが私の気に入る所でもあった。

 高校二年になった今、一年生の頃のような静寂に対する憧れは消えていた。それでも一日のうち静かに過ごす時間を設けるというのは、私自身のガス抜きのようなものとなっている。

 

 口を開くことなく、音を拾うことなく、読書をし、話を楽しむ、情緒を楽しむ。 

 私はこの時間が好きだった。他のものに気を取られる必要がないから。心を安らげることが出来るから。

 けど、その日は少し違っていた。その日、私は本以外の事に気を取られていた。だから、時間が長く感じる。いつもより何倍も長く。

 だからこそ、時計の針を見つめ部活終了の時刻となったのを確認した瞬間、餌を我慢された子犬のように、私は声を出した。


「何かあった」


 本を閉じ、疑問符をつけず、私は尋ねる。

 一方、彼女はまだ本を閉じていなかった。


「何かって?」

 

 いつも通りの柔らかな声音で彼女、陽は読んでいた本を閉じる。一見すると変わったところなんて無いように見える彼女。でも、そんな彼女に避けることない瞳を私は向ける。

 

「ページを捲る手つきが拙い。ジュースをそれほど飲んでない。髪を掻き分けすぎ。いつもはそんな風じゃない。何かあったんでしょ」

「いや、そんなこと……」


 私から陽は瞳を逸らす。日が落ち始め、暗くなり始めている今、彼女の表情はより憂いているように見えた。

 私はため息をつく。やっぱりかと。半ば想像していたけど、陽が言うのを躊躇うのはいつもあの事だ。


「また、川瀬がらみ?」


 川瀬、その名前を出したとき、僅かに陽の頬が紅潮する。夕日のせいじゃない、きっと。


「違う。広……がらみじゃない」

「またまた、否定して。川瀬がらみだと分かっているんだからね。伊達に一年、あんたと同じ部活にいる私を嘗めないでよ」

「それは……」


 私が指摘しても、それでも陽は口をつぐむ。彼女はいつもこうだ。あの男の事となると口下手になる。


「はぁ、全く川瀬のどこが良いんだが」


 私は体重を椅子の背にかける。その為、椅子が後ろへと音をたて傾いた。


「廊下で、たまに見かけるけどさ。川瀬って何か地味よりの普通じゃん。良くも悪くも目立たない。それこそ廊下が混んでたら周りに溶け込むような、そんな男子じゃん」

「そんなことない、広はかっこいいもんっ」


 先程とはうってかわり、溌剌とした声。そして今度は僅か所かはっきりと分かるほどに、陽の頬は紅くなっていた。そんな彼女を見て、女である私でも思わずにはいられない、可愛いなと。


 陽は、女の私から見ても綺麗と思える人物だ。それこそ、始めて会ったときは、彼女を妖精の類と重ねたほど。

 そんな、彼女が何故、川瀬などという冴えない男子の事が好きなのか私には理解できなかった。

 幼馴染という繋がりがあるからなのかなとも思ったけど、それだと高城の方にいくはず。そもそも、何故イケメンの高城ではなく、川瀬なのか。

 そして、その川瀬に、何故そこまで惚れ込んでいるのか、彼らとクラスが違う私は分からない。

 

 最初、あまり人付き合いをしない陽はそんな俗世の恋愛事など、興味がないかと思った。だって男にモテている彼女が恋人を作らない理由はそれくらいしか思い付かなかったから。

 だからこそ、その理由が既に好きな人がいるから、ましてその相手が川瀬だと知ったときは私は驚いたものである。

 

 陽はどうして川瀬なのか、その理由を話してはくれないけど、こんな風に口を滑らすことがままある。その度に、こんなに彼女に思われて、川瀬は何て幸せなのだろうと思うのだ。

 

 けど、同時に陽のことも、こうも思う。何て優柔不断なのだろうと。

 陽は普段は優柔不断のほうじゃない。だって陽が入る前、読書部は事実上廃部の状態だった。前までいた3年が卒業した事で部員が0人になったからだ。それを陽が先生に頼み込んで読書部を受け継ぐという形で存続させた。

 だから、体験入部の説明の際、配られた部活を紹介する冊子に読書部という項目がなかった。だってまだその頃、読書部に陽が入っておらず、廃部状態だったから。その一連の流れを私は読書部に入部した後、陽から聞いた。


 それだけの事をする活発さが陽にはあるのだ。そんな彼女が少なくとも私が知った半年前からずっと、自身の思いを川瀬に告げずにいる。

 恋愛ドラマさながらの引っ張り展開。恋をするというのはそんなにも、人を動けなくさせるものなのか。

 恋をしたことがない私には分からないし、そんな恋をしたいとは思えない。

 

 だからこそ、私は躊躇いなく、行動が出来る。


 私は恥ずかしがっている陽を尻目に、テーブル上にある彼女のスマホを、彼女の了承なしに手に取った。

 そして、彼女がその事で、何かを言う前に素早く画面のロックを外す。少し前に彼女のスマホ画面を不意に除いてしまった際、ロックを外すところを見てしまっていたから。

 だが、当然こんな勝手な私の行動を、彼女が黙って見ているはずがない。


「ちょっと、結っ、何してるの」

 

 先程まで恥ずかしがっていた陽は立ち上がると、テーブルに手をつけ、もう片方の手を私に向かい伸ばす。しかし、それを私はスマホを弄りながら、床を蹴り座っている椅子を後ろへと移動させてかわす。

 これで彼女は私に手が届かない。その間にも私は要件を済ますために、手を動かし続ける。

 最終的に、彼女はテーブルを回り込んで、私の前に立つと、私の手から自身のスマホを取り返した。


「結、いきなり人のスマホを取るのは、流石に私でも許せないよ」

「いいよ別に。もっとも許す、許さないはスマホを見てから決めた方がいいけどね」


 肩をすくめながら私は陽の手にあるスマホを指差す。そんな私の言葉を受けた彼女は、私からスマホへと視線を向けた。


「え、ライン?」

「そ、ラインのトーク画面。それも川瀬の」

「しかも、これって……」

「『今週の土曜日暇だから、一緒にヤオンの買い物に付き合ってくれない?』って送っといたよ。陽が行動起こさないからさ、私が代わりにね」

「ちょっと結、それはいくらなんでも急だよ。大体私こんな誘い方しないよ」

「良いじゃん、良いじゃん。送ってきたのが陽じゃないってどうせ分かりはしないよ」

「でも、そんな、急に誘ったら……」

 

 案の定、彼女は言葉を濁した。彼女は恋愛関係ではいつも行動しない。だから、私が行動させるのだ。

 そんなおり、彼女のスマホが震える。返信が来たのだ。案外早いな、そう思いつつ私は尋ねる。


「川瀬から?」

「うん、広……から」

「返信どうだった?」

「それが、その……良いよ……だって」


 そう言うと、陽は持っていたスマホで顔を隠す。照れているのだ。

 そんな彼女を見てると、やはり私としては応援したくなる。

 恋愛事に奥手な彼女を、サポートする。少なくともそれが、今の私がしたい事だった。

次は、1~3話の主役であった川瀬広視点となります。

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