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38話 事実(視点:川瀬広)

 覚えてない。あの後どうなったか、どうやって帰って来たのか。

 頭にあるのはあの場面、あの言葉。


「陽はお前が好きだよ」


 それがずっと頭を駆け巡る。けど、僕はその言葉の持つ意味を理解し切れていなかった。さながら、スペックの足りないPCに高負荷をかけたみたいに、フリーズしっぱなしだった。


 それは日が変わった今でも変わらない。朝起きて、朝ごはんを食べている間も、霧がかかったみたいに思考はぼやける。考えが纏まらない。

 そんな状態だから、妹が鞄に白の四角いケースを入れる場面を目にしても、何も思えなかった。


 けど、そんな霧も彼女を前にしたら、一瞬で吹き飛ぶ。彼女は変わらない姿でそこにいた。


「おはよう、広」


 朝日に溶け込む柔らかな声。白く無垢な肌に、慈愛に満ちた表情で彼女、陽が、家の門前に立っていた。無論、毎朝の学校への登校の為に来たのだ。

 けど、僕はと言えば、そんないつもと変わらない、いつも見ている彼女を真正面から受け止めきれなかった。僕は顔を逸らす。自身の顔が赤くなっていくのが分かる。

 ここに来て、あの言葉が持つ意味がありありと分かった。


 陽はお前が好き。それって……つまり。

 分かったら最後、僕はもう陽の顔を見ることは出来そうにない。


 心臓が高鳴る。バクバクとこれまで感じた程がないほどに。彼女に聞こえてしまうのではないかと思うほどに。そんな状況だったから、彼女が動き出した事に僕は気がつかなかった。


「どうしたの広、具合悪いの?」


 彼女はいつの間にか僕に近づいてきていた。そして、言葉と共に僕に顔を近づけてくる。彼女の澄んだ瞳が僕の顔を映してしまうかもと思えるほどに。


「うわっ!」


 僕は叫ぶ。そして、彼女から離れようと飛び下がった。けど、背後に玄関のドアがあったため、十分に下がり切る事など出来なかった。

 ドアにぶつかる僕。ギシッと音が鳴る。そんな僕を心配するかのように前にいる彼女がさらに距離を詰めてきた。


「ねぇ、顔赤いよ。風邪でもひいてるの」


 顔が近い。それこそ接しそうな程に。

 彼女の吐息が聞こえる。

 彼女の長い睫毛が見える。

 彼女の澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。


 彼女の見えていなかった部分が露になる。でも、僕はその場に立ち尽くすほど、強くはなかった。


「な、何でもないよ。それより早く行こう」

「あっ、広」


 ぶっきらぼうにそう言うと、僕は陽の脇をすり抜ける。そして、彼女の言葉を無視し、振り返らず、学校へ向け僕は歩き出した。

 

ーーーーーーー


 自然と早歩きになる。いつもは並んで歩いているのに、今は陽より前方を歩く。


 それもこれも、見治のせいだ。

 陽が僕の事を好きだなんて見治が言ったから。そんな筈がないのに。

 こんな、何の取り柄もない僕を好きになってくれるなんて、しかもそれが陽だって? あり得ない。

 陽なら、きっともっと良い男、それこそ見治のような完璧超人がお似合いだ。

 そうだ、きっと、見治の勘違いだ。学校で言ってやる。そんなわけないって。


 鼓動が和らいでいく。それに伴い歩く速度も遅くなっていく。そうしてやがて、僕は後ろにいた陽の隣に並んだ。


「いきなり歩き出したから驚いたよ。それに大丈夫? 体調悪そうだったけど」

「大丈夫、少し寝不足だっただけだから」

「そうなの。それなら良かった」


 胸に手を当て、安堵する陽。そんな彼女を見て、待たしても鼓動がはやくなる。あの言葉がリフレインする。


 ……違う、あれは間違いだ。本当じゃない。

 頭を振り、追い出そうする僕。そんな僕を隣にいる彼女は不思議そうに見つめていた。


「本当に大丈夫? 具合悪そうだけど」

「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「心配って……そんなこと……」


 彼女の顔が赤くなった……ように見える。きっと、僕の勘違いだ。まだ、あの考えが離れていないんだ。そうに違いない。

 僕がそんな事を考えている最中、顔がまだ赤いように見える陽は、口を開いた。


「なら、心配させた償いはさせてもらわないとね」

「償い?」

「そ、償い」


 そこで、陽は笑った。歯を垣間見せる、大きな笑み。それはあまり彼女らしくなかった。けど、それを不自然とは今の僕は思わなかった。


「放課後空いてる、広」

「空いてる……けど」

「ならよかった。放課後私の家に遊びにこない?」

「陽の家に?」

「うん、私の家。厳密に言えば私の部屋にだけど」


 当たり前のように言う彼女。

 けど、そんな彼女とは違い、僕は少なからず動揺した。まだあの考えを完全に捨てきれていないということもあるけど、それと同じくらいに、陽の部屋に誘われた事自体が驚きだった。

 だって、陽の部屋には、小学生の時以来入っていない。それにあの頃とは違い僕たちは高校生だ。いくら幼馴染とは言え、異性の部屋に入るなんて……いや、二人きりじゃなければ問題ないか。だって、どうせ僕一人じゃないんだろうし。


「良いよ。見治も誘うんだよね」

「ううん、見治は来ないよ」

「……えっ」

「見治は、来ないよ」


 駄目押しのように再度、異質な趣きを伴い言葉を紡ぐ言う彼女。

 聞き間違いじゃ無い。見治は来ないとハッキリ彼女は言った。けど、彼女とは違い僕はすんなり聞き入れる事なんて出来なかった。


「い、いやちょっとまって陽。どうして見治を誘わないのさ。見治がいると不味いことでもあるの」

「不味いことって、ないよ別に」


 彼女は小さく首を振る。先程とは違い、今の言葉は自然な感じだ。だからこそ、前のめり気味で僕も答える。

 

「なら、どうして誘わないのさ」

「誘わないって……だって見治は今日部活でしょ。月曜日だけど、テスト明けだからあるとか、一昨日言ってたよ」

「一昨日……」

「ほら、皆でアウトレットモール行った日に」

「……そうか、そう……だったね。忘れてたよ」

「もう、しっかりしてよ広」


 そこで、彼女は僕の隣から離れる。彼女はかけるように前に出ると、振り返り僕と向き合った。


「だから、今日はお願いね、広」


 笑う陽。先程とは違い、何処か恥ずかしげな笑み、けどそんな笑顔が彼女には似合う。

 似合うからこそ、心にくる。

 彼女の表情と、そしてその内容に。


 彼女は再度歩き出す。けど、僕はそんな彼女の後ろ姿をただ眺めていた。

 今の僕には、彼女の隣に歩くなんて事は出来そうになかった。


ーーーーーーー


 学校にて、僕は見治に、あの言葉の真偽を聞くことは出来なかった。別に都合が悪かったとか機会が無かった訳じゃない。寧ろ席が前後に並んでいる分、聞ける機会は十分すぎる程あった。なのに聞けなかったのは、ひとえに僕の臆病さに他ならない。

 聞けたのは、今日部活があるという事実確認のみ。


 また、見治の方も何も聞いてこなかった。まるで一昨日の事を忘れてくれと言わんばかりに、彼はアウトレットモールの話を一つも出さなかった。

 

 そんな二人だから、会話はぎこちなく、弾まない。互いに線を気にし、踏み越えないように話してたから、僕も、見治も、互いの事を話せない、聞けない。

 結局、僕は見治に陽の家に行く事を言えず、そのまま放課後を迎えた。


 帰りは陽と一緒だった。

 彼女と登校は共にしても、帰り道を共にした事は高校に入って以来殆どない。だからこそ、会話する内容は有りそうなのだけど、そんな僕達の間に会話は無かった。

 

 僕は、朝から続いている気恥ずかしさで。陽の方は……何故だが分からない。朝とは違い、彼女は歩いている間、手を弄ったり、顔を俯かせたりしていた。

 そんな彼女を見ていると余計にあの言葉が思い浮かぶ。余計に彼女のことを意識してしまう。


 互いに別々の方を向き、僕達は歩いていく。いつもとは違う、帰り道。変化、その二文字がどこからか、頭に浮かんだ。


ーーーーーーー


 やがて目的地である陽の家へと辿り着いた。

 隣には僕の家がある。彼女と僕はご近所だ。だから、着替えてくるなり、何か持ってくるなり出来たのだろうけど、制服姿の僕はそうはしなかった。

 何となく、このまま家に上がった方がいい気がしたから。だから、僕は彼女の後についで、彼女の家へと上がった。


「ただいま」

 

 彼女を声を出す。学校の時と比べ幾分か大きく、明るく感じる。そんな彼女の声が届いたのか、廊下に面した部屋から足音が響いた。


「お帰り陽……あら、広ちゃん?」

「こんにちわ。今日は陽に誘われて来ました」


 出てきたのは、陽のお母さんだ。そして、僕は陽のお母さんにご挨拶した。

 陽のお母さんは、陽とは真反対に明るい人だった。それこそ騒がしいぐらいで、幼い頃は見治と共に良くからかわれた。

 だからこそ、そんな陽のお母さんが、黙ったまま、じっと僕の顔を見ていることに、少なからず僕は違和感を感じた。


「……何か顔についてますか?」

「えっ、いやいや何もついてないわよ。今日も変わらず広ちゃんはイケメンよ」

「アハハッ、それはどうも」


 苦笑いを浮かべる僕。この手のからかいは彼女の日常茶飯事だ。変化しない日常の香り。

 けど、そんな香りが、あの頃とは違うように思えたのは、僕の勘違い……なのだろうか。


ーーーーーーー


 陽の部屋は最後に入った頃から少し様変わりしていた。

 目につく変化は、本が増えた事だ。小学生の頃でも十分多かったけど、今は多いという言葉では表わせないほど。それこそ、書庫のように壁一面にびっしりと本棚が置かれていた。

 その光景は圧巻の一言だけど、見た目とは裏腹に部屋の中は、図書室のように本臭くはなかった。

 彼女の部屋に入った時、香って来たのは微かなラベンダーの香りだ。あの頃には無かった香り。それは彼女がもう、子供では無い事の証明のような気がした。


 そう、あの頃とは違う。僕達はもう高校生で、それに……今の僕にはあの頃には無かった思いを抱いている。だからこそ、僕はいつもの僕にはいられなかった。


「それで、どういう用かな。何か僕に話でもある」

 

 変にかしこまってしまった。そして、それは傍目から見ればきっと可笑しかったのだろう。陽が苦笑した。


「そんなに固くならなくて良いよ。ただ、広と遊びたかっただけだから」


 明るい声を出す陽。家に来るまでの姿が嘘のようだ。そして、そんな代わり映えのない、いつもの彼女を目にして、僕もまた、少し気持ちが楽になった。


「いや、久しぶりに陽の部屋に来たから、緊張しちゃって」

「緊張って……ああそんなにジロジロ部屋を見ないでよ。恥ずかしいから」

「いや、少し気になって」

「恥ずかしいものは恥ずかしいの。ちょっと広、かってに本を取らないでよ」

「なになに、最後の楽園カリブ海の奇跡……こっちは地球の息吹、火山噴火……写真集とか結構見るんだね陽」

「最近はね特に……て勝手に見ないでよ広」

「いやぁ気になって、ほんとに。それに減るものでもないからいいでしょ」

「そうだけど……あぁそれは見ちゃ駄目!」


 はしゃぐ僕達二人。何だろう、最初こそ緊張し、ドキドキしたのに、今はそれがない。

 今あるのは心地よさだ。自然で居られる、伸び伸び出来る。見治と一緒にいる時のような気分の良さ。


 その心地よさは更に加速していった。アメリカ土産を彼女と一緒に食べ、その不味さに笑い合い。小学生以来のオセロ対決で、本気に悔しがり、本気に嬉しがり。おすすめ本を聞いて、つい彼女を熱弁させてしまったりと。本当に心地よく、楽しい時間だった。

 見治が来ないことに不安を感じていた僕だけど、それでも、こうして陽と二人で遊ぶ時間も悪くはないと思った。

 

 けど、そんな楽しい時間も、何時までも続かない。帰らなければならないとかそんな理由じゃない。ただ、愚かな僕はやらかしてしまった。


 彼女が勧めた本を取ろうとした時、僕は足をテーブルに引っ掛けてしまった。

 しまった、そう思った時にはもう手遅れだ。

 僕の体はバランスを失い、床へ倒れこむ。彼女を巻き込んで。


「いてて、ごめん陽。怪我はな……い」


 目を明けると同時に僕は口を開く。けど……言葉が上手く出なかった。

 何故って、僕の眼前には彼女がいたから。

 僕は押し倒してしまった、彼女を。僕のミスで。視線が交わる。彼女の瞳に僕の顔が映る。


 頬がほんのり紅くなっている僕の顔を。それが分かるくらい僕らは近かった。それこそ、朝の時よりもずっと近く、密接とも言える距離で。

 心臓は高鳴る。ドクドクと、抑えきらない程に、強く動き、血液を体に巡らす。

 顔が熱い、体が熱い。何もかもが熱い。

 忘れていた言葉が、脳内に再生される。


『陽はお前の事が好きだよ』


 蘇った言葉。そして、それを思い出した時、僕の視線は陽の口元へと向かってしまう。正確に言えば彼女の唇へと。

 男の僕や見治とは違い、艷やかな、端正な唇。そして、彼女の唇に僕は見惚れてしまう。それこそどうしようもないほどに。それこそ、離せない程に。


 そんな、真一文字に閉じられていた彼女の唇が、形を歪めた。


「広、どいてくれない」

「えっ……あっご、ごめん」


 彼女の唇から平坦な声が出る。そしてその言葉に、僕は漸く冷静になる事が出来た。そして、冷静になった僕に突きつけられたのは、客観的事実だ。

 女子の部屋に二人きり。そして、長い間、僕は彼女に覆いかぶさっていた。その事実が今よりもずっと僕の顔を熱くする。

 僕は慌てて、彼女から離れるとそのまま床に、陽から背を向けて座り込んだ。とてもじゃないが陽に顔を合わせる事なんて出来そうになかった。


 後ろから、音が聞こえる。きっと、陽が起き上がったのだろう。音を聞く限り、僕と同じく立ち上がらず、床へと座り込んだようだ。 

 そして、そのまま音は止み、沈黙だけが流れ始めた。それこそ、不自然な程に彼女は口を開かなかった、そしてこの僕も。

 気まずかった。それこそ、これ程までにどうすればいいか分からなかったのは、あの時以来だ。


 添にケーキをぶつけられたとき以来。あの時は、それこそ頭が真っ白になった。

 けど、今はどうだろう。頭は白くなんてなく、こうして思考は働いている。けど……思考してもどうやって陽に接したら良いか分からない。僕は……陽にどう接していたのだろう。


 そんな風にうじうじ悩んでいる時だった、背後にいるであろう彼女が声を出したのは。


「……ねぇ、広。私……何かした」

「……えっ?」


 彼女の声が冷たかった。

 そして、畳み掛けるように彼女は言葉を紡ぎ始めた。


「何か嫌われるような事した? 軽蔑されるような事した? 広……私と一緒にいるの嫌になった?」

「そんなことっ!」


 僕は後ろを振り向く。

 そこには彼女がいた。顔を俯かせている彼女が。

 そして、そんな彼女を目にして、僕の中から言葉が溢れだした。


「そんなこと無い。僕が陽の事を嫌いになる筈がない」

「広……」

「不安にさせてごめん……言うよ陽。今日僕が可笑しかったわけを」


 僕は話した。アウトレットモールにて、見治に陽が僕の事を好きだと言われた事。

 そして、その事が頭から離れず、意識してしまったこと。何もかも全てを。

 

 その間、陽は顔を上げ、僕の話を黙って聞いていた。相槌も打たず、頷きもせず。表情も変えず透明なまま。そうして、僕が話終わった後、彼女は再び顔を俯かせた。

 だから、彼女がどんな思いで話を整理したかは分からない。ただ、少なくとも顔を上げた時、彼女の表情は晴れやかだった。


「そんなわけ無いじゃーん、私が広の事を好きだなんて」

「ええっ! そんなにハッキリ言う!?」

「だってそうでしょ、私と広は幼馴染で、()()なんだから」


 そう言って彼女は笑った。

 その笑顔は、優しくはなかった。ただ、強さがあった。変わらないという事実をハッキリ伝えるかのように。

 そして、それを僕は、否定することなく、受け入れた。


「そうだね、僕と陽は友達だ。だからこそ、さっきまであんなに楽しかったんだ」

「広、笑ってたもんね。部屋に入った時はあんなに、ガチガチだったのに」

「えぇ、そんなに固かった」

「固かったよ、それこそ、下心丸出しの中学生みたいで」

「そんなに。てか、陽案外汚い言葉知ってるよね。学校ではそんな事言わないのに」

「当たり前だよ。友達の前しか見せないよ、こんな姿」

「そうだね、僕も友達の前じゃないとこんなに気楽じゃいられないや」


 ほんとにそう思う。だって、学校では平凡であることを痛感するし、それに……添の前ではこんなに素直な気持ちでいられないから。


ーーーーーーー


 陽と分かり会えて良かった。やっぱり彼女は最高の友達だ。彼女と見治が居なかったら、今よりもっと惨めになったに違いない。

 

 明日の朝、僕と陽が不和になりかけたきっかけを作った見治に、僕は伝えた。直接聞いたけど、やっぱり陽は僕の事が好きじゃなかったみたいだと。

 それを聞いた時、見治は驚いた様子だった。それこそ信じられないと言った感じで。

 けど、最終的に、見治自身で納得のいく答えを見つけたみたいで、『間違っていたみたいでごめんな』と一通りの謝罪を貰えた。

 けど、僕はそんな見治に対して怒りを抱かなかった。だって、きっと見治には、見治なりの考えがあって言ったことなんだろうから。

 それに、一時は気まずかったけど、最終的に陽とはこれまで以上に仲良くなれた。だからこそ、寧ろ僕は見治に感謝した。最も、見治は嫌味を言われたのかと思ったのか苦々しい顔をしていたけど。

 

 こうして、僕と陽、見治は元の関係に戻った。

 思えば、ここ最近はずっと自分の事ばかり考えていた気がする。もっと、余裕を持たなくちゃ。そうしなければ、見えるもんまで見えなくなる。

 ほら、こうして廊下を歩いていても発見がある。あいつ、あの人と仲が良かったんだなぁとか、野球部汗だらけで頑張っているなぁとか、掲示板の内容が秋の物に変わっているなぁとか、清掃道具の入ったロッカーの位置が変わっているなぁとか。

 見渡せば、幾らでも発見はあった。

 

 ほらそこにも、教師と生徒が話してる。それも、仲が良さげに、笑いあって。それもボディタッチなんかして、本当に仲睦まじ……い。


「添……?」


 僕は知った。二人が進んだことを。そして、その事に僕は気づかなかっ……いや、本当はもう……気づいていたと思う。ただ、考えないようにしていた。けど、事実は確かにそこにあって、目を背けることもできなくて。もう……認めることしか出来なくて……。

 だからこそ、僕はその場を動けなかった。

次は四条結視点となります

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