【恐怖】
ちょっとタイトル変えてみました。
取り逃がしてしまったルークナイトに関して、俺たちは少しひらけた場所で話し合っていた。
先ほどの殺人によって、奴隷市場のあたりには騎士団達が駆けつけていた。
「どうするのさ、フリード兄ちゃん」
サイドがそう尋ねてきた。
「うーん、そうだな。とりあえずあの様子だと、逃げる気満々だったからな。次は逃げられないようにしなきゃな。あの時は突然すぎて俺たちも慌ててたし」
「そうかー。あの男よりも先回りできたらいいんだけどねー」
先回り、か。つまりはルークナイトの行動を先読みしなきゃいけないってことだ。もしくは次偶然会った時は先手をうって仕掛けるか。でもあいつの力が未知数だからなぁ。相当手練れっぽかったし。
「やってみるか、先読み」
と急にレナートがそう言った。
「え?」
思わず俺はそう訊き返す。
「あいつが次に狙いそうな人物を割り当てて、先回りするんだ。奴が言ってただろう? 俺は無差別じゃなく目的があるって。それなら過去のデータを参考にすれば何か法則性がわかるかもしれない」
「なるほど。やってみる価値はあるかもしれないな。でも今までのデータってどこにあるんだ?」
「ルークナイトは大物だからな。殺人履歴はこの街の騎士団支部にもあるはずだ」
というわけで、俺たちはAランク冒険者という権力を使うに使い、騎士団に取り入った。そして騎士団支部に向かって、過去のルークナイトによる殺人だと思われるものを見せてもらった。
「記録による最初の犠牲者は……9年前。当時80歳の王都に住む貴族だな。剣で心臓をひとつきか。彼の家族も殺されてるようだ」
レナートは資料を見ながらそう言った。
9年前か。レモンとサイドの家族が殺されたのは10年前だったはずだ。つまり、最初の被害者はもしかしたらレモンの一家だった可能性があるな。
「80歳か。何をしてた人だ?」
「現役の頃は宮廷で仕事をしていたらしいな。エリートって奴か」
「ふーん、次は?」
「次は……その1ヶ月後。これまた貴族だ。武器の貿易を生業としてたらしいが」
「今のところ繋がりは貴族って事くらいだな」
でもレモン達の家族は貴族じゃないからな。いったいどんな繋がりがあるっていうんだ?
「次は貴族じゃないぞ。とはいえすごいな。騎士団の元総隊長か。財力でいえば貴族並だろうな」
「うーむ。さっぱり繋がりが見えない」
その後も俺たちは被害者となった人たちのプロフィールなどを見ていったが、住んでる場所や年齢、職業などバラバラで、とても法則性があるようには見えなかった。
「そういえば、さっき俺たちが家を見てきた人って、商人だったんだっけ?」
「それならさっき、私が騎士団の人から聞いたけど、かなり昔から続く商人の家系だったらしいわよ。それこそ何百年も前からね。昔は王都で商売をしてたらしくて、いまでもそのパイプは繋がってたんだってさ」
そうリズが答えた。
「パイプ、か……なぁレナート、1つ思ったんだが、被害者はどれも貴族とまではいかなくても、お金に余裕を持っている人たちだよな」
「そうだが……それが?」
「もしかすると、被害者は昔にせよ今にせよ、何かしらの形で王都に関わっている人な気がする」
「うーむ……確かにな。被害者は王都に住む者や住む場所は違えど王都に関わる仕事をしている者が多い。しかしだからといってそれじゃ対象者が多すぎる。まるで絞れないぞ」
「だよなぁ。あー、もうさっぱりわからん。今日はこの辺にして明日また考えよう!」
「そうだな」
結局俺たちは答えが出せないまま、その日を終えた。適当に宿を見つけてそこで日をまたいだわけだが、朝起きた時に入ってきた情報は、俺たちをあざ笑うかのようなものだった。
それは、この街にいる奴隷商人が昨夜殺されたというものだった。しかも十字の傷入りで。
「おいおい……やられたなこりゃあ」
レナートが額に手を当ててそういった。
「今度は奴隷商人かよ。全く予想がつかないな」
「ああ。やっぱり金を持ってる奴なのは間違いないみたいだが……うーむ、いっそのことこの街にいる他の富豪でも探してみるか? そこに来るかもしれない」
まぁ運任せにはなるけど……やらないよりはましか。そう思って騎士団の人に事情を説明すると、候補として2人のお金持ちがいると言われた。どうやらここ最近の襲撃に恐れた人が護衛依頼を出しているらしい。
どちらかを選んで何日か護衛するという方法をとるのだ。2組に分かれてもいいが、相手はあの強さだ。半分に分かれた場合やられる可能性が高い。
「じゃあこっちの人の家に護衛に行くとするか」
結局どっちを選ぶかはレモンに決めてもらい、その人の家に行くことになったのだが、この時思わぬ人たちが現れた。
「じゃあ余った方は俺たちが護衛させてもらうぜ」
そう言って現れたのはどこかで見たことがあるようなないようなそんな感じの微妙な男達三人組だった。誰だっけこの人たち?
「こいつらはギルドにいた冒険者の連中だよ。大方俺たちの後をつけて賞金稼ごうとでも思ってきたんだろう」
レナートはそう言った。
ああ、ギルドの……。どうりで既視感があったのか。
「へへ、よくわかってんじゃねえか。俺たちゃCランクだ。A級の賞金クエストなんて受けられねえから情報は手に入らねえが、こうして“偶然”犯人に出くわして捕まえたら賞金は俺たちのものさ」
なるほど、賞金狙いってわけか……。まぁ1千万手に入ると聞いたらこういう連中も出てくるか。
「横取りされたようで気分は良くないが、俺たちに権利があるわけでもない。好きに護衛するといい。お前らがあの殺人犯に敵うと思うならな」
「へっ……あんなもんこけおどしに決まってるぜ。それに別に殺せなくてもいいんだからな。捕まえるなら方法はいくらでもあるさ。じゃあな、俺たちは屋敷に行って交渉してくるぜ」
そう言って、男たちは去っていった。
俺たちは俺たちで、もう1人のお金持ちに会いに行かなきゃな。
というわけで、レナートと共に交渉に向かい無事に護衛として一晩俺たちは泊まることになった。そのまま夜は更けていき、警戒を続けていた俺たちだったが、結局俺たちの前にルークナイトが現れることはなかった。
♦︎
同日、深夜。
ある屋敷の玄関の扉は、ギギギと音を鳴らして開いた。その屋敷にはフリードと昼に会っていた男たち三人組が警護に当たっていた。
男たち三人組は、それぞれ一階と二階の別々の場所にいて警護していた。そのうちの1人は、玄関の近くにいた。彼は、しまっているはずの玄関が、隙間風のような音がした後になぜか開いたのを見て、不審に思った。
どこか緊張感を覚えながら、彼は玄関の扉に向かってそろりと歩いていく。扉について、外を覗いて辺りを見渡すが、誰もいなかった。
「なんだよ……驚かせやがっ――!?」
そう言って彼が扉を閉めて、後ろを振り向いた時、彼は見た。二階へと続く階段。それを見知らぬ男が登ろうとしていた。
それはありえない光景だった。屋敷に忍び込むには二階の窓以外ではこの玄関しかない。だが玄関は今自分が見た。にもかかわらず不審な男が既に家に侵入していた。
男は言いようもない不気味さを感じて、腰から剣を抜くと一心に走り出して背中を見せている男を突き刺そうとした。
「あーあ、放っておけば、よかったのに」
男が、目の前にいたはずの不審者の声を自分の背後から聞いた時には、既に彼の胸には不審者の持っていた剣が突き刺さっていた。
ポタポタと垂れ流れる血。
「あ……あ……死ぬ」
男は、ただそれだけいうと不審者が剣を引き抜くと同時に支えを失いその場に倒れて事切れた。
倒れた際に響いた音が、二階にいた後2人の警護を呼び寄せた。
「て、てめえは……まさか殺人犯か!」
「そうだよ、はっは俺がルークナイトだ。あーあ……馬鹿だな、最期だってのに。お前らも昨日のオヤジも。関係ないのに俺に殺されるなんて」
「何言ってやがる! 死ね!」
不審者であるルークナイトに、男たちが襲いかかる共に、あたりには血が飛び散った。
その日、4人の惨殺死体が屋敷に出来上がった。内1人は十字の傷がつけられていた。




