第4話 お嬢様降臨!
どうも、今回は「クズの本懐」の嘘の火花を聴きながら書きました。
宜しくお願いします!
10分の小休憩の後の説明も終わり、担任教師の麿橋大雅の今日は解散という言葉でこの日の学校は終わる。
「しょう君、一緒に帰ろ!」
「あぁ。そう言えば茅咲、この前駅前に出来た新しいクレープ屋に行きたいって言ってたよな? 今日は時間あるし寄ってくか?」
「しょう君覚えててくれたんだ! 私、そこの名物が食べたいんだ!」
「了解。それじゃ行こうか」
聖斗から誘われるのは久しぶりの茅咲は周りのことなど気にせず、大声を上げてその場で舞い上がる。その場にいた全てのクラスメイトが同性の対象に対して、ヘイトを溜める。
聖斗は気兼ねなく付き合える親友をカフェに誘っただけなのであるが、周りはそうは捉えない。また、隣で喜んでいる茅咲は改めて自分が聖斗の大切で唯一の存在なのだと再確認出来て満足そうにしている。
「すみません、少しお時間をよろしいでしょうか?」
そう鈴の音を鳴らすような、綺麗な声が耳に入る。
聖斗がその声がした方を向いてみれば、1人の女子生徒がこちらを見つめている。どうやら、声を掛けてきたのはこの少女らしい。
返事をすることなく声の主を見つめていると、再びその女生徒が話し掛けてくる。
「呼び止めてしまい申し訳ありません。白峯さんと少しお話がしたくて……」
本当に申し訳なさそうに、先程よりもトーンが少し下がった声で聖斗に話があるという女生徒。身長はやや低めであるが、スラッとした体のラインは非常に魅力的で自己紹介で読モであると公言した女生徒よりもスタイルが良い。
光沢のある艶やかな黒髪をストレートに伸ばし、特に目がいくのは大きな赤いリボン。右のこめかみの上辺りに着けているリボンの存在感は大きく、多くの者がこんなアイテムは着けないだろう。しかし、そんな扱いづらいアイテムさえも彼女と一体になっており、まるでそれが自然体であるかのように全く違和感を覚えない。
ぱっちり二重の大きな目は可愛らしく、彼女の口調と雰囲気からやんごとなき身分だということが窺える。正にお嬢様然とした大和撫子な美少女であった。
「先程の自己紹介の時間、白峯さんは他の方にあまり興味がおありに無さそうであったので改めて自己紹介させて頂きます」
丁寧にペコリと一礼し、再び聖斗の目をしっかりと見つめる女生徒。
「私の名前は錦宮沙織と申します。この顔と名前、覚えて頂けると嬉しいです」
ニコッと微笑みながら聖斗に名乗る沙織。
彼女の姓である錦宮と言えば、世界でも有数の富裕層である錦宮グループだと、その名を聞けば誰もが理解してしまう程に日本国内では名の知れた名家である。
勿論、聖斗は他人の自己紹介など全く興味が無かった為にその内容は覚えていない。自己紹介の時間に猛アピールをした女子生徒たちは本当に無駄なことをしただけだったのだ。
茅咲は、このクラスにはどういった輩がいるのかを知る為に全てのクラスメイトの自己紹介をきちんと聞いて把握していた。そして把握した上で彼女の中で、聖斗に近づけてはまずい人間を脳の中で既にピックアップしていた。
その中の1人が、この目の前で微笑んでいるお嬢様。
錦宮沙織だ。
彼女には地位と権力と金がある。
何かしようと思えばそれを簡単に成してしまう程に彼女の影響力というのは凄まじい。それを理解している茅咲は、いきなり仕掛けてきたお嬢様を見やる。
するとその視線に気付いた沙織が、今度は茅咲に対して微笑み返す。しかし、ただ微笑み返すのではない。女にしか分からない電波のような勘のような、とにかく言葉では言い表せない焦りが茅咲に襲いかかる。
(独占しようだなんていけませんよ?)
(この猫被り女……!)
口調は柔らかいが、雰囲気は修羅のそれ。
瞬時に互いが互いを理解し合う。
この女は敵である、と。
そんな女同士の言葉無い戦いはいざ知らず、話し掛けられた聖斗は一応は礼儀正しく話し掛けてくれた沙織に返事をする。
「よろしく、錦宮さん。それで話ってのは?」
(しょう君のバカ! わざわざ話に乗ってあげなくても良いのに!)
(うふふ。白峯さんも貴方には飽きて、新しい女を探しているのですよ……!)
目線と目線で言い争いをする茅咲と沙織。
傍から見れば2人とも笑顔で向かい合っているだけにも関わらず、その実激しい火花を散らしていた。
「ええ。たった今、絵星さんと一緒に駅前の新しいクレープ屋に行くということが聞こえたのですが……、よろしければ私もご一緒させて頂けないかなと思いまして」
「そういうことでしたらすみません。俺は茅咲と約束したので、錦宮さんも一緒にというのはちょっと……」
普段は『氷王』と呼ばれる聖斗も、礼儀正しく接してくれる相手には誠意を持って応対する。しかし、他人を信用出来ない聖斗にとって茅咲がいるとはいえ、いきなり会ったばかりの女子生徒も一緒にというのは気が進まない。何より、自分から茅咲を誘ったのだ。ここから人数を加えてというのは茅咲に失礼であると考えた上での判断であった。
そして、身内には滅法甘い性格をしており、家族以外に唯一気の許せる存在である茅咲の頼み事ならば可能な限り叶えてやりたいと思える程には依存している。
ここで、茅咲に同伴しても良いかと聞いてもよかったのだが、多少冷たい対応になったとしても自分はあまり他人とは関わりたくないという本心から敢えて聞かなかったのだ。
「そうですか……。それは残念です、ではまたの機会に誘わせて頂きますね」
「ええ、機会があれば」
冷たく突き放す聖斗。
ここで言う機会があればは、二度と来ない機会であろうことは誰でも分かる。
そんなやり取りを見て顔にこそ出さないが、内心でガッツポーズを決める茅咲。しかし、隠しきれていないのか少し表情が緩んでしまう。
そして、聖斗が茅咲に行こうと声を掛けるとそれに従って茅咲がその後を着いていく。
「まだ終わっていませんので」
「貴方の付け入る隙なんて無いんだから」
「隙を付く必要などありません。彼の隣にあるスペースには私がいると確信しています」
「そんなことさせるつもりないよ」
通り過ぎる瞬間に、聖斗には聞こえない声量で口撃し合う茅咲と沙織。
すぐに顔を笑顔に変えて、小走りで聖斗を追う茅咲。
未だ余裕の笑みを崩さない様子の沙織。
まだ何か策があるのだろうか、少し考える素振りをして彼女も教室を後にする。
早くも途轍もない修羅場を目にした2組の男子諸君は戦慄する。
「女子って怖い……」
誰が発した言葉かは分からないが、その場にいる男子の全員の気持ちを代弁したその言葉に心の中で大きく頷く。
え? 何故実際に現実で首を動かさないのかって?
だって、そんなことしたら女子が怖そうなんだもん……。
この世の真理を見つけた気がした2組の男子生徒たちなのであった。
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