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【ルークナイト】


 遺体の顔を見る。

 やはり先ほどの太ったおっさんに間違いない。しかし何故殺されたんだ。


「レナート。これは……」

「この無残な切り傷。それに緑髪の目撃もある。ルークナイトの可能性が高い。だけど……十字の傷はなさそうだ。どういう事だろう」


 そもそもこんなところで殺されたならその瞬間を誰かが見てるはずだよな。


「なぁあんた。殺人の瞬間は見てたか?」


 俺は野次馬の1人にそう話しかけてみた。


「あ、ああ。その死んでる男が、何やらイライラした様子でこの奴隷市場に入ってきたんだ。それで歩いていた緑髪の獣人にぶつかちまった。そしたら少し口論になったみたいなんだが……少しして、獣人が何かをしたらその男が血を出して切り刻まれていたってわけだ」

「凶器は使ってなかった?」

「何も使ってなかったぜ。なにかこう、手で引っかくような動作をしたら血が吹き出たんだ」


 手で引っかく……何かの魔法か。


「種族はわかった?」

「いや……頭に耳が付いてたんで獣人とはわかったが……ありゃ何族だろうな。犬か猫か、狼か……まぁそんなところじゃねえか?」

「その後犯人はどこに行ったんだ?」

「悲鳴に紛れてあの曲がり角を曲がっていったよ」

「そうか、ありがとう……なぁ、レナート」

「ああ、追ってみよう」


 俺たちは、そのまま曲がり角を曲がって、目撃情報を聞きながら奴の痕跡を辿っていった。


「緑髪の男なら、ついさっきそこの路地裏に入っていったよ」


 その情報を元に、急いで路地裏に入る。だがそこは少し入ると行き止まりで、人は誰もいなかった。


「逃げられたか」


 レナートがそう呟いた瞬間だった。


「よぅ……さっきからなんだあんたら? 俺に何かようか?」


 背後から聞こえた男の声に、俺たちは驚いて振り向いた。

 そこには、いた。

 緑髪の長髪に、獣人の耳。つり上がった挑発的な目をしているが顔は整っている。年齢は、若く見えるが……確か10年ほど前から犯行を繰り返しているのだから、30はいっているのだろうか。


「……お前が、ルークナイトか!?」


 レナートがその男にそう問うと、男はきょとんとした顔をしたかと思えば、不敵に笑い始めた。


「あんたら賞金稼ぎか何かか。だとしたらおめでとう。その通り、俺がそのルークナイト・サンタナだ」


 ルークナイトは、そう言い切った。

 こいつが……無差別殺人の、犯人! サイドとレモンを襲った……。


「あんたが……あんたがぁぁぁあ!」

「姉ちゃん!」

「レモン!?」


 レモンは、ルークナイトが名乗るなり携帯していた短剣を振りかざして彼に襲いかかった。

 まずい! レモンは周りが見えなくなってる。


「なんだこのお嬢ちゃんは」

「ああっ!」


 ルークナイトは、向かってきたレモンを軽くあしらって体勢を崩させた。


「子供が刃物なんか持ってるのは危ないよ。持ってるとほら、こんな風に、頭に穴が空いちゃうぜ」


 そして彼女が落とした短剣を拾い上げると、倒れたレモンに向かってそれを突き刺そうとする。


「『アイス』!」


 俺がレモンに加勢に行く前に、ノンが魔法を唱えていた。ルークナイトの剣を持った手が凍りつき、その動きが止まる。

 その隙に、素早く動いたテンネがレモンを救出していた。


「大丈夫かにゃ? レモン」

「え、ええ……ありがとう」


 まだあまり何が起きたのかレモンはわかってないようだ。


「へぇ、氷。珍しいな」


 パキッともう片方の手で氷をすぐさま壊し、手を解放させるルークナイト。


「あんたら、そこそこやるみたいだな。楽しめそうだ……けど、悪いが俺はあんたらに構ってるほど暇じゃないんだ。ここら辺で失礼させてもらうよ」

「何を言ってる。お前は殺人が目的の無差別殺人犯だろう。何故俺たちから逃げる!」


 レナートが、そう言った。

 するとルークナイトはやれやれといった様子でため息をはく。


「俺は別に無差別殺人なんかしてるつもりはないぜ。ちゃんと目的がある」

「罪もない人を殺している癖に何を言っている!!」

「罪もない……? それはどうだろうな」

「どういうことだ!」

「あんたに説明する義理はない。じゃあな」

「おいっ」


 レナートの制止も虚しく、ルークナイトはそのまま路地裏から出て行った。俺たちも出て、辺りを見渡すが、そこには既に彼の姿はなかった。


「ちっ……いない」


 レナートは悔しそうにそう言った。

 ルークナイト、か。見ただけでわかった。あいつは強い。これはかなり厄介なクエストになりそうだ。

 ふとみんなを見ると、ホムラが何か考え込んでいた。


「どうしたホムラ」

「ふむ……あの男、どこかで見た記憶があるような……そんな気がするのじゃ」

「記憶って……お前の場合400年以上前に会ったことになるけど……そんな生きてる魔族ってあんまりいないだろ?」

「うーむ。どうだったかのう。まぁよい。そのうち思い出すじゃろ」


 その後もホムラは首を傾げながら記憶を頼りに思い出そうとしていたようだが、結局思い出せなかったようだ。

 レモンの方を見ると、なんとも悔しそうな顔をしていた。軽くあしらわれた事が効いたんだろう。


 さて……これからどうしようか。


 ♦︎


 フリードとルークナイトが出会った日の夜のこと。

 どこかにある薄暗い室内で、ひとりの男が小瓶を持って眺めていた。

 緑色の髪を持つ男。ルークナイトだった。


 彼が眺めている小瓶には赤色の液体が入っていた。それは、紛う事なき血液だった。

 彼は、小瓶の蓋を開けると、おもむろに床に座った。彼の目線の先には倒れた人間の姿があった。その人間は既に死んでいた。


 ルークナイトは、十字の傷が付いている胸のあたりに指をあて血をつけると、その血を小瓶に一滴だけ垂らした。そして小瓶の蓋を閉める。


「あと少し、だな」


 彼はそう言って立ち上がると、音もなくその部屋から出て行くのであった。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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