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33話 幸せの裏側で(視点:川瀬添)

 すごい人だかり。

 カップルに家族連れに友達連れに、一人客まで。あらゆる種類の人が狭い空間内に集まっていた。

 けど、不思議と煩くないのはきっと、この場所が特別だからだろう。

 図書館のような夜中の静けさではなく、夜明け前の静けさのような、そんなこれから起こる出来事を心待ちしているかのような雰囲気。

 かくいう、私も心が踊ってる。それに何だか体がソワソワする。私にとっても、ここは他の人達と同じように、楽しみを抱ける空間だ。

 そんなムズムズとした思いを抱く私。けど、同行者の方は違っていた。


「で、あんたが見たいのって何だったっけ?」

「見たいのって、昨日ラインで送ったじゃないですか! よく今日の目玉であるイベントを、そんな、なあなあの気持ちでこられますね!」

「いやぁわりぃわりぃ。映画を見に行こうって部分しか見てなかったわ」

「えっ、じゃあ予告とか見てないのですか」

「見てない」

「しんっじられない! 予告を見ないで来るバカが何処にいるっていうんですか」

「ここにいるよ、てか普通はみなくね。だって予告を見ても見なくても本編に関係はないんだから」

「ありますよ!予告見て予習するでしょ普通」


 と、私の前にいる二人は、大きな声で討論を繰り広げている。


 今日、私達は映画を見るという約束のもと、ヤオン店内にある映画館へと来ていた。

 音質やら、公開作品とかはともかくとして、自分達の街に映画館があるというのは、非常に便利だ。午前中の公開でも、ゆとりをもっと来ることが出来る。

 最もゆとりという面では、二人は違っていた。


 私の友達兼今日の遊び相手である戸塚と花は、大勢の人がいる映画館の入り口で今現在ヒートアップしている。従業員が来るほどではないにしても、人の出入りが激しいここでは、目立つことにかわりない。


「ちょっと止めなよ二人とも。周りから見られてるから」


 私は足を一歩踏み出し、二人の間に割って入る。

 実際、映画館の中にいる人も、映画館の外にいる人も、大声を出す私達のことをチラチラと見ていた。

 周りの視線を無視するほど、私たちは図太くはない。二人とも恥ずかしいという自覚があったのか、直ぐに私の言うことを聞いて、討論を止めてくれた。しかし、二人とも納得がいっていないのか、花は頬を膨らませ、戸塚は小さく舌打ちをした。


「けど、納得がいかねぇぜ。普通予告なんて見ないよな添」

「何言ってるんですか、見るに決まってますよね添さん」

 

 二人が私に顔を近づかせ、尋ねてくる。二人とも目が本気だ。その圧力と言ったら、半端ではない。


「あぁいや、えと、その……」

「どうなんだよ」「どうなんですか」

「……見るときもあれば……見ない時もある……かな?」


 しどろもどろに何とか答えた私。けど、そんな私を待っていたのは、二人からのため息だ。


「ハァ、つまんない答えなんか出すなよ」

「そうです、失望しました添さん」

「えっ、いや、これって何、私が可笑しいの、てかそこまで言う」


 自身を指さしながら私は、二人の顔を交互に見つめる。

 そんな私を前に、戸塚は眉をハの字にし、花はと言えば口を尖らせる。


「言いたくもなりますよ。まさか、私以外映画の楽しみ方を知らないなんて」

「いや、今日に関しては予告見たよ私」

「本当ですかっ!」


 予告を見たと言った直後に、両手で私の右手を握ってくる花。オーバーリアクションの彼女らしいけど、少し恥ずかしい。

 思わず頬を掻いてしまう私だけど、戸塚はと言えば、先程の花のように、口を尖らせていた。


「何だよ、じゃあ予告見てないのは私だけってことになるのか」

「そうですよ戸塚さん。2対1で私たちの勝利です」

「勝負なんてしてないよ花」


 と、冷静に突っ込んだ私を尻目に、私から手を離した花は、空いた両手によるボディランゲージを用いて説明し始めた。

 そのせいで、また人目を惹いてしまったことは言うまでもない。


「予告を見てない戸塚さんに説明してあげましょう。今回の映画はズバリ、ラブロマンス、恋愛映画です」

「恋愛映画ねぇ。だからそんなにテンションが高いわけだ」

「当たり前です。そもそも私が見る映画は決まって恋愛ものと相場が決まっております」

「何の相場なのそれ……」

「まぁ、確かに花が誘う映画って恋愛ものばかりで、そんな花に無理矢理付き添われてばかりだったな私たち」

「うーん、けど、今日の映画は少し楽しみ……かも」

「そうなのか、珍しいな」

「ほんとですか添さん!」

 

 首を傾げる戸塚とは対称的に再度、花が私の右手を握ってきた。花の体温が伝わってくる。全く、恋愛関係となると、花のヒートアップは甚だしい。


 ……いや、ちょっと……その、ずっと握られていると流石に、恥ずかしい。

 私は花の手を振り払った。こうしてまた一人、孤独となった私の右手。そしてその右手を先程まで握っていた花は名残惜しそうに見つめる。

 そんな花を前にしながら、私は解放された右手を自身の左手でキャッチするように握る。さながらもう、握られせはしないと、態度で示すように。


「まぁ、今回の映画は、話題作……だからね。それで興味があったんだ」

「話題作ねぇ。恋愛もので話題の奴って今あったっけ」


 質問してくる戸塚。花とは対照的に、冷めたような態度だ。もっとも、戸塚はいつもこんな感じだけど。

 そんな戸塚が出した質問に私は答えようとしたが、花が出番を奪う。

 花は私へと向いていた体を今度は戸塚の方へ向けると、舞台女優のように、先程よりもより多く大きく手振りを交えて話し始めた。


「あります、絶賛公開中、胸キュン必死、切なさ必死、感動必死のラブストーリーが、これから見る映画なのです」

「はいはい、解説ありがとさん」

「ちょっと、戸塚さん、私の扱いぞんざい過ぎません!?」

「お前にはこれくらいでいいんだよ」

「なんですとぉ!」


 と、これまた騒ぎ出す二人。そんな二人を見ていると、人目の事を気にし続ける私がバカみたいに思えてくる。

 そう、自由で良いんだ、周りなんか気にしなくて。そう思った時、自然と笑みが溢れた。

 

 やっぱりこういう気の合う友達と出掛けるのは楽しい。例え想い人ではなく、女同士で恋愛映画を見たとしても、楽しい事に変わりはない。


ーーーーーーー


 映画を見終わった私たちは、ヤオン内にあるファードフースト店にいた。

 ファードフースト店ということもあってか、店内は比較的学生と思わしき人が多く、その分話し声が絶えない。静かそのものだったスクリーンとは大違いだ。


 そんな店内にて、私たちは中央にあるテーブルへと座っている。テーブル上にはそれぞれが頼んだポテトやナゲットらが置かれている。それを私たちは誰が頼んだか関係なしに、口許へと運んでいった。

 私はいつも通り普通な感じで、花はいつもよりニコニコと上機嫌ながら、そして戸塚はと言えば……ダウナーな雰囲気で。

 戸塚は、手に持ったポテトを口許へ運ばずに、ずっと弄くってばかりいる。そんな彼女は、傍目から見れば気になることこの上なかった。

 

「どうしたの戸塚?」

「そうですよ、戸塚さん。気分でも悪いんですか」


 私たちはポテトやナゲットを頬張りながら戸塚に声をかけた。しかし、彼女は直ぐには答えない。

 彼女はゆっくりとした動作で、持っていたポテトを口へ入れた。しかし、全てとはいかず、ポテトの一端が口からはみ出た状態で、彼女は頬杖をついた。


「あんたらさぁ、あの映画を見た後で、よくそんなに元気でいられるね」

「あんな映画とは何ですか。喧嘩するほど仲が悪かった二人が、ひょんな事をきっかけに互いの事を気になりだし、ついには付き合うまでに至る。しかし、二人は幼い頃両親の離婚で別れた兄妹であった。いけない恋、別れなければならない恋だと分かっていても、思いは止められない。二人は思いのままに付き合いつき続けるのか、それとも別れてしまうのか、結末はいかにっ!」

「分かってんじゃん、近親愛をテーマにした映画じゃん」

「ハㇵ、まぁ確かに人を選ぶ映画だったね」


 誤魔化し笑いを浮かべる私。

 戸塚の言う通り、私たちが見た映画は近親愛、いわゆる禁断の恋をテーマにした映画だった。それもアニメや漫画のようなギャグテイストじゃなくて、ガチの奴。はっきりと好き嫌いが分かれるタイプの映画だ。

 だからこそ、口から出ていたポテトを手を使わず、仏頂面のまま食いきった戸塚を見ても、私は嫌な思いにはならなかった。


「てかさ、分かってたら、それこそ予告を見てたら、この映画は見ないよ」

「それを含めて予告を見るのですよ。少なくとも私や添さんは、覚悟して見れましたからね。まぁ最も結末はどうなるか分かっていませんでしたが」

「へぇ、原作見てないんだ、珍しい」

「はい、だって原作は小説ですから」

「あぁ、あんたは漫画しか読まないもんね」


 一転あきれ顔となる戸塚。そんな彼女に合わせるように空気が弛緩した。おかげで、話の流れは映画の内容へと移り変わる。

 最初は戸塚だった。彼女は頬杖をつき、ドリンクのストローを口に入れたまま切り出す。


「けど、どうなんだろうな、あの結末」


 戸塚には珍しい、はっきりとしない物言い。彼女なりに思うところがあったのだろうか。

 そんな彼女の後ということもあり私の言葉もまたはっきりしないものとなる。


「うん、結局二人はどうなったんだろう。別れたとも付き合い続けるとも、どちらも取れるラストだったけど」

「そうだよなぁ、それもまた私が気に入らない所なんだけど」


 示す合わすように、言葉を合わせる私たち。けど、ここにはそんな流れをぶった切る子がいる。彼女はいつだって自身の思いに素直だ。


「私は俄然、付き合い続けた派ですっ!」


 握りこぶしを掲げ、はっきりとそう主張する花。そしてこれまでと同じように、発言した花に戸塚は冷めたような目を向けた。


「まぁあんたはそう言うよね」

「当たり前です。禁断の愛、結構じゃないですか。他人から後ろ指さされようとも、理解されなくても、思いは止められない。二人はいけない事だと分かりながらも引かれ合い、人生を共にする。それが良いじゃないですか」


 ドリンクを片手に熱弁する花。全く彼女と来たら、ブレないんだから。

 花の答えを聞き、呑気に笑う私。けど、そんな時戸塚は私に顔を向けて来た。


「あんたはどうなの添」

「えっ、私?」

「そ、あんたはあの二人は別れたと思う、それとも付き合い続けたと思う」


 私に指を向けて、戸塚は尋ねてきた。


 深く考えてなかった。話題の恋愛映画。

 事前情報のように、確かにあの映画は、二人の初々しさに胸キュンで、結ばれない恋が切なくて、それでも歩んでいく姿に感動して、良い映画だとは思った。

 けど、最後の結末はどうなんだろう。ラストシーン。二人はデートをする。そして、デートの最後、夕焼けが見えている観覧車の中、二人は話をする。これまでの事を思い出しながら、二人はある決断をする。しかし、その内容は聞こえない。そして二人がいる観覧車からカメラは引いていきやがて暗転する。

 次に出る画は桜舞う春の風景だ。花びらの中とある二人が歩いている。後ろ姿だけど、観客からはあの二人だと確かに分かる。これまでと変わらず仲睦まじく話す二人。そしてやがてカメラは下がっていき、二人の腰、つまりは手の付近に差し掛かる。これまで二人はつきあってからというもの恋人つなぎをして歩いていた。

 そして、決断をした今は……とそこで映画は終わる。

 観客に解釈を任せた終わり方だ。きっと、人によって解釈は異なるのだろう。映画内には、付き合い続けるとも、別れるとも、どちらの伏線もあった。

 だから、きっと、答えなんてない。人の数だけ答えがあるとかそんな映画。

 

 そんな中、花は付き合い続けると答えた。

 戸塚は……きっと否定的、別れたと思っているんだろう。私は……どうなんだろう。

 二人はどうなったんだろう。いけない恋と分かりながら、それでも恋焦がれてしまう二人。そんな二人の出した結論は……。

 

「どっち……何だろうね」


 首を傾げながらの答え。

 当然、そんな答えが受け入れられる筈がない。私だって友達からそんな答えを聞いたら逃げたと思う。実際花は、不満そうな目付きで私を睨んでいる。

 けど、戸塚は違っていた。彼女は、不満というよりも、意外といった様相で目を丸くしていた。


「驚いた、添なら付き合わないと、答えると思ったけど」

「どうして?」

「だって、添は兄貴がいるでしょ。私達とは違って」

「えっ、添さんお兄さんがいるんですか!」


 ガタリと、椅子を鳴らし、花が身動ぎする。なぜ花はそんな反応をしたのか、最初こそ私は分からなかったけど、直ぐに得心がいった。


「そう言えば、花には言ってなかったね。うん、私、兄さんとの二人兄妹なの」

「そっか、花は私達とつるむようになったのって、中学からだもんな。それは知る訳もないわけだ」

「知らないですよ! なら、何ですか、映画見てたとき想像とかしちゃいました? 実の兄とのあんなラブロマンス」


 冗談というよりも、真剣な顔つきで、前のめりとなり、尋ねてくる花。けど、そんな彼女を戸塚が止めてくれた。


「止めなって。添が嫌がってる」

「嫌がってるって、そうなんですか添さん」

「うーん、まぁ嫌……かな」


 上手く答えられない。それが出たのか、しどろもどろな声が出てしまう。

 頬を掻きながら答えた私。そんな私を戸塚は見つめてきた。


「……変わったね、添」

「えっ、そう……かな」

「変わったよ。いや戻り始めたというべきかな。出会った当初の頃に」


 言い終わった後、戸塚はストローを噛みドリンクを飲み始めた。会話はそこで終わりとでも言うように。一方傍観者となっていた花はと言えば、会話が理解できていないのか、私と戸塚の顔を、交互に見ている。

 そして、私はと言えば、戸塚に言われた事を、思い返していた。


 戻った……。その意味が分からない私じゃない。あの頃、戸塚と出会った幼稚園の頃、兄とベッタリだった頃。私は兄の事を尊敬し、慕っていた。

 あの頃へと戻りつつあるのかな。思い出すのはここ最近の出来事。私のプレゼントを受け取り、涙を流すほど喜んでくれた兄。お返しとして私にプレゼントをくれた兄。見知らぬ地にてお婆ちゃんを案内する兄。そんな今の兄を私は……嫌いではない。

 兄は変わった。そしてそんな兄に対する私の思いも。戻れるのかな、昔の、無邪気だったあの頃に。

 

 いや……きっと、完全に戻ることは出来ないに違いない。だって私たちはもう子供じゃないし、それに私にはもう……


「川瀬さん……」

「先生……」


 大事な人がいるから。


ーーーーーーー


 人が溢れている店内。だからこそ、気づかなかった。先生がいるということに。それこそ、先生が私達がいるテーブル横を通りすぎなければ、気づかなかったに違いない。


 トレーを持ったまま固まる先生。そんな彼の瞳には私だけが映っている。

 そんな当たり前の事がどうしようもなく、嬉しくて、口角が上がってしまう。


「先生~、良い大人がファーストフードで昼食なんて、恥ずかしくないんですかぁ~」


 バカにしているわけではなく、からかいの一種として、私はにやつきながら先生に言葉をかける。

 一方の先生はと言えば、頬を僅かに赤くし、目を逸らした。そんな無邪気ともとれる先生の反応に私の口角はさらに上がる。


「いや、これは、その、旧友に、会いましてね。それで、昔を懐かしんでここに来たのです」


 つっかかりながら、早口で言う先生。そして私はと言えば、首を傾げていた。もちろん明るく朗らかな表情のまま。


「旧友?何処にいるんですか」

「あそこです、今、こっちを見ている、彼が私の友達です」


 混雑した店内において、とある一点を指さす先生。見てみるとそこには一人の男性客がテーブルに座っており、私達を見ていた。

 眼鏡をかけた男性、何処と無く先生と似通ったような雰囲気。そんな彼に、私は軽く手を振り挨拶をすると、先生へと視線を戻した。


「優しい感じの人、先生とはどんな仲なの」

「どんな仲……と言われましても」

「良いから、教えてよぉ。ねぇお願い」


 ぶりっこのように、猫なで声を出す私。自分のキャラじゃないような気もしたけど、今は先生の反応が見たかった。

 

「……高校の時、同じ読書部の部員でした」


 目を泳がす先生。そう言う無垢な所が可愛い。

 満足した気分になる私。それにしても、先生が読書部だったなんて初めて聞いた。私が知らなかった先生の過去。それを知るということは即ち、先生に近づけるということ。


 もっと、近づきたい。もっと、触れあいたい。もっと、一緒にいたい。


 けど、それにも限界はある。今日はここまで、これ以上は、引っ張れない。


「かつての部活仲間だったなら、早く行ってあげないといけないですね。じゃあ先生さようなら」

「え、えぇさようなら」

「また、夏休み明けの()()で会いましょう」


 部活、その単語に、先生の頬は更に赤くなる。

 照れてる、きっと思いだしたに違いない、あの日の事を。そして、私もまたあの日の事を思いだすと、つい頬が緩んでしまう。

 こうして先生との絡みを終え、上機嫌なまま私は同じテーブルについている戸塚たちと顔を合わせた。


「ごめんごめん、それでさっきまで何の話をしてたっけ?」


 先生用の顔から、友達用のフランクな顔で首を傾げる私。そんな私を前に、先に口を開いたのは、案の定花であった。


「ちょ、何ですか、添さん! 教助先生とあんなに仲良くして」


 分かりやすく大声を出す花。一方戸塚と言えば。


「教助先生? 有名なのか、その先生」


 教助先生のことを知っていなかった。そんな彼女に花の熱い眼光が向けられる。


「有名ですよ! だって女子生徒の間での人気No.1の先生ですよ」

「ふーん、知らないや」

「戸塚さん、貴女って人は」


 少しばかり怒気がはらんだ声音となる花。今回ばかりは私も花と同じ気持ちだった。どうして教助先生のことを知らずに過ごせて、いや興味なくして過ごしていけるのか理解できない。そんな思いからなのか、今の私には戸塚がいつもより不愛想に見えてしまう。


 だからこそ、花に取り合うつもりがないのか、そっぽを向いた戸塚を、私は無視してしまう。

 私達から目線を逸らす戸塚。その為、彼女を除いた、私と花、二人だけで会話が成されることとなった。


「それにしても、添さん驚きましたよ。所属する部活動の顧問だからといって、あんなに仲良くなれるものなんですか」

「そんなに、仲良く見えた?」

「そりゃあ、ものすごーく仲が良さげでした」

「ふふ、それなら良かった」

「むむ、何ですかその笑みは」

「ひーみつ、教えてあげない」

「そんなぁ、勿体ぶらずに教えてくださいよ~」

「だ~め、私にだって秘密の一つや二つあるの」


 戸塚なくして、会話が形成されていく。

 私の返答を聞き、残念がる花。そして彼女を見て苦笑する私。

 

 あの日、見知らぬ街にて私は先生に告白した。半ば突発的な告白に、私としては振られると思っていた。けど、結果は違っていた。

 考えさせてくれ、目を落としながら先生はそう答えた。

 先生の返事は私を安堵させるものではなかった、けど私は……その答えを聞いて嬉しかった。

 だって、先生は私の事を思っていてくれたんだなって分かったから。

 何割かは分からない。けど、その答えは先生の心の中に、何割か私がいるということへの証でもあった。それが無償に嬉しかった。想い人に思われるというのはこんなにも幸福な事なのかと、この時私は初めて知った。


 折角手に入れた、この幸福。それを手放したくない。それに……楽しまなくちゃ損だもの。

 だから、私は精一杯楽しむことにした。先生と出会える日々を、一瞬一瞬を大切に、心を踊らせて。


 先生との恋、それは世間から見れば特別かもしれない。

 けど、そんなの関係ない。だって今の私はこんなにも、()()なのだから。


 幸せ真っ只中の私。

 恋を、幸せを求める花。

 そして、残った戸塚が何を思い欲しているのか、この時の私には分かっていなかった。


 

 

 


 

 


 


 


 

 

 




次は四条結の視点となります。

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