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59話 残るもの(視点:川瀬広・高城見治)

今回の話は前回58話の放課後の話となります。

前半が広、後半が見治視点となります。

 放課後のホームルームが終わり、僕らは、各々の場所へと移動していく。ある者は部活に、ある者は校外へ。

 帰宅部の僕は、後者のグループだ。鞄に教科書をつめ、いつもと同じ通りに席を立つ。

 そんな時、前の席から声がかかった。


「広、一緒に帰えろうぜ」


 そう言って、見治は鞄を手にする。別にどうってことはない、平凡な日常。だが、僕としてはこの時の彼に思う所があった。


「見治、部活出なくていいの。流石にそろそろ出ないと不味いんじゃないのか」

「明日から出るようにするよ」

「明日からって」

「なっ、今日で最後だから頼むよ」


 そう言って彼は、ワザとらしい態度で手を合わせ頼み込む。ふざけているのかと、最初は思った。

 けど、見治の目を見たとき、ワザとらしい態度とは裏腹に、真剣なものが見て取れた。そして、そんな彼の目が、僕の考えを改めさせた。


「……いいよ、じゃあ一緒に帰ろうか」

「よっしゃ、じゃあ早く帰ろうぜ」


 そう言って、彼は廊下へ出ると、変わらず席にいる僕に向かい、手招きしてくる。

 全く、調子が良いんだから。そう思いながら、僕は彼のもとへ歩いていった。


ーーーーーーー


 ここ一ヶ月、正確に言うなら陽が倒れてから、見治は僕と帰らなくなった。ここ最近、見治は部活動を休みがちだったわけだから、暇はあった筈なのだけど、そんな彼は放課後になったら、ふらっと消えていることが多かった。

 僕もここ最近は陽の事を気にしていたから、見治の変化に構ってはいられなかったけど、それでも気になることには変わりない。

 そして今回の機会は、その事を聞くのに都合が良かった。

 通勤用の自転車を引きながら、校門を出て僕等はしばらく歩く。そして、まわりに他の生徒が見当たらなくなった頃、僕は口を開いた。


「見治、陽と何かあったの」

「何かって」

「いや、陽が倒れてから、見治の様子がおかしかったからさ」

「あぁそのこと」


 隣に歩く見治は、頬をかじる。暫くそうしていた後、彼は口を開いた。


「いや、何でもないよ。ただ会い難かった。それだけさ」

「会い難いって、何か陽に借りでもあったの」

「まぁ、そんなところ。俺のせいで入院する羽目になった訳だし」


 サラッと彼は言う、僕の知らない話を。そして、それを流せるほど、僕は楽観的では無かった。


「えっ? 俺のせいで入院って……何やったの見治」

「陽に広のことが好きなんだろと、問い詰めた」

「問い詰めたって…」


 確か陽が倒れたのは、僕が彼女の家に遊びに誘われた翌日だ。そしてその朝に、僕は見治に彼女の件を伝えている。

 となると、その後、見治は陽と話して恋心について、彼の言う所なら問い詰めた、ということになる。

 でも……それは……。


「どうして、見治は陽に対して、そんなに拘るの」


 僕は質問を口にする。でも、同時に少し彼を責めたような言い方になってしまったのを、後悔した。実際、その言葉を受けた見治は、直ぐには答えなかった。


「……ただ、じれったくなっただけだよ。何年も見てたから、分かっていたから……だが、言うべきではなかった。誰だって秘密はある」


 秘密、その言葉が今の僕には、重く感じられた。陽だって持っていたし、僕だって持っていた。誰だって……秘密を明かされるのは嫌だ。そして、きっと、秘密を明かしてしまった側も。

 僕は、彼女を思い出す。癖っ毛で、小顔で、快活さを示すかのように溌剌とした声で振る舞う彼女。そして、夜のベンチでうなだれる彼女の姿を。


「お見舞いに行かなくなったのは、罪悪感から?」


 彼女の事を思い出しながら、先程とは違い柔らかな声を僕は出した。それを、見治がどう受け取ったかは分からない。けど、少なくとも、今回は先程より早く見治は返答した。


「それもある」


 それも?


 口には出さず、僕は思う。けど、それを言葉へと変換する前に、見治は再度口を開いた。


「たが、行ってよかった。陽と久しぶりに話せたし、それに……彼女の状況もしれたから」


 そこで、僕は見治が昨日陽のお見舞いに行ってくれたことを知る。そして、それと共に僕は先程と別の人物を思い起こす。

 病院の一室。入院着のまま学校の時と変わらず本を読む彼女の姿を。


「……強いね、陽は」


 気づいたら、僕はそう呟いていた。そして、僕の言葉に隣の見治は首肯した。


「あぁ、強い。俺よりずっと」

「見治?」


 言葉の内容もさることながら、彼が悲壮と羨望が混ざったような声を出したのが気になった。

 けど、それを聞こうとした時、見治は隣にいる僕とは反対の方へ顔を向けた。


「懐かしいな」


 流れを切るかのように、見治は言葉を吐く。それにつられ僕も顔の向きを変える。僕らの視線の先には公園があった。

 

「よく遊んだね」


 僕は口を開く。

 その公園は、幼い頃の僕らの遊び場だった。見治と陽……それに添と。笑い合って過ごした。今となっては良き思い出だ。

 最近も、ここで見治と遊んだっけ、僕は思い起こす。そんな時、彼が口を開いた。


「ちょっと遊んでいこうぜ」


 そう言って、見治は進路を90度曲げると、公園へと向かっていく。そんな、唐突とも言える見治の行動に、僕は思わず声を出した。


「遊んでいこうぜって、今?」

「今、どうせ帰ったって何もする事はないんだろ」

「サッカー部のエースが言うことかよ」

「いいじゃないか、最後くらい、な」


 そう言って見治は振り返って笑みを向けてくる。普通なら、そんな彼の行動に諦めて従うんだろう。僕だってそうだ。だけど、見治の言った()()という言葉が、僕は漠然と引っ掛かった。


ーーーーーーー


 公園に人はいなかった。

 まだ日が暮れていないから、小学生ぐらいいそうなものだけど……時代なのかなと、高校生の僕は大人ぶってそう思った。

 もう一方の高校生はと言えば……


「あれーねぇなー」


 そう言って、公園内の生け垣に手を突っ込んでいた。


「ないって、そう都合よくあるわけ無いでしょ」


 思わず、口が悪くなる。そんな僕に一瞥をくれずに、高校生で学業優秀である筈の見治は、生け垣を掻き分け続けていた。


「いやいや、良くあるんだってこういった所に、迷い込んだ野球ボールがさ」

「そう言うもんかなぁ」

「信じてねぇだろ。見てろよ、さっさと見つけて……、おっ、あったぞ」

「本当に?」

「ほら、見ろよこれ」


 そう言って見治が握っていたのは、野球ボールではなく、ソフトボールだった。


「野球ボールじゃないじゃん」

「いいだろ、別に。野球ボールもソフトボールもサッカーボールも、同じボールだ」

「いや、それはどうかと思うけど」

「遊び道具って括りなら一緒、さ」


 そう言って、彼は見つけたソフトボールをこっちに投げてきた。球の速度は速くはなく、その為咄嗟にも関わらず僕はキャッチする事ができた。

 

「キャッチボール? 久しぶり……でもないか」


 僕は受け取ったソフトボールを返す。野球ボールでもなく、ミットもない今、それほどスピードは出せない。でも、僕らが遊ぶには十分だった。


「夏休みぶりだな」


 見治が受け取ったソフトボールを返してくる。それを僕は難なく受け取った。


「あの時とは、状況は違うけどね」


 僕はボールを返す。


「まぁな、あれから色々あったもんな」


 見治もボールを返す。

 

「あれから……うん、本当に色々あった」


 僕は受け取ったボールを投げ返す。それを見治は訳なくキャッチした。


 本当に、それこそ夏休み前は想像出来なかった、四条さんや陽、添の事。

 そして……。


「好きだ」


 見治の事。

 彼が言葉を吐いていた。

 そして、同じく気がついたら僕は彼から投げ返されてきたであろうボールをその手に捕えていた。


 僕は手にしているソフトボールを見る。真っ白ではない、所々茶色く汚れているボール。買われてからどれほどの月日が経ったんだろう。どれほど……持ち主に気づかれず放置されていたんだろう。


『僕は……一人じゃない』

『そう、一人じゃない』


 思い出すのは、夏休みでのやり取り。一人じゃない……僕はその言葉を、あの時とは別の意味で理解する。

 だからこそ……僕は口を開いた。


「僕は妹が好きなんだよ」

「分かってる」


 僕は手にしているボールから顔を上げる。見治は、隠れもせず立っていた。彼の顔を見て僕は察する。

 ここ最近、色んな事があった。そしてそれらの事があったからこそ、今の僕には、答えるべき言葉を持っていた。


「ごめん、見治の思いには答えられない」


 僕はボールを返す。

 投げたボールは、さっきよりもずっと、ゆっくりで、山なりの弾道を描く。でも、時間にしたらきっと、さほど変わらなかったに違いない。僕の投げたボールは、見治の手へと落ちた。

 見治は、直ぐには投げ返してこなかった。彼は手にあるボールへと目を落とす。


「……そっか」


 彼の呟きは、僕にも聞こえた。そして、そんな彼の言葉を聞いた後、僕は口を開いていた。


「ありがとう」


 出た言葉は、この場に相応しくないものだ。だからこそ、そんな僕の言葉を受けた見治が顔を上げた。


「何で、感謝の言葉がここで出るんだよ」


 誤魔化すかのように、彼は唇を緩める。だが、彼の瞳は細く、今にも閉じられそうだった。

 僕は、そんな見治に目を合わせる。じっと、これからの思いを伝えるために、僕は口を開いた。


「見治が居てくれたから、僕は、僕を見失わずにすんだ。きっと、誰かが一緒に居てくれなかったら、僕は駄目になってた。そして、それは多分、陽だけじゃ駄目だったんだ。見治がいて、一緒に遊んだり、駄弁ったりしてくれたから……君がいたから僕は僕でいることが出来た。だから、ありがとう」


 僕は、先程まで手にしていたソフトボールを思い出す。きっとあれは……僕の可能性の一つ。汚れて、誰にも見向きもされない未来。

 でも、今は違う。みんながいたから、見治がいたから。

 だから……ありがとうって言いたかった。

 見治の、目が大きく開かれる。そして、彼はため息をついた。

 

「多分……か」

「見治……」


 見治は、手に持っている汚れたソフトボールに再度目を落とす。そして、顔を上げた時、彼は持っているそのボールを投げた。


「当たり前だろ、見てて危なかっしいからな、お前は」


 彼の言葉と共にボールが僕の掌に入る。ずっしりとそれは重く、暖かかった。


「何だよ、ずっとそう思ってたのかよ」


 笑いながら、僕はボールを投げ返す。それをさも簡単に、片手で彼はキャッチした。


「まぁな、もっともお前さんは鈍感だから気づかなかったんだろうが」

「ごもっとも、どうせ僕は鈍感ですよ」


 その後も、僕らはキャッチボールを続けた。言葉数はそんなに多くはなく、寧ろ無言の時間の方が長かった。

 でも、息苦しさはなかった。寧ろ今までよりずっと、自由に感じた、クリアに物事が見える気がした。そして、なによりも……楽しかった、本当に、心から……そう感じた。

 

 日が暮れ、外灯がつき始めた頃、僕らのキャッチボールは終わる。その合図を告げるかのように見治が最後の一球を投げた。

 彼の投げた最後の球はこれまでよりずっと速かった。けど、取れない気がしなかった。音をたてボールが僕の手に収まる。

 そして、それを見て見治が口を開いた。


「ありがとうな、広。一緒にいてくれて」


 ……これから僕らの関係は変わるかもしれない。でも、僕には、彼とずっと一緒にいられる気がした。

 だって、この時の見治は、思わず僕も笑いたくなるくらいの、元気いっぱいの、笑顔だったから。


△ーーーーーーー△


 この思いがどうなるか分からない。変わるのか、それとも変わらずに残り続けるのか。

 でも、これだけは分かる。きっと、俺は今日の事を後悔しない。そして、彼と一緒にいたいという思いは消えずに残り続ける。それだけは……ハッキリと分かった。

(高城見治視点:完)


幼馴染で、同性の、男友達を好きになった見治。彼の物語は今回で、最終回となります。

同性愛が絡んだ都合上、彼が一番現実味があったのではないかと思います。現実の社会がこのまま同性愛を認める方向に動くのかは分かりませんが、彼の恋について少しでも感じる所があったのなら幸いです。

彼も陽や結と同様に、他視点でこれからも登場しますのでご期待下さい。

次は別視点となります。宜しくお願いいたします。

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