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【エルファバ王子】

 

 ルークナイトと共に、ミセタ国内の領地へと入った。関所をどうやって通るのかと思ったが、ルークナイトは関所の兵士と繋がっていたらしく、驚くほど簡単に通ることができた。ルークナイト曰く、「10年の成果」らしい。

 ミセタ国に入った後は、付近の街で情報を集め始めた。情報を集めていくうちに思ってもないことがこの国で起きていることがわかった。


「王族? エルフィリオ王子は駄目だなありゃ。やっぱりエルファバ王子だよ」


 どうやら街にいる人間やエルフ族以外の魔人は第二王子のエルファバ王子を支持しているらしい。王都以外にはエルフはほとんどいないからエルフがどう思っているかはわからないが。


 話を聞いてみると、エルフィリオ王子は10年前のラグン国との戦争時に大敗を喫している事が原因で嫌われてるらしい。


「あの戦争は息子も行ってたんだ。勝てるはずの戦いだと聞いた。だけどエルフィリオ王子の指揮のミスで息子は死んだ! にも関わらずあの王子の部隊だけは無傷で帰ってきたっていうじゃないか! 何がニヒル隊だ! ふざけるな!」


 こんな感じで戦争に関わった身内がいる人は怒りをあらわにしていた。

 要は勝てるはずの殲滅戦がエルフィリオ王子のミスで壊滅に追い込まれたらしい。


「エルフィリオ王子はいい噂は聞かないよ。エルフ至上主義でね、人間と魔人を毛嫌いしてる。それに、この前の妖狐とかゾンビとか現れた事件も対応が遅くてね。エルファバ王子はすぐにきてくださだったのに」


 どうやら対応の遅さも問題視されてるらしい。王子が軍の指揮権を持っている以上、こういった問題は王子が出動する事もあるみたいだ。そういったときにエルファバ王子がだいたい来てくれる分エルフィリオ王子の駄目さが目立つようだ。

 エルフィリオ王子は嫌われているが、一方でエルファバ王子は好かれてるって事みたいだ。


「エルファバ王子はね、人間と魔人が仲良く暮らしていける世を作ろうとしてくれてるのさ」


 エルフの国である一方で王都以外にはエルフがほとんどいない異質なミセタ国では、人間と魔人は肩身の狭い思いをする事が多いようだ。

 だからこそその垣根を無くそうとするエルファバ王子は国内から支持が多いらしい。

 でもそれってエルフ族からは非難は出ないんだろうか。


 いろいろな話を聞きながら俺達は王都に入ってみた。すると途端に街にいる種族がエルフばかりになる。街には木が生い茂り、木でできた家が沢山あった。都だっていうのになんだか凄い自然が多いな。


 さらに驚くのは、見えるエルフ族は全員美男美女だという事だろう。噂には聞いていたけど本当なんだな。

 魔人のルークナイトと俺が歩いてるだけですれ違うエルフ族から見られたりするけど、気にせずに話を聞くことにした。


「あぁ、エルファバ王子か。人間との共存は少し不安だけど、彼は戦争の英雄だからね。支持してるさ」


 街にいる多くのエルフはこんな意見だった。やっぱりラグンに勝った事がかなり大きいみたいだな。

 情報もそこそこ集まったので、俺とルークナイトは、一旦立ち止まって話を整理した。


「どうやら王子は人気が二分してるようだな」


 ルークナイトはそう言った。


「そうみたいだ。だけどそれが何かの役に立つのか?」

「さぁ。俺が辿り着くべきなのはエルレイア王だからな。何にせよとっかかりが必要だ」

「思ったんだけど、なんでわざわざ暗殺なんて手段を取るんだ? あんたらの実力なら正面突破でも勝てるんじゃないのか?」

「そんな事をしたところで、ゴタゴタしてるうちに目的の王は雲隠れするに決まってるさ。一番の目的に逃げられたら意味ないだろ」

「なるほど。それで、あんたらがエルフ王を恨んでる理由はなんなんだ?」


 俺がそう尋ねると、ルークナイトはあっけらかんと答えた。


「あれ、言ってなかったか。あいつは400年前、魔王様を裏切り、咎人達と手を組んでわざと戦争を起こしたのさ」

「わざと? どういう事だ」

「魔王様は、愛する人を失った悲しみで人間達を襲おうとしていた。だけどその方の最期の遺言はこのせいで争わないで欲しいというものだった。だから魔王様は血の涙を飲んで人間達と和平交渉をしようとした。その時に魔王軍にいたエルレイアが裏切った」


 エルレイア王は400年前魔王軍にいたのか……。


「エルレイアは和平の事を嗅ぎつけると、すぐさま裏で繋がっていた人間達を利用して和平交渉の手紙を人間に届けないように工作した。そして、偽造した手紙を人間に届けて逆上を煽った。それによって魔王様と人間の戦いは避けられぬものとなった」

「なるほど……狡猾な男だなエルレイア王」

「そうだ。奴は人間達に魔王軍の機密情報をばらしていた。それによって戦争は人間達の有利に進み、やがて魔王様は討ち取られた。何故昔は小さな里に集まっていたエルフ族が、こんな国を作り上げたか。それは魔王様を裏切り、戦争を人間の勝利に導いた功績を富裕層から讃えられたからだ。巨額の資金で作り上げた国家なのさ」


 一代で成り上がったってわけか……。とんでもない奴だな。


「じゃあ元々ミセタ国があった場所には何があったんだ?」

「ラグンさ。ラグン王国も元はあんな小国じゃなかった。それをミセタに侵略されてああなってる。その結果今も小競り合いが続いてるってわけだ」

「そういうことか……で? 魔王は今どこにいるんだ。俺が起きた時にはいなかったけど」

「魔王様は別の場所にいらっしゃる。俺たちが気にする必要はない。それよりここからどうやって――」


「あっ、エルファバ王子だ!」


 不意に背後からそんな声が聞こえた。

 見てみると、馬に乗った男が街中を歩いている。金色の髪に長い耳。優しそうな眼をしている。あれがエルファバ王子か。


「街中に現れるとはな」

「おいルークナイト。襲うとか言い出すなよ」

「無理だ。あの周りの護衛を見ろ」


 ルークナイトが言うのはエルファバ王子の周りに4人いる兵士の事だろう。どれもエルフ族のようだが屈強な体つきをしている。


「強そうだな」

「あいつら1人ならなんとかなるが4人は流石に俺でも厳しいだろうな。奴らはどこへ向かうつもりだ?」


 近くにいたエルフに聞いてみると、何やらエルファバ王子は月に一度王都で行われる演奏会を見に来たらしい。

 演奏会が行われる場所へ俺たちも向かってみると、既に多くのエルフ達で溢れかえっていた。


「凄い数だぞ」

「こりゃあ暗殺するにはうってつけだな」

「お、おい。やる気か?」

「しない。別に俺達はあのエルファバ王子に復讐したいわけじゃない。あくまでエルレイア王だ」

「ならいいけど……」


 そんな事を考えていたら、演奏が開始された。エルフ達の自然と調和した音楽。それは心に響く素晴らしい演奏だった。

 そんな中、事件は唐突に起こった。


「うぁぁっ!?」


 1人の男性の声が響く。そしてそれに続くように次々と悲鳴が湧き始めた。どうやら客席の中央のあたりで何かが起きたようだ。エルフ達が逃げ始めている。

 エルフ達が中央から退いてくれたおかげでそこに異常な男がいる事がわかった。


「ふーっ! ふーっ!」


 呼吸が荒く、筋肉が肥大化して血管が浮き出ている。明らかに異常だ。顔もゴツゴツと膨れ上がっている。だが、あのイノシシのような見た目はオークだという事を表してる。

 その男は、剣を持ったままエルファバ王子に向かって突き進んでいった。


「おいおい、あいつやばいぞ」

「まさか俺以外に暗殺を考えてる奴がいるとはな」

「そういう話か? これ」


 エルファバに襲いかかった剣を、彼の護衛が受け止める。


「王子! おさがりください! ここは私たちが対応しま――なっ!?」


 受け止めたはずの剣が吹き飛ばされた。護衛の1人はその場に倒れる。


「あいつ、かなり強いぞ……!」

「チャンスかもしれんぜ。フリード、あんたが助太刀してくるんだ。恩を売って王との繋がりを作る」

「何言ってんだ? あんな強いの素の俺で勝てるわけないだろ。自分でやれよ」

「俺は指名手配されてるからな。バレたら面倒だ。フリードでも勝てる方法ならある。俺と憑依すればいい」

「ルークナイトは俺のしもべでもないから憑依使えないだろ」

「憑依は、お互いに憑依の効果を知っていて、憑依される側がそれを容認していれば出来る」


 そんな裏効果みたいなのあったのかよ。


「わかってるだろうがフリードに拒否権はないぞ。さぁやれ」

「ちっ……まさかあんたと憑依することになるとは――『憑依』!」


 俺はルークナイトに手を置いてそう唱えた。

 瞬間、身体が軽くなる。そして頭から耳が生えた。耳がバレないようにフードを被る。

 さて……やるか。

 俺は、そこから一気に走って襲撃犯の背中に向かって飛び蹴りを放った。


「ぬぅ!?」


 蹴られた事で、オークは大きく吹き飛ぶ。

 かなり俺の力が上がってるな。流石ルークナイトといったところか。


「き、君は?」

「助太刀に来た」


 驚いているエルフの護衛。だが納得はしてくれたようだ。


「ぬぁぁぁあ!」


「ぐぁっ!」

「うぁ!」


 起き上がったオークの攻撃で、2人のエルフがやられた。なんなんだあの異常な力は。

 様子も普通じゃないし、嫌な感じがするぜ。


「俺がやる。あんたらは王子を護っててくれ」

「し、しかし」


 護衛の返事を最後まで聞かずに俺は飛び出した。腰から剣を抜き、オークに振り下ろす。奴はそれを防いだ。剣と剣がぶつかり合う。

 相当な膂力だ。ルークナイトの力を持ってしても圧倒できない。とはいえ若干俺の方が上のようだな。


「はぁ!!」

「ぐぅ……!?」


 隙をついた俺の攻撃がオークの身体を斬りつけた。

 よし、畳み掛ける。


「スノウファング!」


 俺は左手をオークに向けた。そこから雪の結晶のようなものが舞うと、狼の口となってそれが相手を襲う。


「がぁぁあああ!!」


 奴は腹にもろにくらい、血反吐を吐きながらその場に倒れた。

 俺はすかさず倒れたやつを踏みつけながら護衛達に向かって叫ぶ。


「どうする! こいつは殺していいのか!」


「ま、待て! そいつは捕まえて情報を吐かせる!」


 護衛の1人が慌てた様子でこちらに向かってくると、縄のようなものを取り出した。それでオークを縛り付ける。

 憑依が解けるのを感じる。10分経ったようだ。

 敵が捕まったと皆がわかると、見ていた野次馬達が騒ぎ始めた。


「な、なんだあのフードを被った奴は! 凄い強さだったぞ!」

「エルファバ王子の護衛よりも強いなんて……! ありえねえ……!」


 どうやら目立ちすぎたかもしれないな。

 そんな風に思っていると、エルファバ王子が俺の方へと近づいてきた。


「危ないところを、助かった。僕はエルファバという。この恩は忘れないよ」


 握手を求められたのでフードを外して、答えた。なんだか緊張するな。


「私はフリードと申します。エルファバ王子にそう言っていただけるなら光栄です」

「そうかフリード君。よければこの後食事でもどうだい?」


 こんな簡単に食事の約束をしてもらえるとは……。別に俺は断ってもいいんだけどルークナイトが絶対許さないだろうしな。


「わかりました。ご一緒させていただきます。もう1人、魔人の友人が一緒にいてもいいですか」

「もちろんいいよ! じゃあラジアル、そのオークの調査は任せたよ」

「はい、お任せあれ」


 頼まれたエルフの護衛が縛っているオークを連れて行こうとした瞬間、オークは急に目を開いて苦しみ始めた。


「ぐぁぁぁぁぁぁあ!」


「「なんだっ!?」」


 そのままオークは断末魔のような声で叫びながら体を痙攣させる。膨れ上がっていた身体は急激にしぼみ、皺くちゃの老人のような肌に変わった。

 そして、最後は何も発する事なく事切れた。


「死んだ……!?」

「どういう事だ……!」


 このオークが何者だったのか。いったい何が起きていたのか。その場にいた人物には誰も理解ができなかった。

 ただ1つ。何か異変が起き始めていることだけは感覚的にわかった気がする。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
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