表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/72

56話 教えてくれ(視点:高城見治)

久しぶりの見治視点です。

なお時系列は、55話の次の日となっております。

 分からない。

 もう……何を思ってたのか、何を……したら良いのか。

 もう……何も考えたくなかった。


ーーーーーーー


 歓声が聞こえる。

 眼下に広がるは、学校のグランド。そこには大勢の人々がいた。トラックを走る人もいれば、ボールを追いかける人。各々声をあげ、グランドを駆け巡る。

 そんな人々を俺は見下ろす。学校の屋上から、フェンスに腕をかけながら、パンを片手にして。


 今屋上には、俺一人。他には誰もいない。晴天の青空の下、ここは別世界みたいに静かで……物寂しい。

 だから、人が入って来たとき、俺は直ぐに気がついた。


「珍しいな、お前が来るなんて」

「それは、僕のセリフだよ」


 屋上にやって来たのは広だった。

 広は俺の言葉を返しつつ、近づいてくると、俺の隣へと陣取った。


「良いのか、ここは立入禁止だぞ」

「それを言うなら、見治の方だよ。優等生の癖してこんな所にいて良いのかよ」

「ハハッ、優等生……か」


 自虐的な声を、俺は出す。そして、そんな俺の発言に、隣にいる広は目を細めた。


「違うの」

「違うさ。そうじゃなきゃここにいない」


 俺は再度眼下にある、グランドに目をやる。そこには、陸上部に混じり、サッカー部が昼連をしている光景が広がっていた。

 

「部活をサボってる奴が優等生だなんて、笑わせる」

「……何かあったの見治。最近部活に顔を出してないみたいだし、それに、授業もなんだか上の空だしさ」

「それを言うなら、広もだろ。何で今更俺を気にしてんだ。ここ最近陽の事ばかり気にしてた癖に」


 彼女の名を言った瞬間、口に苦味が広がる。

 あの光景が……彼女の倒れた瞬間がフラッシュバックする。


「くそっ」


 広に向けたものではない、言葉を吐き捨てた俺は、髪を掻きむしる。だが、そんなもんで消える訳ではない。

 それが分かっていたのに……止められない。髪を掻きむしり続ける俺。そして、そんな俺を広は、心配そうに見つめていた。


「……本当に何かあったの見治。陽の見舞いにも行ってないそうだしさ」

「……広はあれからよく行っているのか」

「うん、毎日じゃないけど、陽の見舞いはよく行ってるよ。昨日だってお見舞いにいって、そこで見治の話が出てね」

「……そうか」


 俺は髪を掻きむしる手を止める。

 そして、俺は口を開くことなく、ただ眼下に広がる光景を目に入れ続けた。

 隣にいる広も、俺を質問づけにするつもりはないのか、同じように眼下に広がるグランドをだまって見つめる。

 二人して、黙ったまま立ち尽くす。けど、気まずくは無かった。ただ……この時の広の気持ちは、俺にはよく分からなかった。

 だから、広が言った言葉が、俺には分からなかった。


「合ってたよ」


 久しぶり、と感じる程長い沈黙の後、広が言葉を口にする。静かに、でも聞こえる声で。

 そんな広の言葉に俺は言葉を返した。


「何が」

「前に見治が言っていたことだよ」

「だから何が」


 少し苛立ちが入った言葉で俺は尋ね返す。

 だが、そんな俺と比べ、広は何処までも……穏やかだった。


「陽に告白された」


 質問に正確に答えているとは言えない言葉。

 だが、それでも、その言葉の意味ぐらいは分かった。だからこそ、広の穏やかさが、より、目立った。


「告白……てっ、陽にか」

「うん、だからさ、見治の話は本当だったんだよ。ゴメンね、間違いとかいって」


 穏やかに、笑う広。

 だが、俺は穏やかではないられない。あのショッピングモールでの件を考えないようにしていたのに、それを蒸し返された上に、その先の話までされるだなんて。

 動揺するな、なんて方が無理な話だ。それが、声に出た。


「そ、それで何て答えたんだよ。受け……たのか」


 心はもう、動転しっぱなしだ。冷静ではいられない。

 ここ最近考えない、無心でいようとしていた。だが、そんな仮初の、平静を奪うかのように、広の言葉は俺の心をかき乱す。


 そんな中、思い浮かんだのは、かつての陽とのやり取り。


『私が広の事を好きって答えたら、どうするつもりだったの』


 あの時の……彼女の言葉。

 だから……広が、彼女の言葉をどう受け取ったか、気になった。


「断ったよ」


 広はあっさりと言わないまでも、溜めることなく、俺の気にしていた答えを口にした。

 そして、それを聞いて俺は……安堵した。溜まっていた息を吐いて、固まっていた顔を緩ませて、一人で安全圏に入って。

 けど……そんな独りよがりな想いは許されなかった。


「好きな人がいるから」


 ……?

 

「何て……言ったんだ」

「? 何って、断ったって」

「その先」

「好きな人がいるから」


 ……?

 やっぱり分からない。


「誰に好きな人がいるって?」

「僕に好きな人がいるって……て、そう言ってるだろ見治」

  

 笑う広。

 でも、俺は……笑えない。とても、笑う気分になんかじゃない。

 ごちゃまぜだ。チャーハンみたいに、様々な想いが混ぜ合っている。

 好きという想いも、隠さなければならないという想いも、幼馴染の存在も、男友達だという建前も、全てが混ぜ合っている。

 ただ、下手に口を開けばボロが出ると、頭の片隅、理性の片隅で感じていた。

 けど、それは理性の場合だ。感情からくる行動は異なっていた。

 

「誰を……好きなんだ」


 俺は絞り出すように、声に出す。広の方を見ず、かと言って眼下のグランドを見る訳でもなく。ここではない、何処か遠くを見ながら俺は口にする。

 ただ、俺の質問の後、広が身じろぎしたのが、フェンスの振動を通して……分かった。


「添」


 彼は口にする。好きな相手を口にする。想定外の相手を口にする。

 頭に浮かぶはとある女の子。あの元気で、でもどこか悩みがちで、奥手で、でも精一杯背伸びしようとしている彼女の姿。

 でも……だけど……彼女は……。


「妹だぞ?」


 俺は口にする。責め立てるような、否定するような声音で。

 だが、そんな風に口をきくつもりは無かった。だから、彼が誤魔化すような笑い声をたてた時、思わず俺は隣にいる彼の顔を見た。


「そうだね、妹だ。僕が好きな相手は」


 彼は笑いながら、そう言う。

 そんな彼を見て、俺は自身のミスを自覚する。だが、弁解するより先に隣にいる彼はフェンスから体を離すと、口を開いた。


「そろそろ休み時間終わるし、先に教室に戻るよ。脱線しちゃったけど、僕が言いたかったのは、見治に陽のお見舞いに行って欲しいって事だけなんだ。じゃないときっと、後悔するから……だから行ってあげて」


 そう言って彼は屋上を後にした。

 残されたのは俺一人。


 広が妹を……好き? 初耳だ……本当にそうなのか。いや……それよりも俺は何て……言った?

 俺は……否定したのか? 広の想いを、彼の普通ではない考えを? 彼の事を好きな俺が?

 いや、違う……否定されるべきだ。そんな……世間から外れた想いなんて。認められる筈がない……なら俺は? 俺は否定されるべきなのか。 俺の想いは出してはいけないのか。

 そうだ、そうに決まってる。だから俺は隠してきた。秘密にしてきた。


 …………本当にそれだけ?


『確かに失うものもあるかもしれない。けどね、素直にならないと手に入らないものもあるんだよ』

『何が手に入るんだよ』

『本当の幸せさ』


 思い出すのはいつかのやり取り。

 本当の幸せ。俺は……幸せと言えるのか。こんな苦しいのに、辛いのに。それなのに……このまま俺は否定し続けるのか。


『……苦しかったから』

『……』

『広のことを……好きな事が』


 思い出すのはいつかのやり取り。

 秘密を打ち明けた時の、あの痛みと苦しみ……それを広も味わっていたのではないのか。それを俺は……あぁなんて事を言ったんだろう。


 走って、今すぐ謝罪すべきか、否定してごめんて。けど、それだと俺の気持ちはどうなる。肯定するのか、俺のこの気持ちも。広への気持ちも……

 いや、それは駄目だ。拒絶される、今の広に対する俺のように。なら、謝らない? 広の気持ちを踏みにじり、そして……本当の幸せとやらを掴めぬまま? そもそも本当の幸せってなんだ、そこには何がある?

 分からない。もう何もかも……。


 俺は……何を……すればいい。何を……決意すればいい。


 誰か………………………………教えてくれ。


 その日、生まれて初めて俺は、授業をサボった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 見治の想い・苦しみが詳細に描かれた点 [一言] 続きを心待ちにしております。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ