第6話 再びお嬢様降臨!
風邪で体調を崩して寝込んでいたので、更新出来ませんでした。申し訳ありません。
今回は「鋼の錬金術師」のREADY STEADY GOを聴きながら書きました。
宜しくお願いします。
心にモヤモヤを抱きながら、幼馴染みで親友の白峯聖斗と噂のクレープ屋で購入した醤油クレープなるものを一緒に食べている絵星茅咲。
聖斗の突然の行動に、自分の黒い欲望が喉まで出かかっていたが何とか抑えることに成功した茅咲は、未だバクバクと鳴り響く心臓を鎮めようと、気持ちを落ち着かせる。
「茅咲の頼んだその……、よくわからないスペシャルなやつも美味しいな」
「……え? あ、うん! 良かったらしょう君食べる? やっぱり私お腹いっぱいになっちゃったみたい!」
自分の心を鎮めることに意識を集中していた茅咲は、話し掛けてきた聖斗に少し遅れて反応する。
「だからさっき言ったろ? それじゃ夕御飯が食べれなくなるぞ」
「しょう君、お母さんみたいなこと言ってるー!」
「いや、俺はお前の心配をして言ったんだ」
「アハハ、わかってるよー」
聖斗と他愛の無い話をしたことで少し落ち着いてきた茅咲。
彼が私を心配していると言う時は本当に心配している時。
それが私が彼の特別であるのだと認識させてくれる、茅咲にとって非常に心地よいやり取りであった。
いつも茅咲が落ち込んでいる時には、それを隠す私の本心を鋭く見抜いて心配の言葉を掛けてくれる聖斗には叶わない。
しかし、茅咲の本心はいくら『氷王』様であっても当てることは出来ない。いや、当ててもらっては困るのだ。
それでも、少し残念に思ってしまうのは何故だろうか。
恋に関することだけは鈍感な幼馴染みを持つというのは苦労するなと茅咲は思うのであった。
そんな茅咲の心など知らず、渡されたスペシャルクレープを美味しそうに食べている聖斗。
見た目のクール具合に反して超甘党な聖斗。
これは小さい頃からずっと変わらない。
毎年腕によりをかけて作るバレンタインチョコも、ありがたく受け取ってくれる。
(間接キス……なんだけどなぁ)
意識せずに、差し出された甘い物を口いっぱいに頬張る聖斗を見て、複雑な感情を抱きながら茅咲は右手を伸ばす。
「もう、ほっぺにクリームついてるよ?」
「気付かなかったよ、ありがとう」
先程聖斗にされたように、頬に付いたクリームを指ですくい取って自分の口まで運ぶ茅咲。
それに対してニコリと微笑む聖斗にドキリとさせられる。
茅咲と一緒にいても普段は無表情な彼が時折見せるこの表情は、家族以外にはきっと私だけだろう。
優越感に浸りながらも、ただ少し不満であった。
「……少しは意識してよね」
「え? 何か言ったか?」
「なんにも! しょう君なんか糖尿病になっちゃえ!」
心の乱れを悟られないように、舌を出してあっかんべーのポーズを取る幼馴染みの姿に、聖斗は微笑ましいものを見るような表情をする。
「何を意味わからないこと言ってるんだよ」
「ふん、知ーらないっ」
わざと拗ねる素振りを見せる茅咲は、こうすると聖斗が一層構ってくれるということを知っている。意地悪なことをしていると自覚しているが、その時間だけは本当に自分たち2人だけの世界になったように感じられて……。
いつまでもこの時が続けば良いのにと、ロマンチックなことを考えたりもしてしまう。
そして、茅咲の思惑通り自分が何か悪いことをしてしまったのかと焦る聖斗が、気を引こうと積極的に話し掛けてくる。
(こんな風に、しょう君から言い寄ってくれれば私は即OKなのに)
そろそろ可哀想になってきた幼馴染みに、許してあげると言葉を告げると嬉しそうにありがとうと言ってくる聖斗。そして、再び食べかけのクレープに聖斗が手をつける。
しばらくして完食した聖斗に茅咲が労いの言葉を掛ける。
「よく出来ました!」
「ちょっと食い過ぎたな……。全く、今度行く時はちゃんとセーブしろよ」
「了解です!」
次があるんだ! と心の中で喜びを顕にする茅咲。
テンションは爆上がりである。
そんな2人が楽しそうにクレープの感想を言い合っている所に、聞き覚えのある声で水が差される。
「あら、白峯さんと絵星さんではないですか。まさかこんなに早い再開だなんて、何か運命を感じてしまいますね」
鈴の音を鳴らすような声で割って入ってくるのは、同じクラスになった女子生徒。名前を錦宮沙織と言う。
そして、茅咲からすれば今最も警戒すべき悪虫である。
「錦宮さんこそどうしたの? もしかして、私たちの後を追ってきたとか?」
「まぁ、そんなことは致しません。ただ、本当に私も話題のスイーツを口にしてみたくてここに来ただけです」
既に臨戦態勢の女子2人。
交わされる視線に火花が散っているのを実際に見たというのは、聖斗の談である。
「というのは冗談でして……。あの新しいお店は実は錦宮グループの系列でして、その様子を見に行く途中でおふたりを見掛けましたので声を掛けさせて頂きました」
「別に、そのまま放っておいて貰ってよかったのに」
「それは錦宮の人間として、そしてクラスメイトとしては出来ません。私たちはこれから一緒に学んでいく仲間ではないですか」
綺麗事を並べる沙織の目論見は分かっている。
それは茅咲だけでなく、聖斗も。
どうせ見た目だけで選んだ男を籠絡してやろうというお嬢様のお遊びなのだろうと、考えている聖斗であった。
「どうやら、白峯さんは甘い物がお好きなようで。クレープはお口にあいましたか?」
「あぁ、非常に美味しかった」
普通に会話してしまっている聖斗と沙織に、危機感を抱く茅咲は沙織の本当の目的に素早く気付くが、時は既に遅かった。
「よろしければ、今度うちのグループが経営するケーキバイキングのお店へ招待致しますが……どうでしょう?」
「是非連れて行って欲しい」
即答の聖斗に少し虚をつかれた沙織であったが、効果覿面なその誘いに乗ってくれて満足そうに頷いている。
「わかりました。つきましては招待させて頂く日取りを決める為に連絡先を教えて欲しいのです」
「ほら、コードはもう出してある。読み取ってくれ」
甘い物の甘い誘惑には滅法弱い聖斗は、いとも簡単に猫被り女に捕まってしまう。
こうなってしまってはもう遅い。
せめて聖斗を守る為にも近くに居てあげなくてはならないと考えた茅咲は、恥を忍んで恋敵にお願いをする。
「錦宮さん! 良かったら私もしょう君と一緒にそのケーキバイキングに連れて行って欲しいな!」
「ええ、構いませんよ。では絵星さんも私と連絡先を交換しましょう?」
顔だけを見れば快諾の表情をしている沙織だが、裏では何を考えているのやら。そんなことを思いながら茅咲は沙織にコードを提示する。
「登録出来たな、ケーキバイキングが楽しみだよ」
「まぁ、今からそんなに楽しみにして頂けるなんて光栄です」
いつの間にか距離を縮めていた沙織が、聖斗の隣でそんなことを言う。負けじと茅咲も聖斗の腕に捕まってそっと耳打ちをする。
「しょう君! あんまり信用し過ぎないでね!」
「分かっているよ。でも、俺には茅咲がいるから大丈夫」
そんなことを言われてしまっては思考が上手く働かない。
耳まで赤くなってしまった茅咲は俯いて小さく、ズルい、と呟いている。
「まぁ、2人だけの内緒話なんて酷い。私も混ぜて下さい」
「いや、当日が楽しみなだけだよ」
「それなら良いのですが……。これから仲良くして下さいね!」
誰でもイチコロしてしまう程の満面の笑みを向ける沙織に、甘い誘惑によって少し警戒心が緩んでいる聖斗が微笑みながら頷き返す。
しかし、先制攻撃をした筈の沙織が逆にやられてしまったようで茅咲と同じように下を俯いてしまう。
結局最後は、また連絡するということで落ち着いたその場は解散となり沙織は送迎の車に、聖斗と茅咲は家が隣同士の為にそれぞれ別れたのだった。
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