第3話 自己紹介の時間は猛アピールの時間と化す!
どうも、今回は「ヲタクに恋は難しい」のフィクションを聴きながら書きました!
昨日は17:00に投稿すると言いましたが、時間が空いたのでこの時間にも投稿してしまいました。
ちゃんと17:00にも投稿しますのでそちらも合わせて読んで頂ければと思います!
宜しくお願いします!
あの後、恙無く入学式を終えた新入生たちは、その場で発表された担任教師に連れられて、各々の教室へと向かった。
その道中、相変わらずの茅咲と何故遅刻したのかを聞くと……。
「え? 寝坊以外に何かある?」
そう宣う茅咲に呆れながら、変わらない親友の姿に心の中で嬉しさを感じる聖斗。本心で自分にぶつかってくれたのは家族以外には茅咲だけ。聖斗は茅咲には感謝しても足りない程の恩を感じているが、口にしたら茅咲が調子に乗る為に言ってやらない。
その後は他愛のない話をしながら教室へ向かう聖斗と茅咲。
イケメンと美少女が2人並んで仲良さげに歩いているというのは非常に画になり、聖斗には男子生徒が、茅咲には女子生徒が自分もその隣が羨ましいとばかりに鋭い視線を送る。
そしてやっと着いた1年2組の教室。
担任教師が中に入れと促し、黒板に書かれている指定の席にそれぞれの生徒が席につく。
「よし、皆席についたな。まずは、入学おめでとう。これから1年間皆の担任を務める麿橋大雅だ」
そう新入生たちに自己紹介したのは、聖斗と茅咲が所属する1年2組の担任教師である女性教師。いかにも仕事できます! というようなビシッと決めたスーツに身を包み、きちんと手入れが行き届いている長い黒髪を、後ろで1本に結っているクールビューティな女性。
そして女性の理想像とも呼べる程のスタイルを誇り、誰の目から見ても非常に魅力的な人物である。しかし、その厳しい口調と凛々しい見た目、更には名前が男性のようという理由で教師を始めてから中々恋人が見つからないという悩みを密かに抱える乙女でもあった。
「早速だが、これから1年間一緒に学んでいく仲間に挨拶と自己紹介をしてくれ」
大雅がそう言うと、出席番号順に生徒が自己紹介をしていく。
「有間幸恵って言います! 特技は料理で、得意料理は卵料理です!」
「伊藤晴美です! 今フリーなので、新しい高校生活で良い人が見つかればいいなって思ってます!」
「名前は永川舞で、読者モデルやってまーす。よろしくね♪」
皆自己紹介しているようで、その視線はある1点に固定されている。その先には『氷王』と呼ばれる男子生徒、白峯聖斗が無表情で時間が経つのを待っている。
自分の最初のアピールが不発に終わったことで、目に見えて落ち込んでいる様子の女子生徒たち。そんな彼女たちの次に自己紹介をするのは、入学式早々に周りの目を掠め取った美少女の絵星茅咲。彼女の容姿は非常に整っており、明るそうなその見た目と性格で誰とも分け隔てなく接することが出来る。
まだ入学したばかりなので、茅咲と接点を持つのは聖斗のみであるが、これからの学校生活で勘違いしてしまいそうな純朴男子は多そうだ。
「絵星茅咲です! しょう君とはずっと幼馴染みで、小さい頃からずっと一緒にいました! 特技はお弁当作りで、時々しょう君の弁当も私が作ってあげたりしてます!」
笑顔でそう言う茅咲だが、その背後には般若のようなものが幻覚で見えるようだ。どうやら、聖斗に災いが降りかからないように周りの生徒を牽制しているようで、最初から聖斗のことなら大体知っているといった雰囲気を垂れ流す。
しょう君は渡さない、と言葉にせずとも伝わるその空気を食らった女子生徒たちは一瞬怯むが、すぐにキッと睨み返す。
(誰がかかってこようとも、私としょう君の絆に割って入ることは出来ない)
心の中でそう確信している茅咲は、強者の余裕を浮かべている。
一方、周りの女子生徒はというと……。
(嫌な女!)
(一緒にいた時間がナンボのもんじゃい!)
(白峯君は私のもの!)
皆が心の中で、茅咲の宣戦布告を買っていた。
この場でそれを口にすることは無いが、やがて修羅場となることは確定と言っても良いだろう。
聖斗の身を案じて同じ高校に来た茅咲が、自ら場を掻き乱すような行動を起こしてしまっているが、彼女には聖斗との強い繋がりがある。他の女がアクションを掛けても反応を示すことは無いと考えている茅咲には、様々な考えのもとでそういう発言をしたのだった。
そんな女たちの言葉の無い争いに気付くことなく、お構い無しに自分の順番が来た聖斗は軽く自己紹介をする。
「白峯聖斗です。特技というか、軟式テニスを小学生の頃からやってて、この学校でも軟式テニス部に入る予定です」
ここで大きな情報を本人から齎された女子生徒たちは、すぐにその重要な情報を脳内にメモする。そして、この情報は今この場にいるクラスメイトのみに秘匿し、少しでも『氷王』様を狙う他クラスの女子からリードを取る戦法を考え付く。
勿論、茅咲は聖斗がどの部活に入るつもりなのかを事前に聞いていた為に驚くことは無い。彼女も他の女子達と同様にこれ以上聖斗の情報が広まることのないように、暗黙の了解として互いに箝口令を敷くのであった。
そんなこんなでクラスの全員が自己紹介が終わり、この後は軽い説明をした後に解散ということを担任教師の大雅から言われる2組の面々。
ここで少しの休憩を挟むということで、10分後に説明をすると言った大雅が教室を去っていく。その姿が見えなくなった途端に、ほぼ全ての女子生徒が聖斗の机の周りを囲み、質問責めにする。
「聖斗君って呼んでいい? 実は私も軟式テニスに興味あるんだー! 明日一緒に見て回らない?」
「私も私も! 聖斗君と一緒に行くー!」
「ねぇねぇ、白峯君て今彼女いたりするの?」
「どんな人がタイプ何ですかー?」
矢継ぎ早に質問が飛んで来るのに対し、露骨に不快そうな表情を浮かべて聖斗が答える。
「邪魔、どいて」
普段は澱み無い空色の瞳も、今はイライラで少し濁っている。そのまま群がる女子生徒たちを一瞥し、そう言って席を立ってどこかへ行こうとする聖斗。
一瞬でその場の空気が凍り付く。
しかし、『氷王』様は気にしていないのかズカズカと歩いてそのまま教室を後にする。残された女子生徒たちはというと、体と表情がそのままにその場で固まっている。
しかし、しばらくすると彼女たちの時が動き出す。
「か、格好いいいいいい!!!」
「クール男子ってリアルではどうかと思ってたけど、こう心にズキュンとくるね」
「鋭い言葉……良い……」
そこら辺のモブ男子が言おうものなら、その日から女子全員を敵に回すようなことが聖斗ならば許されてしまう。いや、寧ろアリだと判断されてしまった。
中には頬を赤くして、体をくねらせながら息を荒らげている変態もいる。
やはり、世の中は不公平なんだと再認識させられる男子生徒諸君。白峯聖斗許すまじと、クラスの男子の心が一つになった瞬間であった。
そんな光景をつまらなそうに見つめている茅咲。
やはり、自分の親友を見た目だけで判断してしまう軽い人間なんだと、落胆半分と少しの安堵を覚える。
(はぁ、私って嫌な女だな。しょう君を本当に好きになろうとする女の子が現れなくて、嬉しく思っちゃう。こんなこと、しょう君は望んでないのになぁ)
いつか普通に気兼ねなく接することの出来る普通の友人を持ちたいと言った聖斗の顔を思い出す。私がいるから大丈夫と伝えるも、彼は少し寂しそうな顔をしてありがとうと言った。
申し訳ない気持ちで心が一杯になってしまったが、やはり彼のそばを離れたくない。ずっとこの関係に甘んじるつもりは無いが、今だけでも彼を独占していたいという感情が心の隅から湧き上がる。
つくづく自分の性格が悪いと自覚する茅咲であるが、聖斗とはこれまでも、そしてこれからもずっと一緒にいたい。彼にその気持ちが無いことは分かっている。今のままでは親友というポジションから先に進むことは出来ないだろう。
最も近い存在で最も遠い存在。
そんな言葉を思い出す茅咲だが、とりあえずは目の前の障害を吹き飛ばそうという結論に至る。
(しょう君は、私が守るから……!)
そう心に決める茅咲は、固く拳を握りしめて覚悟を決めるのであった。
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